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27話
しおりを挟む「結界が無事なら十数年は大丈夫ということですね」
結界様様すぎる。
私とリオ、あとコルトの安全な生活は、まさしく結界にかかっていると言っても過言ではないのだ。
十数年ならば、リオも十代半ばとなっているだろう。
自分の身は自分で守れるように、『討伐者』の人たちに戦い方を教わればリオだけでも生き延びられるようになるかもしれない。
この子には幸せになってほしいから、自分の生き方を自分で選べるように……なってほしい。
その選択肢を、一つでも多くできるようにするのが親の——私の役目。
りお、今度こそあなたをちゃんと育ててみせる。
自分で自分の生き方を選べるようになるまで、私が守るからね。
「……オムライス本当に美味しい」
「それはよかったです」
「いくらくらいで売るの? これならアーキさんのところよりも、少しお高めにしても売れると思うな」
「えっ」
それは褒めすぎではなかろうか。
と、思ったが、また自分の無知さに気がつく。
「あ、あの、この国の通貨って……コバルト王国とは、やっぱり違うんですかね?」
「あ、そうか! ティータさんはこの国に来たばかりですもんね。この国は基本物々交換なんです。だから料金は“材料”にしてみたらどうでしょう?」
「材料……!」
たとえばこのオムライス。
オムライスに使う材料を、自分で採ってきてもらうってことか。
うーん、家庭料理の域を出ない私には、ちょっと難易度高そうだな。
けど、それなら材料も余らなくていいかも。
「あれ、それじゃあルイさんはいつもなにを食べてるんですか? ルイさんも自分で採ってきているんですか?」
「俺はこの家の裏に庭があるので、そこで野菜を育ててます。まだあんまり上手く育てられなくて、すぐ枯らしてしまうですけど」
「畑があるんですか?」
宿から来ると、湖畔に沿うように入り口があるからな。
樹の裏側に畑があったのだろうか?
「見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ? こっちです」
厨房の勝手口から玄関と反対側の裏庭に出る。
するとなるほど、整地してあり、ざっくり掘り返されたような畑らしき場所があった。
う、うん、雑草に侵食されつつある……なんてもったいないの。
湖畔がすぐ近くにあるから、飲み水にできるよう貯水槽と水を綺麗にする浄化槽が木に埋め込まれるように設置してある。
蛇口があるのであそこから畑に水を撒けるようになってるんだ。
用水路を引けば畑を広げることも難しくなさそう。
なかなか至れり尽くせりの設備なのに、この有様とはなんて!
「今はなにを植えてるんですか?」
「えーと……ナンダッケ……」
「わかりました。とりあえず畑は手を加えたら色々作れそうです」
「ほ、ほんと? あ、手伝いならやるから、言ってほしいです!」
「もちろんお手伝いいただきます」
畑よし、水よし。
結局ルイさんの収入源はよくわからない。
でも家に戻ると、「俺の収入源はこれ」と魔石を見せてくれた。
しかも、多種多様な魔石!
「すごい……こんなにたくさんの魔石……どうやって!」
「勇者のスキルの中に【魔石精製】というものがあるんです。普通の石に魔力を注ぎ続けると魔石になるっていう」
「えぇっ、す、すごい! そんなことが!? じゃあもしかして魔力蓄積の魔石も自分で作れたり……!?」
魔力蓄積の魔石は、国の至宝だ。
なにしろそれに魔力を貯めて、異世界から勇者や聖女、賢者を召喚するのだから。
それが作れたのだとしたら、コバルト王国で呼び寄せた勇者たちをそのまま送還できる!
「いや、さすがにあれは別物ですね。魔石の大きさもこのぐらい必要で、注ぐ魔力も半端じゃない。魔石の純度も非常に高くしないといけなくて……俺の全魔力を半年くらい注いでやっと作れるって感じでしょうか。石によっては高魔力を大量に注ぐと壊れてしまうものもありますし」
「……すっごく疲れるんですね……」
「そうですね……すっごく疲れますね……」
勇者の——それも【経験値五倍】の勇者の魔力を注ぎ続けるなんて想像しただけでも凄まじい。
きっと私みたいな平々凡々の人間が何千人、何百年もかかったって作れない代物なんだろう。
やっぱり魔力蓄積の魔石はすごいものなのね。
コバルト王国でも過去、伝説級の巨体を持つ三つ首のドラゴンを倒して、その頭から手に入れたというもの。
そう、コバルト王国に魔力蓄積の魔石は三つあるという。
ただ、その三つはフル稼働しても五年ごとに一人の異世界人しか召喚できない。
魔力を貯めるのに、どうしてもそれぐらいかかる。
城の魔法使いの魔力にも限界があるからだ。
「でも、熱の魔石や氷の魔石は料理にすごく使うので助かりますね」
「オルゴールよりこちらの方がよく売れます」
「でしょうねぇ」
ちなみに、作ってはマチトさんのお宿の方に卸しているそうだ。
そうしてマチトさんとアーキさんからご飯をもらっている、というわけだったのね。
自立したいから、二人のお世話になりたくないとは言っているけど……どうしても伝手があの二人しかいないという。
うーん、悪循環。
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