38 / 42
第38話ですわ!
しおりを挟む…………頭痛が、どんどん酷くなってきています。
この頭痛が、ゲーム補正の為にわたくしの行動や思考を補正するものなのだとしたら今のこの状況は運営にとって好ましくないものと判断出来ます。
それなら、わたくしは生き延びなくてはいけません。
「っ!」
「エルミーさん!」
振り下ろされた剣を、エルミーさんの斧が受け止める。
金属のぶつかり合いで起きた摩擦の光で一瞬、血走った男の顔が暗闇に浮かび上がった。
まるで悪魔のような顔……。
お、お喋りしてる間に追い付かれ——!
「へへっ、追い詰めたぜ」
「え!」
「! っあ!」
「キャリーた……うっあああっ!」
パン! パン!
と拳銃の音。
えっ、くっ……いつの間に回り込まれて……!?
右足の膝上を、撃ち抜かれた……!
エルミーさんは肩を。
そのまま、すぐ側の森の道に突き飛ばされました。
しかし、そのおかげで鎧の音が聞こえます。
近くに兵士たちが来ている!
もう少し……なのに!
「ちぃ! 痛ぶりたかったのに時間がねぇ」
「まずは邪魔なプレイヤーに退場願おうぜ! オラァ!」
「くっ! あぁああぁ!」
「エルミーさん!」
撃たれた肩を蹴りつけられ、倒されるエルミーさん。
更に、そのまま男は剣をエルミーさんの胸に突き立てました。
光が舞い、ガラスのように砕け始めるエルミーさんの体。
PK……!
お互いの同意のないプレイヤー同士の対戦扱い。
今更『カルマ値』の上昇など、この男たちには痛くもかゆくもない……ええ、関係ないのでしょう。
「……キャリーたん、逃げ……っ」
「エルミーさん!」
燃える。
エルミーさんの体が燃えるようにして消えていく。
「っ!」
PKの被害に遭った方は通常のゲームオーバーペナルティと同じ六時間の間ログインが出来ません。
つまりエルミーさんは少なくとも朝まではログイン出来ない。
そして——。
「さあ、次はテメェだ」
「……っ」
剣、斧、銃、ナイフ。
時間がないというのなら、いたぶられるような事はないかもしれませんわね。
けれど、悪役令嬢が主人公に助けられるという、この屈辱。
……エルミーさん。
「やれるものなら、やってごらんなさい!」
「言われなくともな!」
大丈夫、わたくしは屈しません。
でも今は、殺されるのならやはり主人公が良かった。
あなたが良かった。
そんな風に思ってしまうのだけは……どうか許し——……。
「!」
キン、と再び金属音。
ほんの瞬きの間に現れたのは純白の背中。
淡い緑の髪。
「ハイル様……!」
「っ!」
「おいおい、王子様NPCがカッコつけて現れたぜ」
「ハッ! お姫様を守るってか! 現実が分かってねーな!」
「NPCがプレイヤーに勝てるもんかよ!」
……!
そうですわ……わたくしたちNPCはあくまでもプレイヤーさんたちのサポーターです。
スキルは覚えられますが、スキルツリーは持っていない。
だから、スキルツリーを解放しているプレイヤーさんには絶対に敵わない……!
ハイル様までこの者たちの手にかかる事になったら、わたくしは!
「……現実が分かっていないのはお前らだ」
「はあ? 強がり……」
「んぎぃ!」
「!?」
右側の一人が突然、倒れましたわ!?
そしてガラスのように砕け始め、炎のように消えていく……これは!
「PKだと!? いつの間に接近された!」
「『隠遁』スキルか!? ば、かな……『暗殺者』の『気配察知』が機能しねぇぞ!」
「っ……! どこだ! 卑怯だぞ出て来やがれ!」
「卑怯? オレはずっとここにいるけど?」
「!」
この声は……エイラン様!
「王子」
「頼む。行くぞ、キャリー」
「え! しかし、エイラン様お一人では……!」
「大丈夫だ」
手を掴まれ、ハイル様は男たちに背を向けます。
けれど、追いかけようとした男の剣を何かが弾く。
す、すごいです。
わたくしにもエイラン様気配は察知出来ません。
姿が見えず、更に言えば聞こえてきた声からも位置の特定が出来ませんでした。
余程『隠遁』スキルの熟練度が高くなければ……。
ここまで熟練度が高いなんて『暗殺者』でもなかなか……、え? まさか……?
「彼はユニークスキル持ち、任せておいて大丈夫だ」
「っ!」
————やはり、では……あの方は……!
「ユニーク、スキルか!?」
「……そう、オレは『ストーリーモード』を全部クリアしてるからね」
「は?」
「ストーリーモード?」
「クッソ、どこだよ!」
くすりと嘲笑われたのは、彼らにも理解出来たのだろう。
怒りに顔を赤くして、周囲を見渡す。
『隠遁』スキルを見破る『気配察知』ですらその機能が果たされないのであれば、『隠遁』スキルの熟練度が彼らよりも高い事になる。
しかし、男たちの中には一人『暗殺者』がいた。
そんな男でさえ『気配察知』で姿を捉える事が出来ない。
それはつまり、その更に上位スキルか、あるいはそのプレイヤーの『固有スキル』。
そんなものを持っているプレイヤーは、確実に『称号』や『二つ名』持ち——!
そんな上位プレイヤーがなぜここに?
考える事は多いが、その時間はない。
「無駄話は終わりだ。アカウント停止確定のお前たちには二度と会う事もないだろう。現実という地獄に帰るといい」
「っ——!」
0
あなたにおすすめの小説
コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~
千堂みくま
恋愛
婚約を6回も断られ、侍女に八つ当たりしてからフテ寝した侯爵令嬢ルシーフェルは、不思議な夢で前世の自分が日本人だったと思い出す。ここ、ゲームの世界だ! しかもコワモテの悪役令嬢って最悪! 見た目の悪さゆえに性格が捻じ曲がったルシーはヒロインに嫌がらせをし、最後に処刑され侯爵家も没落してしまう運命で――よし、今から家族のためにいい子になろう。徳を積んで体から後光が溢れるまで、世のため人のために尽くす所存です! 目指すはざまあ回避。ヒロインと攻略対象は勝手に恋愛するがいい。私は知らん。しかしコワモテを改善しようとするうちに、現実は思わぬ方向へ進みだす。公爵家の次男と知り合いになったり、王太子にからまれたり。ルシーは果たして、平穏な学園生活を送れるのか!?――という、ほとんどギャグのお話です。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた
咲桜りおな
恋愛
サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。
好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。
それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。
そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑)
本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる