ハクラと銀翼の竜【ライト版】

古森きり

文字の大きさ
6 / 47
双黒の王子

【6】

しおりを挟む
 

 ヤベェ、なんか涙出てきたぜ。
 俺、昨日一日だけで…フレデリック様にものすごい尊敬と理想と夢を抱いていたんだな…。
 気付かなかった…。
 た、立てない…立てねぇよ…。

 ぐぅぐぅ。

 しくしく。

 その部屋にはしばらく、そんな音が続いた。


「おーい、チビ! フレデリックは起きたかよ…ってなにやってんだ?」

 それからどれくらい時間が経ったんだろう。
 痺れを切らしたジョナサン様が入ってきた。
 因みにノックはない。
 そして、ちゃんとズボンは履いてくれている。
 ズボンは。
 上半身は裸のままだ。
 いや下半身が隠れただけましか?

「……だって…フレデリック様が…」

 俺の中のフレデリック様が~~っ!

「スゲェだろ? 起きてる時との差。ほっとくと平気で夕方まで寝てるんだぜ?」
「……⁉︎」

 確信犯かよ!

「寝汚ぇんだよ、この人。普段きっちりし過ぎてるせいか、寝てる時はとことん無防備になる。…はぁ、やっぱ慣れねぇ土地で慣れねぇ人間が部屋に入っても起きねぇか。まぁ、起きねぇよなぁ…」
「…い、いつもどうやって起こしてるんだ?」
「起こせねぇよ。いつも着替えさせてから寝てる間に飯食わせて昼頃起きるのを待ってるんだ」
「昨日は⁉︎」

 俺をこの人が買ったのは早朝だぞ‼︎

「昨日はそもそも寝てねぇ。この街についたのが深夜だったからな…宿も取れなかったんだ。だから街を見て回って…そしたら朝、お前が俺たちを指差して大声で…」
「…え、じゃあ…やっぱり二人は海から来たのか⁉︎」
「ン? …ああ、まあな。けど、俺たちは別にお前の言うような魔法の国ってのから来た訳じゃあねぇぜ。多分な」
「多分って…どう言う意味だよ?」
「お前の言う魔法の国ってのが、俺の考えてる魔法の国ってのとはきっと違うって意味さ。俺からすりゃ、科学の進歩したこっちの大陸の方がよっぽど魔法の国だからな」
「………。ジョナサン様たちの国には機械がねぇのか?」
「なくもねぇが、ここにあるようなもんはねぇな。あと、様付けはやめな。城でもねぇのに様付けで呼ばれるのは勘弁だぜ」

 …ん?
 城?

「二人は城に住んでるのか?」
「…おっと、口が滑っちまったか? …(…さすがは『英雄の資質』のあるガキだ、いいところに目を付けやがる…)…言っておくが、城なんてのは俺たちの国じゃあ珍しくもなんともないんだぜ? 大昔は砦だった城も数多く残ってるからな…」
「いや! スッゲーよ! 城に暮らしてるなんて王子様みてぇ!」
「…………。…そうか? 俺ァ柄じゃあねぇだろうが」
「そんな事ねぇよ! 確かにフレデリック様の方がいかにも王子様っぽいけどさ、ジョナサン様だって食器の使い方やテーブルマナーってやつ? 完璧だったぜ? 育ちが良いんだろうな~って、思ってた!」
「‼︎ ……よく見てたな…」
「まぁな! 俺たち奴隷を買うのは金持ちだから、立ち振る舞いっつーの? そういうのはなんとなく分かるんだよ」

 俺が今まで見て来た中でも、二人の気品はそりゃあ上級なもんだ。
 ジョナサン様は一見荒くれ者っぽいが、育ちの良さがそこかしこに出てる。
 …夜だけでなく朝にも風呂に入るなんて、身嗜みを重視する貴族様っぽいし…服をなかなか着なかったのも、濡れた体のままうろうろしてたのも、普段従者や奴隷が身の回りの世話をしていたからだろうし。
 何より金の使い方だ。
 荒いっつーか、頓着しねぇっつーか。
 割り増しされた価格の俺にポーンと希少なクレア・ルビーを出したり、手渡してきたり…。
 飯の食い方も豪快だし、宿の取り方も一番上等な所を迷いもせず選ぶ。
 金に困った事がないのがもろに出てるっーか。

