腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

文字の大きさ
5 / 37

婚約話【前編】

しおりを挟む


 翌日、わたくしは準備を整えて再び城へと向かう。
 少し熱っぽかったけれど、約束を違えるわけにはかない。
 それに、ケーキ食べたい。
 ミリアム様の作った……チョコレートケーキ!

「楽しみだわ……」
「お嬢様、顔が赤いですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……それに、王族とのお約束を破るわけにはいかないでしょう?」
「しかし、また倒れられては……」
「うっ……そ、それは確かに不安だけど……」

 ルイナの心配はごもっとも。
 わたくしもそれは不安でならない。
 しかし、チョコレートケーキの魅力には勝てなかったのだ。
 ワクワクお城に入り、応接間に通される。
 間もなく王妃様とミリアム様がいらっしゃった。

「よく来たな! 約束のチョコレートケーキだぞ!」
「まあ!」
「こ、こら、ミリアム。挨拶もせぬまま試食させようとするのではありません」
「「あ」」

 い、いけない!
 わたくしもまだご挨拶していなかった!
 慌てて立ち上がり、スカートの裾を摘んでご挨拶。

「本日はお招きありがとうございます」
「あ、ああ、ゆっくりしていくがいい。……もういいでしょう、母上!」
「し、仕方のない子ですね……」

 ミリアム様はわたくしにケーキを食べさせたくて仕方ないらしい。
 よく考えればそれも当然だろう。
 王子が手作りしたケーキを試食するなんて、家臣や使用人からすれば恐れ多く、そして「二度とやるな」と引き止めたり、咎めなければならない。
 王族が厨房に入る事も歓迎されないというのに……。
 そんな反応ばかりで、きっとミリアム様はわたくしのような者が珍しいのだろう。

「いただきます……!」
「…………どうだ?」

 見た目を観察する間もなく、欲望に抗いきれずわたくしはフォークをケーキに刺し、切り分けて、口に入れた。
 瞬間、口いっぱいに広がる甘味。
 ほんのりとした苦味。
 まあ、なんという事でしょう。
 スポンジの間には生クリームとチョコクリームが!
 まさに、特・濃……!
 ほっぺが落ちてしまいそうです。

「んん~~~~」
「……なんて美味しそうに食べるのかしら……」

 王妃エリザベス様が呟く。
 だって、だって、本当にこの世のものとは思えないほど美味しいんですもの。
 ああっ、フォークが止まりません!
 美味しい、美味しい──!

「…………ふう……」

 美味しかった!
 お腹いっぱい!
 ……いや、本当言うともう少し食べられそう、かも?
 こんな感覚初めてだわ……もっと食べたい、なんて!

「お嬢様が、また完食なさるなんて……! ミリアム殿下は天才です!」
「そ、そんな大袈裟な……」
「いいえ! ミリアム殿下はお嬢様を救ってくださる、救世主かもしれません! 食事をまともに食べられないお嬢様が、ホールケーキを一つ丸ごと食されるなんて!」
「ル、ルイナ、落ち着いて!」

 王子様に詰め寄るなんて侍女らしからぬ行為よ!
 興奮しすぎ!
 そりゃ確かにわたくしも、こんなにたくさん食べられるなんて思わなかったけれど……。

「そんなに屋敷の料理は食べられないのか?」
「……いえ、ケーキ以外の食べ物がなぜか食べられなくて……。でも、殿下の作るケーキは、普通のケーキよりもずっと、とても……美味しく感じるんです。不思議です……」
「……そ、そうか……」

 あ、照れた。可愛い。

「そうなのね。それならクリスティアもお城で暮らしたらどうかしら?」
「「「はい?」」」

 全員の目がエリザ様へ向く。
 な、な、なんですって? わたくしも、お城に? す、住む!? どどどどうしてそんな事に!?

「そうしましょう! そうすればミリアムのケーキをいつでも食べられるわよ?」
「うっ!」
「具合が悪くなれば王家と契約している医師に診てもらえるし」
「……しかし、そんな事をしては王子殿下たちの婚約者候補のご令嬢たちにうちのお嬢様が睨まれてしまいそうですが……」

 ルイナの言う通りだわ。
 そんな事したら、わたくし同年代のお友達が出来ないと思うの!
 エルザ様と仲良くしてもらえるのは、とても嬉しいし、わたくしも嫌ではないけれど……同年代の女の子たちに嫌われてしまうのはイヤ~! 困ります~!

「それならクリスティアはミリアムと婚約してしまえばいいのよ!」
「「「!?」」」

 あ、アーっ!?
 わたくしとしてもミリアム様との婚約はやぶさかではないですがお父様がわたくしを婚約者に据えたいのはアーク様……!

「っ……」
「……まあ、もしかしてロンディウヘッド侯爵がお望みなのはアーク様との婚約かしら?」
「!」

 エリザ様がしれっと当ててきた!
 わたくしもルイナも顔に出ていたのだろう。
 俯いて押し黙ると言う、分かりやすい肯定をしてしまった。

「……!」
「そう。わたくし、正妃とはいえ身分が低いから、身分を重視する一派には嫌われていますもの。仕方がありませんわね」
「は、母上……!」
「ミリアムがクリスティアと婚約者になるには、学園の成績で上回り、王太子の座を勝ち取るしかないようよ? お料理もいいけれど、やはりお勉強はきちんとしなければダメなのではなくて?」
「…………、……は、はい」

 あれ?
 顔を上げると、ミリアム様と目が合う。
 すぐに逸らされてしまうけど、ミリアム様はわたくしと婚約に、前向き?
 あ、いや、違うかも。
 今言った通り、身分を重視する派閥はある。
 それも、そこそこ大きいのだ。
 だからミリアム様はお立場が微妙。
 逆を言えばわたくしのような、身分を重視する派閥の侯爵家の娘と婚約すれば、後ろ盾として申し分ない。
 ……でも、学園入学まではあと五年もある。
 やはりお城に住むわけにはいかないわ。

「あ! それならアーク様にクリスティアの仮の婚約者になってもらいましょう!」
「「「は、はい?」」」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko
恋愛
平凡な主婦だった私は、夫が不倫旅行で不在中に肺炎で苦しみながら死んだ。 そして、自分がハマっていた乙女ゲームの世界の、どモブ令嬢に転生してしまう。 不倫された心の傷から、リアルの恋愛はもう懲り懲りと思っている私には、どモブの立場が丁度良い。 推しの王子の幸せを見届けよう。 そう思っていたのだが、実はこのゲーム、王子の死亡フラグが至る所に立っているのだ。 どモブでありながらも、幼少期から王子と接点があった私。 推しの幸せを護る為、乱立する死亡フラグをへし折りながら、ヒロインとの恋を応援する!と、無駄に暑苦しく決意したのだが・・・。 ゲームと違って逞しく成長した王子は、思った以上に私に好意を持ってしまったらしく・・・・・・。 ※ご都合主義ですが、ご容赦ください。 ※感想欄はネタバレの配慮をしてませんので、閲覧の際はご注意下さい。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...