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42話
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「……?」
視線を感じて、見上げる。
ルイの、深い色味の金の瞳。
なんとなく、ルイが眼鏡をかけていたのはこの瞳を隠すためだったのではないだろうか、と思う。
そして、その瞳にはなにか……決意のような、躊躇のような……その両方が宿っている。
「なにか、あるのね?」
ルイには、奥の手のようなものが。
けれど、それを使うとルイになにかマイナスなことがある。
もし、ルイに辛いことが起こるのなら、止めたい。
町の人を助けて、ルイも助ける方法。
私なんかに思いつくとは思えないけど、ルイだけにすべてを背負わせたくない。
「ひとつ、方法があるんだ」
「どんな方法?」
「人間をやめる」
人間を、やめる。
人間を、やめる?
最初聞いてすぐには、理解の追いつかない言葉だった。
ルイが口にしていた、これ以上強くなったら人間をやめることになる、というあれのこと。
「え、そ、それは……」
「戦闘レベルは上限があって、異世界人はそれを突破することができるらしいんだ。そして、限界突破したら生物カテゴリが変化する。前例があるんだって。コバルト王国の国王様が教えてくれたよ。そうして限界突破して、生物カテゴリが人間でなくなった勇者や聖女は神——この世界の足りない部分のシステムに組み込まれるんだって」
「…………組み、込まれ、る……」
「一度滅んだこの世界には、不足しているシステムがまだまだたくさんあるからね。でも、そのシステムになるには一定のレベルが必要なんだよ。だから俺が人間をやめれば……神になれば……この世界に決定的に足りないシステムに——輪廻転生のシステムになれるかもしれない」
「っ……」
ルイ……多くの命を奪った、その償い、ということなのだろうか。
でも、それは、あまりにもひどい。
異世界に召喚され、親からも引き離されて、殺したくて殺したわけじゃないだろうに。
まだ成人年齢にも達していない男の子が、どうしてそこまでのことを選択しなければいけないのだろうか。
体が怒りで震える。
『アレンクォーツアース』、本当にこの世界の人類に、そこまでの価値があるというの?
「……でも、確実に輪廻転生システムになれるかどうかは、わからない。そこは賭け。それに、上手く行ってもコバルト王国とドルディアル共和国にそれをどう理解させるべきか……」
「…………結界」
「え?」
「結界、迷いの、結界で、分断することはできないの? 王国兵と町の人を」
「!」
だめよ、そんなの。
させない。させられない。
上手くいくかもわからない、上手くいっても伝わるかわからない。
そんな賭け、あなたにさせられないしさせたくない。
だから、同じ賭けをすならあなたを失わない方を。
「……できるかも」
「本当!?」
「うん、そうか、ちょっと思いつかなかった。森でなく町にか。やってみよう!」
「! ええ! 私、町の人に食事を作るわ!」
「うん。じゃあ、この辺りに町の人たちを誘導する。王国兵は町の外へ」
「なにか手伝えることはある?」
「じゃあ、オムライスが食べたい」
にかっと笑ったルイに、今度こそ心から安心できた。
解決しそうなんだ。
その自信があるんだ。
そして、終わったら私のオムライスが食べたいと言ってくれる。
「ええ、任せて。とびきり美味しいのを作ってあげるから」
たとえ焼石に水だとしても……目の前で知り合いが死ぬ方がつらい。
コバルト王国で生まれることもできない子どものことを考えると、やはり今のままではいけないのだろう。
けれど、でも、今は……まだ。
今回だけは、どうか許してほしいの。
もう少し……この子が、一人で立って歩いて行けるようになるまでは。
***
それから、私は生き延びた郁夫と近藤さんという伝手を手に入れて、兄に連絡を取ることに成功した。
兄はクリステリア王女と結婚。
クリステリア王女を幽閉し、コバルト王国の国王になった。
リオは順調にドルディアル共和国で育ち、今年十五歳となる。
この国では十五歳で成人という扱いだから、私は、ルイと共に神になることにした。
愛しい、大人になったリオを抱きしめて……近藤さんから返してもらった【召喚】で郁夫と近藤さんを還してあげることになっている。
本当に立派になって……。
「母さん……」
「元気でね、リオ。あなたなら私たちがいなくても……幸せになれるって信じてるわ」
「っ、父さん……」
「ドルディアル共和国とコバルト王国を頼んだよ」
「うん……」
ルイと手を繋ぐ。
メガネを外したルイの瞳が金に変わり、私と向かい合うように両手を繋いで目を瞑る。
二人の腕で輪を作り、微笑む。
『承認。進化を確認』
「アレンクォーツアースよ! 輪廻転生のシステムに、俺とティータを変換、組み込んでほしい!」
『承認。変換、および接続を開始』
後悔しない?
と、何度も聞かれた。
私は後悔しない。
ルイだけ逝かせはしない。
私もまた、異世界からの転生者だもの、資格はある。
限界突破はしなくとも、彼の補助機として使い道があるはず。
「ずっと一緒にいようね」
「ええ」
「愛してるよ」
「私も、あなたを愛してるわ、泪」
のちに、聖神ルイと女神ティータの夫婦神——そう、呼ばれるようになる私たち。
ずっとずっと、この世界を見守るわ。
あなたが生きるこの世界を。
お母さんは、ずっとあなたの幸せを願ってるわ、リオハルト。
終
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略奪。ꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬ
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