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26話

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「なので、私と夫婦のふりをしてくれませんか? それならバレにくいんじゃないかって」
「ふ、夫婦!?」

 やっぱり驚かれるよね。
 そりゃそうだ。
 私もびっくりしたもの。

「えっとですね」

 しかし悪い案ではないのだ。
 アーキさんとマチトさんに相談した時言われたことを、そのままルイさんに伝えた。

「なるほど……店の資金にもなるし、身を隠すのにも使えるんですね」
「はい、どうでしょうか」
「うちはいいですよ、別に。二階に使っていない部屋もありますし——あー、まあ、片づけないととても住めないんですけど」
「え?」
「え?」

 住む?
 思わず聞き返すと、聞き返されると思わなかったのか逆に首を傾げられた。
 けれど、住む、と聞いてはっとした。

「そ、そうか! 住む場所!」
「え、うちに住む話だったんじゃないんですか?」
「ぁぁぁぁぁぁあ! ……い、いえ、そ、それもそうだな、と」
「ええ……?」

 そうだ、今寝泊まりしている部屋はお宿の従業員さんたちの仮眠室。
 いつまでもあの部屋に住んでられるわけない。
 あまりにも居心地よくて忘れていた。
 それに、結婚するってことは、ルイさんと一つ屋根の下ってこと。
 いえ、さすがに相手は元勇者だし、そんな、襲われるようなことはないと思うけれど!

「か、鍵……」
「はい?」
「か、鍵はついてます、よね?」
「部屋ですか? ついてますよ」

 変な質問だっただろうか?
 けれど私には重要なことだ。
 だって、一応未婚の女なので。
 子持ちだけど。
 い、いえいえ、さすがに元勇者を信用してないわけではないのよ?
 でも、一応、一応ね?
 鍵がついていても家主は彼だし。
 結婚と言っても形だけ。
 ふりだし。
 そう、夫婦のふり! 結婚したふり!

「えっと、改めてですけど、こちらに私とリオと、あとコルト……住んでもいいんですか?」
「俺は構わないですよ。コルト——猩猩は俺のことあんまり好きじゃなさそうだから、それは申し訳ないというか」
「いえいえ! 多分昨日、威圧を受けて驚いてしまったんだと思います。とても人懐こい子だし」

 なにしろ行き倒れている私のお乳をせがむほどだ。
 ただ、アーキさんにコルトは歯も生えてきているのでお乳は卒業した方がいいと言われた。
 最近はバナナをすり潰して、少しだけ水を加えた離乳食を食べてる。
 お猿の子どもの生態とか、私よくわからないから本当にアーキさんには助けてもらっているなぁ。

「あー、昨日の、あれはそのー……」
「私を異世界から来た人だと思ったんですよね? コバルト王国の刺客的な……」
「子連れだったのでさすがにそれはないと、頭ではわかってたんですけど……。やっぱり咄嗟に……本当にすみませんでした」
「いえ、仕方ないです。……多分私も……コバルト王国から来た、って言われたら身構えます」

 それがたとえ、私と同じ『異界の子』を産んでコバルト王国から捨てられた女性であっても。
 自分の目の前にそういう人が現れたら、どうしても警戒心が先立つだろう。

「……そうか……」
「?」
「アーキさんの言う、身を隠すのにもいいって、そういうことか。人間は珍しいけど、俺たち以外にまったくいないわけではないみたいだし」
「そうなんですか?」

 この国には、他にも人間が?
 ルイさん曰く、一つの町に一人か二人程度。
 まったくいない町もある、らしい。
 そういうことならアーキさんの提案はますます現実的というか、有効な気がする。

「聞き込むにしても男一人、子連れの女一人ではすぐわかってしまうもんね」
「そうですね」
「国境沿いの川——この町の近くのあの川の向こう岸の森は俺が結界を張っているけれど、別のルートからこの国に入ることは無理ではないはずだし……うん、俺もそれは助かる」
「他にもやっぱり入国ルートがあるんですか……」
「簡単ではないと思う。空路と陸路だから」

 曰く、この国への最短ルートはやはりあの森を抜け、川を渡る方法らしい。
 ルイさんが壊すまで、ご丁寧に橋があったそうだ。
 この町の近く、あの森の付近は川幅が狭く、流れも穏やかな上、川の深さも他の場所より浅いため人間は何度壊しても頻繁に進軍のための橋を架けてきたらしい。
 他のルートは魔物を使役する魔物使いに、乗り物となる鳥型の魔物を大量にテイムさせる。
 これはかなり現実的でないらしく、残されているのは川を迂回する陸路。
 しかしこれも何十キロと遠征しなければならず、五年足らずの準備では到底無理。
 川沿いにもっと補給地となる町や村を作り、ある程度栄えさせなければダメらしい。
 コバルト王国は川に橋を架けて攻め込む、もっとも簡単でお金のかからない方法を主軸としてきたため、今からそれをするにしても次の進軍は十年か十五年後だろう、とのこと。
 すごい。

「ただ、それは結界が機能し続ければ、の話」
「! そうか、コバルト王国は五年置きに異世界人を召喚していますもんね……!」
「マチトさんがたまに森を見に行ってくれてるんだけど、他の方法としては川に船を浮かべて攻め込んでくるやり方もあるにはある」
「ふ、船」
「でも、これも建設に時間がかかると思う。漁船と違って武装しなければならないし、少なくとも森の側は俺の結界が阻むからもっと上流か……あるいは下流。どっちも町はないから、その辺りの調査も必要だし」

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