ハクラと銀翼の竜【ライト版】

古森きり

文字の大きさ
7 / 47
双黒の王子

【7】

しおりを挟む

 

 結局、フレデリック様が起きたのはマジでお昼過ぎ。
 覚醒するまでが果てしなく長く、ジョナサンが着替えさせても、口の中に食事を詰めてもまるで起きない。
 食事は寝ながら咀嚼して飲み込む。
 その姿に、俺は逆に感動を覚えた。
 ここまできたら最早憧れるしかない。
 あんたやっぱりスッゲーよ、フレデリック様!

「寝汚ぇんだよ、お前、ほんとに…! 仮にも異国だぞ、もっと警戒心と緊張感を持てよ…! 立場わかってんのか?」
「そんな事言われても…寝ると気が抜けちゃうんだよ」
(抜け過ぎだと思う)
「抜け過ぎなんだよ…!」
(よくぞ言ってくれました)
「それは謝るよ。…で、ハクラ」
「う、うん!」

 はぁ~~っ。
 ジョナサンがテキトーに着せた服を覚醒してからビシッと着直したフレデリック様、マジカッコい~~っ。
 昨日買った真っ白なワイシャツと、ダークグレーのパンツが良くお似合いです!
 ザ・王子様って感じ!
 ジョナサンがお城に住んでるって言ってたし、当然フレデリック様も城住まいって事だもんな…。
 やっぱ王子様なのかな~?
 足を組んで座る姿も様になってて、王子様って言われても俺、ですよねって即納得しちゃう。
 っていうか、もう俺の中では王子様だよ!
 マジ、カッコいい!

「…僕らに同行しながら知識を増やし、僕らが目立たないように色々助言してくれる、か…。それが料金分の君の仕事というわけだね? …成る程、いい考えかもしれない。確かに指摘された事を鑑みると、一般人っぽくはないみたいだ」
「だろう? 結構民の暮らしってのを理解してねぇもんだなぁ、俺ら」
「そうだな、これもいい機会になる。民の暮らしを経験すれば、彼らの気持ちが分かるかもしれない」

 ……この人たちやっぱり本物の王子様なんじゃねぇの?
 発言が上から過ぎるよ。
 ああもう!
 その辺ハッキリして欲しい!
 いや、フレデリック様はもう俺の中の王子様確定だけど!

「あ、あのさ、二人はやっぱり王子様なの?」

 我慢できねぇ!
 聞いちゃえ!
 怒られたら謝ればいいや!
 …こ、これも仕事!
 そう! これは仕事さ!

「…え…。……。…いや、何故?」
「いや、だって…発言がもう貴族様っていうより王族って感じだから…」
「え…マジか? ど、どの辺が…?」
「どの辺がって、全体的に? 貴族様だったら王族へのご機嫌伺いみたいなところがあるのが普通なんだ。俺がいた奴隷商店に来る貴族様は、爵位が上の人たちとか王族に気に入られるよう、自分用じゃない奴隷も買っていく。でも二人にはそれが全然ねぇ。完全に一番上から、下を見てる感じしかしねーんだよな」
「………。…………。…そういうもの、なのか…」
「……………」

 …あれ。
 なんか俯かれた。
 俺、余計なこと言ったのかな?
 二人を傷つけるような事、言っちまったのか?
 あまりに深刻そうな顔を二人がするから、オロオロしてきた。

「…そうだな、僕たちは確かに王族だよ」
「!」

 でしょうね!

「…今まで意識していなかった…まさか喋っているだけで王族とバレるような発言をしていたなんて…!」
「…フレディはともかく俺は王族なんて気にしたこともなかったっつーのに…」

 多分環境ってやつのせいだと思うぜ…。

「…矯正が必要かもしれないね、僕たちは…あまりに思い上がりが過ぎていた…! 民とは確かに対等ではないかもしれないが、民あってこその王族…! 彼らを見下すような発言をしていたとなっては王族として、恥ずべきことだ! 考えを改めなければ…」
「…そう思い詰めんなよ、お前の悪い癖だぜ。…けどまぁ、根本的なところなんだろ~な、やっぱ。…俺らやる事なす事派手で目立つみてぇだし」
「そうなのか⁉︎ ど、どの辺が⁉︎」
「全部らしいぜ。服とか飯とかこの宿の部屋とか」

 あと、隠しきれない王族オーラ全開の言動と容姿とか。
 多分、マジで自覚ないんだろうなぁ。
 普通に生きてて王子様なんだから、当たり前なんだろうけど。

「…ハクラ、目立たないようにするにはどうすればいい? 僕たちは何をすれば良いんだろうか?」
「え! …あ…ええと…とりあえず宿はもう少し安いところにした方がいいと思う…。でも、二人ともそもそも容姿で目立ってるから…なにか設定みたいなのがあった方が良いんじゃないかな? 俺は最初、フレデリック様は若い宝石商人で、ジョナサンはその護衛かと思った」
「? なんでヨナは呼び捨てになってるの?」
「城でもねぇのに様付けはいやだっつった」
「じゃあ僕も様はいらない」
「え⁉︎ い、いや、でも…っていうかフレデリック様はいかにも一番偉い人感出てるし…」
「身内以外に様付けなしで呼ばれてみたいし」

 そんな理由⁉︎
 おい王子!

「! そ、それなら! 偽名を名乗ってみたら!」
「偽名!」
「偽名か!」

 それなら俺も心が痛まない。
 フレデリック様を呼び捨てになんて、俺には出来そうにないもん。
 …いやぁ…昨日(の朝)の俺では考えられねぇな。
 どうせ俺を買うのは変態だろうと色々諦めていたのに、実際買われてみたら変態とは真逆のリアル王子様!
 品があって優しくて穏やかで、どこから見ても誰から見てもカッコいい!
 …寝汚いところすらな!

