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41話
しおりを挟む「ア、アンジェリカちゃん!」
郁夫が少し動いたおかげで、首から逸れ、肩を突かれる。
勢いのまま後ろに飛ばされ、テーブルを倒しながら床に転がった私。
その私にとどめを刺そうと、兵士が全員で私を取り囲む。
痛い。熱い。
脂汗が体中から噴き出す。
血が流れ、頭がうまく働かない。
~~♪ ~~~~♪
「……!」
その時だ、私の手から落ちた小箱の蓋が開く。
オルゴール……。
曲はゲームの主題歌だったはず。
私もよく知らないけど、CMで流れていたのを聞いた記憶が微かにある。
白い小箱が光を放ち、それが円形に大きく膨れ上がった。
私を包むように大きくなった光は、兵士たちを弾き飛ばす。
怪我の痛みも瞬く間に引いていき、見ると血は残っているが怪我そのものは消えていた。
治癒の魔法?
そんな効果も持たせてくれていたの?
「お、お前ら、なんてことを!」
「ちょっとちょっと、どーゆーつもり!? あたしらその子に怪我させろとか、命令してないんだけど!」
「国王陛下よりのご命令です。この娘は勇者様を突き飛ばそうといたしました。我々は攻撃を受けたのです」
「ええ、これで“口実”はできました。お疲れ様でございます、勇者様、聖女様」
「さあ、一路王国へ戻りましょう! この娘はこちらで処理しておきますので」
「処理!?」
まだ痛みが残っている気がして、朦朧としながらも上半身を起こす。
迂闊だった……さっきの私の郁夫への態度は、コバルト王国側にとって「攻撃した」になるのか。
忌々しいぐらいのこじつけだけれど、向こうはそれで大義名分を得たことになる。
攻撃されたから、正当防衛だ、って。
兵たちが郁夫と近藤さんを守るように囲い、店から出ようとする。
「ちょっと! さすがにその理屈は通らないって! それじゃまるであたしらが戦争の引き金作ったみたいじゃない!」
「アンジェリカちゃん! あの、あの! 違うんだ! 俺たち、この国の調査に来ただけで!」
「……あなたたちの事情なんて、コバルト王国には関係ないわ。前の勇者も、だから裏切ったのよ……。言ったでしょ、コバルト王国は虐殺者なの……あなたたちも殺されないように……気をつけてね……」
「っっっ!」
郁夫。
私の話を、あなたは一度も聞いてくれなかったわね。
だから私の忠告を、あなたが聞くとは思わない。
でも近藤さんは、郁夫よりは判断能力がありそう。
あなたたちがこの人たちのような虐殺者にならないことを、切に願うわ。
ルイのように、ならないことを。
「よし、これを始末して急ぎ報告だ」
「ああ」
「結界魔法のようだな」
「だがまあ、こんなに弱ければ突貫魔法付与で十分貫けるだろう」
「世界の理から外れた者は等しく処分する」
「無垢な魂に戻り、『入れ物』に入り救済を待つがいい」
槍に光が灯る。
私の状況は、ちっとも良くなっていないらしい。
でも、いいや。
私がここでこの人たちを引きつけておけば、リオとコルトには気づかれない。
私を殺せば満足して立ち去るだろう。
急いで戻って伝えなければいけないものね、戦争を始めるために。
「…………」
幸せだった。
前世からの夢だったカフェもできて、まともな人に恋もできて。
ただ、ひとつだけ。
リオ……リオハルト、ごめんね。
でもこの国にいれば、この国の人ならあなたを必ず守り抜いてくれるから。
どうか強く生きて。
「ぎゃっ!」
「!」
「なにっ、貴様——ぐぁ」
声と同時に兵たちが倒れる。
顔を上げると白い鎧を纏ったルイがいた。
眼鏡もなく、黒かった瞳は金に。
赤いマントを靡かせて、白銀に輝く剣を携えて。
それは、まるで——おとぎ話に出てくる勇者のよう。
ああ、違う。
ルイは勇者。
この世界に異世界から召喚されて、騙されて、この国の人々を虐殺し続けてしまった……可哀想なひと。
「ルイ……」
涙が出た。
彼の姿が見えるだけで、こんなにも安堵してしまう。
よろよろ立ち上がると、ルイが近づいてきてくれた。
「怪我は?」
「結界を作動させたら、治ったわ。まだ少し、痛む気はするけれど……」
「幻肢痛は仕方ないね。すぐ治ると思うけど……リオたちは?」
「キキー!」
「リオ! コルト!」
駆け寄ると、コルトがしがみついてくる。
リオはベッドの中ですやすや。
よかった……。
「あの、ルイ……マチトさんは……」
「連れて帰ってきたよ。町の中にかなりの兵が侵入しているね」
「えっ、そ、それじゃあまさか……」
「つまらない理由をこじつけて、間もなく攻め入ってくるだろう。召喚されてきた勇者がどれほどのものかはわからないけれど、数で攻められてはたまらない。俺の体はひとつしかないから」
「っ……」
応戦すれば、ルイは勝てる自信があるんだろう。
けれど、あちこちで虐殺が行われたらいくらルイでも手が回らない。
でもそれなら……。
「町民をどこか一ヶ所に集めましょう。そしたら守るのは一ヶ所でいいでしょう?」
「うん、でも、町の人たちは言うことを聞かないと思う。以前もそれをやろうとして、『死ぬのなら家で死にたいから』と頑として動かない人ばかりだったんだ」
「……そ、そう……」
私が考えることなんて、ルイはとっくにお実践済みだった。
でも、そうなるとどうしたらいいのだろう。
なにか他に町の人を助ける方法は……。
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