「ふーーん、成る程ね…。そうか、あんまり考えた事なかったが…気をつけた方がいいな…」
「え? なんで?」
「一応隠密…お忍びってやつなんだよ」
「は?」

 俺は耳を疑った。
 今、この人なんつった?
 お、お忍びぃ?

「全然忍べてねぇよ!」
「⁉︎ ま、マジか?」
「今現在どこにいるのかを考えろよ!」

 一流の最高級宿の、一等部屋だ!
 昨日だってクレア・ルビーで俺みたいな奴隷を一括購入だし、いい服は買うし、高級肉料理の店で飯食うし!

「多分もう噂になってるよ! あんたたち目立つし!」
「? ちゃんとこの国の服は買っただろ?」
「服の問題じゃねー⁉︎」

 顔!
 体格!
 そして金の使い方!
 もっかい言うけど立ち振る舞い!
 どれを取っても上流階級の人間にしか見えねぇんだよぉぉお!
 自覚なかったのか⁉︎

「……マジか…目立たねぇようにしてたつもりだったんだが…」
「鏡見て言え!」

 昨日、宿から追いかける時、一発でヒットしたぞあんたたち!

「…うーん、こいつぁ思っていた以上に難しいモンだなぁ…。今後についてフレデリックと相談する必要があるってことか」
「その方がいいと思うぞ…」

 目立つつもりがなかったんなら、絶対。

「………。フレデリックがお前を買ったのはいい買いモンだったのかもな。俺たちじゃあその辺気付かなかった。指摘してもらって助かるぜ」
「!」

 …俺がいたから…?
 俺のおかげってことか?
 …じゃあ、俺…俺の仕事は…!

「あのさあのさ! それじゃあ俺が質素な暮らしってやつを教えてやるよ! だからさ、もっと俺のこと使っていいぜ!」
「ん~~。まあ、そうだな。その辺りの匙加減が分かるまでは御指南いただくとするか? お前、料金分はどうしても、俺たちにくっついてきて働きてぇんだろう?」
「うん!」
「この土地の人間がいるのといないじゃあ違うからな…利害は一致してる、か。お前は自由に旅をしたいんだもんな?」
「うん! …でも…」

 時間は有限。
 この先どうするのかは、考えてきちんと決めるべき。
 フレデリック様に言われた通り、俺なりに考えた。
 俺は…。

「俺、今一番、飛行機が見て見たいんだ」
「飛行機を?」
「うん。だけど、ずっと檻の中で生活していたから、俺、この街のことも本当はよく知らなかった。昨日思い知ったんだ。この街にある果物や野菜や魚のことも、街にある店や人のことも、普通に暮らしてる人の常識みたいなもんも、ほとんど知らなかったんだなって。…こんなに何にも知らねーんじゃ、一人で旅なんて出来ない…。二人はさ、何か調べてるんだろう? 昨日、いろいろ見て回って調べてたってのはなんとなくわかった。…俺も連れてってくれない? 二人が知りたいこと、俺が知りたいこととは違うんだって分かってるけど、でも、俺なんでもいいからもっともっといろんな事が知りたいんだ! 一人で旅が出来るくらい…!」
「……………(己が無知と、知っている、か…。やはり馬鹿じゃあねぇなぁ…)……そうか。なら、それはフレデリックの奴にも言ってみな。俺はテメェが付いてくんのは構わねぇよ」
「! うん!」

 …やっっったーー!
 ジョナサン様…あ、もう様付けすんなって言われたんだっけ…には、同行許可!
 あとはフレデリック様なんだけど………。

「ふが…」
「…………………」

 辛い現実が、そこにはあった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...