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28話
しおりを挟む「オルゴールの店をやれば、お客と顔見知りになってもう少し二人から自立した大人になれると思ったのになぁー」
と、子どものようにぶーたれてカウンターの上に上半身を伸ばす。
本当に、子どものまま体だけ大きくなってしまった人なんだろうな。
その様子を見ていて、かわいいな、と思う。
息子がいるから余計にそう思うんだろうか。
「そんなに簡単に大人にはなれませんよ」
四十歳で死んで、“アンジェリカ・トイニェスティン”として生まれ変わって十六年になろうとしている。
それでも私は未だ自分が“大人”になったとは思えない。
不思議なもので、年を重ねれば重ねるほどそう思う。
特にアンジェリカとして生まれてから、肉体年齢に引っ張られている感覚が強い。
前世で四十年生きた記憶は、科学についての情報が引き抜かれて曖昧になっているのも手伝って、己の成熟さにはあまり役立ってないように思う。
そもそも、大人ってなんだろうね?
体が大人になることを大人と呼ぶのなら、確かに私たちはこれより成長はしないだろうから大人と呼んでも差し支えないんだろうけど。
自立した人をそう呼ぶのだろうか?
だとしたら、私も彼もやっぱりまだ子どもだろうな。
「ティータさんは前世の記憶があるのに、まだ自分のこと大人じゃないって思うんですか?」
「思いますね。肉体年齢に精神年齢が引っ張りれているような感覚もあるので。昔の自分と比較しても、昔の——前世の自分が大人だったか、とか思うと……そんなこともないような」
「えー」
不満そうな声を漏らすルイさん。
でも、五十五年分の記憶がある私でさえ自分が大人になった感じがしないんだもの、きっとルイさんはもっとそんな気がしないんだろうな。
「でも、自立して生きていきたいのは私もです。リオに恥ずかしくない人間になって、リオにも自分で誇れるような人生を送ってほしい」
どうかこの子にたくさんの選択肢を与えられるように。
うん、そのためにもやはり自立!
「だから、ルイさん。改めて……私と夫婦になっていただけませんか?」
「! ……はい、もちろん。ティータさんのオムライス美味しかったですし」
オムライスかぁ。
思いの外効果が抜群だったみたい。
「ティータさんの考え方、かっこいいです。俺もそんなふうに思える人間になりたい」
「へ?」
「だから近くで勉強させてくださいね。……あ、それじゃあ夫婦っぽく、敬語はやめにしない?」
「あ、そうですね——いえ、そうね」
夫婦なのに敬語は変だよね。
でも、出会って二日目で夫婦になろうなんて、やっぱり少し抵抗があるな。
いやいや、これもリオのためよ。
やるのよ、私!
「それじゃあ二階の空き部屋片づけてくるね」
「うん、ありが…………いえ、私も行くわ」
「えー」
信用していないわけではないのだが、厨房の洗い場を見るとどうしてもね。
どうしてもね!?
なにはともあれ、私とルイはこの日夫婦になることになった。
それをアーキさんとマチトさんに報告して、役所に届けを出しに行く。
この国は私たちのようなワケアリの人間以外、みんな『入れ物』であるため、戸籍のようなものはない。
それでも届けを出しに行くのは、一応町の住民の把握のためだという。
町長さんに挨拶はしないのだろうか、とアーキさんに聞くと「まあ、基本町にいないしねー」とのこと。
町にいない町長さんとは……?
それに、かなりの大金がもらえる。
記録に残しておく必要があるんだろう。
「……ところでルイさんにこの国は基本物々交換だと聞いたんですが、祝い金というのは……」
役所にアーキさんとマチトさん、ルイさんとともにやってきて、リオとコルトを背負ったままちらりとカウンターで届けを受理してくれた犬の獣人を見る。
祝い金を用意するから、ロビーで待っていてくれと言われているのだ。
やっぱり普通にお金がもらえるのかしら?
「お金だよ」
「やっぱりお金があるんですか?」
「あるけどあんまり使わないんだよね。価値がないわけじゃあないんだけど」
お金の価値が高くないと言われると、店の備品を買う時に不安なんですが!
「お待たせしましたー。こちらになります!」
「えっと……これは?」
受付さんに差し出されたのは緑色の中型の魔石だ。
緑色ということは、植物の魔石ね。
これを畑の土の中に埋めておくと植物がよく育つ。
しかも中型ということは、かなり長期間使える。
「この国のお金は中型以上の魔石なんです。ルイさんは魔石を作って売ってくださってますけど、日常使い用の小型だけです。中型以上の大きさの魔石は資格が必要で、そのほとんどがオーダーメイドですからね」
「へ、へぇー」
受付さん曰く、魔石はお金の代わりになる。
生活が便利になるから、みんながほしがるものなのよね。
けれど魔石は普通の石から精製する【魔石精製】以外だと、魔物、もしくは邪霊獣を倒して採取する他なく、【魔石精製】はレアスキルに部類されるから持っている人は珍しい。
さらに中型を作れる人は限られているので、資格を与えて居場所を把握し、必要ならば護衛がつく。
魔石は物によっては攻撃に使える物もあるし、犯罪者に誘拐されてしまう可能性もあるためだそうだ。
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