腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

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婚約話【前編】

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 翌日、わたくしは準備を整えて再び城へと向かう。
 少し熱っぽかったけれど、約束を違えるわけにはかない。
 それに、ケーキ食べたい。
 ミリアム様の作った……チョコレートケーキ!

「楽しみだわ……」
「お嬢様、顔が赤いですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……それに、王族とのお約束を破るわけにはいかないでしょう?」
「しかし、また倒れられては……」
「うっ……そ、それは確かに不安だけど……」

 ルイナの心配はごもっとも。
 わたくしもそれは不安でならない。
 しかし、チョコレートケーキの魅力には勝てなかったのだ。
 ワクワクお城に入り、応接間に通される。
 間もなく王妃様とミリアム様がいらっしゃった。

「よく来たな! 約束のチョコレートケーキだぞ!」
「まあ!」
「こ、こら、ミリアム。挨拶もせぬまま試食させようとするのではありません」
「「あ」」

 い、いけない!
 わたくしもまだご挨拶していなかった!
 慌てて立ち上がり、スカートの裾を摘んでご挨拶。

「本日はお招きありがとうございます」
「あ、ああ、ゆっくりしていくがいい。……もういいでしょう、母上!」
「し、仕方のない子ですね……」

 ミリアム様はわたくしにケーキを食べさせたくて仕方ないらしい。
 よく考えればそれも当然だろう。
 王子が手作りしたケーキを試食するなんて、家臣や使用人からすれば恐れ多く、そして「二度とやるな」と引き止めたり、咎めなければならない。
 王族が厨房に入る事も歓迎されないというのに……。
 そんな反応ばかりで、きっとミリアム様はわたくしのような者が珍しいのだろう。

「いただきます……!」
「…………どうだ?」

 見た目を観察する間もなく、欲望に抗いきれずわたくしはフォークをケーキに刺し、切り分けて、口に入れた。
 瞬間、口いっぱいに広がる甘味。
 ほんのりとした苦味。
 まあ、なんという事でしょう。
 スポンジの間には生クリームとチョコクリームが!
 まさに、特・濃……!
 ほっぺが落ちてしまいそうです。

「んん~~~~」
「……なんて美味しそうに食べるのかしら……」

 王妃エリザベス様が呟く。
 だって、だって、本当にこの世のものとは思えないほど美味しいんですもの。
 ああっ、フォークが止まりません!
 美味しい、美味しい──!

「…………ふう……」

 美味しかった!
 お腹いっぱい!
 ……いや、本当言うともう少し食べられそう、かも?
 こんな感覚初めてだわ……もっと食べたい、なんて!

「お嬢様が、また完食なさるなんて……! ミリアム殿下は天才です!」
「そ、そんな大袈裟な……」
「いいえ! ミリアム殿下はお嬢様を救ってくださる、救世主かもしれません! 食事をまともに食べられないお嬢様が、ホールケーキを一つ丸ごと食されるなんて!」
「ル、ルイナ、落ち着いて!」

 王子様に詰め寄るなんて侍女らしからぬ行為よ!
 興奮しすぎ!
 そりゃ確かにわたくしも、こんなにたくさん食べられるなんて思わなかったけれど……。

「そんなに屋敷の料理は食べられないのか?」
「……いえ、ケーキ以外の食べ物がなぜか食べられなくて……。でも、殿下の作るケーキは、普通のケーキよりもずっと、とても……美味しく感じるんです。不思議です……」
「……そ、そうか……」

 あ、照れた。可愛い。

「そうなのね。それならクリスティアもお城で暮らしたらどうかしら?」
「「「はい?」」」

 全員の目がエリザ様へ向く。
 な、な、なんですって? わたくしも、お城に? す、住む!? どどどどうしてそんな事に!?

「そうしましょう! そうすればミリアムのケーキをいつでも食べられるわよ?」
「うっ!」
「具合が悪くなれば王家と契約している医師に診てもらえるし」
「……しかし、そんな事をしては王子殿下たちの婚約者候補のご令嬢たちにうちのお嬢様が睨まれてしまいそうですが……」

 ルイナの言う通りだわ。
 そんな事したら、わたくし同年代のお友達が出来ないと思うの!
 エルザ様と仲良くしてもらえるのは、とても嬉しいし、わたくしも嫌ではないけれど……同年代の女の子たちに嫌われてしまうのはイヤ~! 困ります~!

「それならクリスティアはミリアムと婚約してしまえばいいのよ!」
「「「!?」」」

 あ、アーっ!?
 わたくしとしてもミリアム様との婚約はやぶさかではないですがお父様がわたくしを婚約者に据えたいのはアーク様……!

「っ……」
「……まあ、もしかしてロンディウヘッド侯爵がお望みなのはアーク様との婚約かしら?」
「!」

 エリザ様がしれっと当ててきた!
 わたくしもルイナも顔に出ていたのだろう。
 俯いて押し黙ると言う、分かりやすい肯定をしてしまった。

「……!」
「そう。わたくし、正妃とはいえ身分が低いから、身分を重視する一派には嫌われていますもの。仕方がありませんわね」
「は、母上……!」
「ミリアムがクリスティアと婚約者になるには、学園の成績で上回り、王太子の座を勝ち取るしかないようよ? お料理もいいけれど、やはりお勉強はきちんとしなければダメなのではなくて?」
「…………、……は、はい」

 あれ?
 顔を上げると、ミリアム様と目が合う。
 すぐに逸らされてしまうけど、ミリアム様はわたくしと婚約に、前向き?
 あ、いや、違うかも。
 今言った通り、身分を重視する派閥はある。
 それも、そこそこ大きいのだ。
 だからミリアム様はお立場が微妙。
 逆を言えばわたくしのような、身分を重視する派閥の侯爵家の娘と婚約すれば、後ろ盾として申し分ない。
 ……でも、学園入学まではあと五年もある。
 やはりお城に住むわけにはいかないわ。

「あ! それならアーク様にクリスティアの仮の婚約者になってもらいましょう!」
「「「は、はい?」」」

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