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十五歳になりました!
しおりを挟むそんなわたくしの生活は瞬く間に五年の歳月が過ぎていきました。
クリスティア・ロンディウヘッド、十五歳——……。
「ん~! これも美味しいです!」
「そうかそうか。たくさん食べろよ」
「はい! ありがとうございます、ミリアム様!」
その日はこの国の王立学園への入学日。
本日から寮住まいになります。
そして今は寮の食堂です。
寮の食堂は男女共有です。
ミリアム様は王族用の個室なのですが、そこからわたくし用に朝のケーキを作って持ってきてくださいました。
「本当は弁当も作りたかったんだが、アークに『学業を優先しろ』と言われてしまってな」
「そうなのですね」
もぐもぐ。ごくん。ぱく。もぐもぐ……。
「美味しいです……!」
にこ。
ミリアム様に微笑ましく眺められてしまいました。
ミリアム様の作ったケーキ、本当に美味しいです。
「おはようございます、ミリアム、クリスティア」
「おはようございます、アーク様」
「おはよう、アーク。相変わらず朝弱いなお前」
「いやー、朝とか一番眠い時間じゃないですか。早起きして甲斐甲斐しくクリスティアにケーキ作ってあげるミリアムは本当に偉いですよ」
「ま、まぁな」
もぐもぐ。もぐもぐ。ごくん。
「美味しいですっ」
「そうですか。良かったですね」
「はい」
にこ。
アーク様にも微笑まれました。
「まあ、それはそれとして、クリスティアは色々気をつけてくださいね」
「はい?」
「貴女は一応、僕の婚約者という事になっているんですから。色々他の令嬢に嫌がらせをされたり嫌味を言われるかもしれません。その時は容赦なく僕に教えてくださいね?」
(アーク、牽制の仕方がえぐいな~)
「? はい」
(まあ、クリスティアはこのぐらい言っても分かってないみたいだが……)
もぐもぐ。もぐもぐ。
アーク様は時々よく分からない事をおっしゃいますね。
いえ、言っている事は分かります。
わたくしの身を心配してくださっているんですよね。
「…………」
もぐ……。
でも、やはり未だに分かりません。
これでいいのか。わたくしはこのままでいいのか。
ミリアム様の作ってくださるケーキは永遠に食べていたいですが……こんな中身空っぽなわたくしが王妃になる事を目指していいのでしょうか。
ミリアム様はお優しいしケーキは美味しいです。
だからとても大好きです。
アーク様もお優しいし次期王に相応しいと思います。
親切にしてくださいますし、わたくしが困る前に先回りもしてくださってとても頼りがいのある方だと思います。
お二人ともご自分の目標に向かって頑張っておられる。
でも、わたくしは?
親に言われて王妃を目指し、いずれ王となるお二人のどちらかの婚約者となる……。
そこに自分の意思などなく、いえ、それは貴族の令嬢として生まれた以上、ある意味当たり前の事でもあるのですが……。
やはりわたくしは『空っぽ』。
わたくしなんかが王妃になって本当によいのでしょうか。
もっと相応しい方がいるのでは。
「もぐもぐもぐもぐ」
「クリスティア、おかわりはいるか?」
「いただきますっ!」
「入学式が終わったらお昼は三人で食べましょうね」
「はい!」
本日もケーキが美味しいです!
「ちょっと! ロンディウヘッド令嬢!」
「ふぇ?」
ミリアム様とアーク様、お二人と別れてから入学式の行われる講堂へ移動中の事です。
数人のご令嬢に呼び止められました。
「なんでしょうか」
困りました、お名前が分かりません。
学園の中だとルイナもいないので孤立無縁です。
……今更ですがわたくしやっぱりちょっとほわほわしすぎですね。
自分でも分かっているのですが、いまいち他人に興味が持てません。
アーク様は「幼少期に対人関係が希薄だった弊害でしょうね。まあ、そのうち治しましょう」と言ってくださいましたけど、これって治るものなのでしょうか。
いえ、治した方がいいのは自分でも分かるんですけれども。
……人に興味を抱くってどうしたらいいんでしょうか。
「!」
そうだ、「まずはお友達から」というのはどうでしょう!
思えばわたくし、同世代で同性のお友達はおりませんわ!
「あなた、王子殿下を二人も誑かすなんてどういう了見なのかしら?」
「…………」
「アーク様の婚約者なのでしょう!? なのに、朝から食堂でミリアム様と仲睦まじくされて! まさか両王子に取り入ろうと? 信じられませんわね!」
「とんだ淫乱女ではない!」
「アーク様の婚約者なら、ミリアム様に近づくのはおやめになった方がいいんではなくて?」
「婚約者のいる女性が婚約者のいない男性と二人きりでいるのはおかしいわ!」
声をかけてきたご令嬢たちにそう言い放たれました。
たぶ……たぶらかす?
わたくし、ミリアム様たちを誑かしてなどいないのですが。
……というより……。
「……ひどい誤解ですわ。それに、侮辱です」
「え……な、なにが……侮辱なんて、それはこっちの台詞……」
「いえ、ミリアム様とアーク様への侮辱です。あのお二方がわたくしごときに誑かされるような方々に見えますの?」
「「「…………」」」
「それに、朝はアーク様を待っていただけです。ミリアム様はアーク様と異母兄弟。ミリアム様がアーク様を待っておられたので、アーク様の婚約者としてご一緒したのですわ。ミリアム様もいずれはわたくしのお兄様になりますから……なにかおかしな事でもありまして?」
「うっ……」
もちろん皆様のおっしゃりたい事は分かるんですよ?
分かるんですけど、朝ってお腹が空くではないですか。
早くミリアム様の作ったケーキを食べたいではないですか。
だから先に食べさせて頂いてたんですよ。
アーク様は朝が弱いので、ちょっと遅れて来られるんですよね。
仕方がないのです。うんうん。
実際ミリアム様には妹のように可愛がられていますしね。
というか、絶対妹だと思われていると思います。
わたくしにも血の繋がったお兄様はいますが、わたくしにまるで興味がない方なので『兄妹』というものはよく分かっていませんけれど……きっと実際の『兄妹』はあんな感じなんではないんでしょうか。
「入学式が始まりますので、早く参りましょう」
「…………っ」
よし! ちゃんと同級生となる方々と笑顔でお話出来ましたわ!
他人にはどうしてもまだ興味は抱けませんけれど、アーク様が「頑張って治しましょう」と言ってくださいましたから、わたくし頑張ります!
きっと人様とたくさんお話しすれば治せるはずですよね。
……まだなんかこう、「お友達はエルザ様がいるからいいや!」と思っている節があるので同年代、同性のお友達を作るのを今年一年の目標としましょう。
ジーン様にも「学園は味方を作る場所。王妃になるには人望も必要ですよ」と言われましたし。
ルイナにも「私はご一緒出来ないので、お友達を作って楽しくお過ごしください」と言われましたし!
「ところで、皆様は……あら?」
せっかく話しかけて頂いたので、ここは新しい話題を振って仲を深めましょう。
そう思ったけれど、ご令嬢たちはもうそこにはいませんでした。
もう講堂の方に入って行ってしまった模様です。残念です。
もう少しお話したかったですね。
「…………いえ、まだ学園生活は始まったばかりですし……頑張りましょう」
わたくし、虚無すぎますけど、それを治すためにも……一つ一つ自分の中に目標を持って、達成していきましょう。
「…………」
ぐう。
お腹が鳴ります。お腹が空きました。
お昼まで持ちそうにないんですが。
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