「その手があった! 偽名かぁ、なんかかっこいい!」

 かっこいいのはあんただけどな(真顔)。
 はしゃぐ姿に可愛さまで垣間見えて俺は混乱してる。

「どんなのがいいんだろうなぁ。やっぱり本名とはかけ離れた感じがいいのか?」

 二人も結構ノリノリになって偽名を考え始めた。
 けど、本名と跡形もなく離れると多分、慣れるのに時間がかかると思う。
 それを指摘したら二人とも深々と頷く。
 どうやらそんな予感は最初から二人にもあったらしい。

「んじゃ俺様はジョナでいいか」
「安直なような…。僕はフリックかな。どうだろう?」
「う、うん、いいと思う」

 近くもなく、遠くもない。
 しかし、偽名は決まったものの、職種の方はどうするつもりなんだ?

「では僕はフリック、ジョナサンはジョナということで…。次に身分だな」
「チビがさっき言ってた宝石商とその護衛っつーことでいいんじゃねぇか? チビは荷物持ちってのでよ」
(俺の扱い荷物持ちのままか…いや、別にいいけど)
「そうだな、じゃあその職種でいってみよう。…しかし宝石商って具体的にどんなことをするんだろう? ハクラ、君は知ってるかい?」
「うちの店に来た宝石商のじっちゃんは、この街にパールを買い付けに来るんだ。そのついでに、よく女を買いに来るな。しわしわのくせにスゲーんだって」
「え…君がいた所、娼館もやっていたの?」
「隣の店舗は娼館だったぜ。たまにさ、調教済の奴隷が売られて来るんだ。そういうのは初物として高く売れないから娼婦になるしかねーんだって。調教好きなご主人様は調教が行き届くと飽きちまうらしくて、買った店とかに売りに来る人が結構多いから」
「…………胸糞悪ぃ話だな…」

 え、そうかな。
 奴隷ってそういうもんなのに。
 …あ、でも、そうか、この人たちは『三国』の人じゃないんだっけ。
 大陸の外から来た人…この大陸の、三国の常識がない人たち…。
 そう考えると不思議だな、今更だけど。

「魔法の国にはやっぱり娼館もないの?」
「…いや、我が国にも娼館はあるけれど…そこまで女性の待遇は悪くない…」 
「どっちかっつーと高給取りの部類だよなぁ。美人しかなれねぇし、娼婦が気分じゃなきゃ性交は出来ねぇ。初見の客は下手したら女に会えない事もあるっつーし。そこから城へ召し抱えられる事もあるから、むしろ女には人気の職種だ」
「うえ⁉︎ なにそれ、この街の娼館と全然違う…!」
「法律で性交のみの娼館は許可されていないんだよ。そういうのは個人で資格のある女性しか許されていない。未登録者は犯罪者になる。逆に資格のある個人の性交専門娼婦は、娼館の娼婦よりも高額だ。そういう女性は大体庭付きの家と使用人も雇ってるよ」

 …す、すごっ…⁉︎
 娼婦が庭付きの家で、使用人まで…!
 そんな国がこの世に存在するっていうのか…⁉︎
 衝撃がでかすぎる…!

「性交ってのは大人の遊びだからなぁ…安売りはしてねぇのさ」
「まあ、その分遊ぶ人間も上流階級の者に限られるけど………と、話題が逸れたね。とりあえず宝石商と名乗ることにするとして…次は必要なものを探しに出かけようか」
「必要なもの?」
「地図だな。この国の地図…あと世界地図。出来れば他の国の情報も欲しい。移動手段も調べておかねぇと」
「まずはこの国…ラズ・パスの首都、ラズーに行ってみよう」
「ラズー…」

 南海の大国、ラズ・パス王国の首都『ラズー』…か。
 王様や王族、貴族の住むこの国最大の大都市…。
 あんまり行きたくない…けど、そうも言ってられないよな。
 二人について行くって言ったの俺だし。

「あのさ、ラズーに行く時なんだけど…俺に首輪をつけてくれない?」
「はあ? なんだいきなり」
「僕らそういう趣味はないんだけど」
「ううん、そうじゃなくて。ラズーは奴隷発祥の地って言われてて、年に一度世界中から王族や貴族、領主や議員とか、とにかく偉いやつや金持ちが大勢集まって奴隷オークションが開かれるんだ。その時期に所有者がはっきりしない奴隷がうろついてると、逃亡した奴隷として捕まって売りに出されちまう」
「バレなきゃ平気だろ」
「バレるよ。俺、毎年オークションに出されてるから顔は知られてる。価格設定がおかしかったからいつも買い手がつかなかったんだけどさ」
「…あ、やっぱりあの価格っておかしかったんだ?」

 薄々気付いてはいたのか。

「首輪をしときゃあ大丈夫なのか?」
「うん、首輪はご主人様から買い与えられるのがセオリーだから。まだ主人がいない奴隷は手枷と足枷だけなんだ」
「あまり気は進まないな…。この国の低俗な俗物どもと民度が同じと思われるのは…」
「あはは…」

 そ、そういうところだよー、フレデリック様~。
 なんていうか、プライドみたいなのがとびきり高いっていうのは分かったけど…

「連れて行く以上面倒は見なきゃなんねーだろう? 愚痴るなよ。それでチビすけの安全が保障されるなら安いもんだろうさ」
「はぁ…。…でも、僕たちがラズーに行く時期がそのオークションの時期に必ず被るとは限らないんだろう? その時は首輪は無しにしてくれる? 低俗な人間と同類になるみたいで不愉快だよ」
「うん!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...