腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

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事後処理【中編】

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「ク、クリスティア」
「はい、なんでしょうか、お兄様」

 あら。初めてお兄様に話しかけられましたわ。
 お兄様とお話ししてみたかったので嬉しい!

「…………許してくれないか」
「…………」

 絞り出すように、お兄様は告げた。
 それから突然ソファーを降りると床に跪いて頭を下げる。
 あらまあ~。

「君が平民の娘だからと父さんや母さんや姉さんが意地悪をしていたのは、知ってた! それを止めなかった僕にも、責任はあると思っている! 怖かったからと言いわけは聞いてもらえなくて当然だ! でも、でも……今の生活が出来なくなって、生きていける自信はないんだ!」

 まあ~、正直~!
 お兄様すごいですわ! とても正直者で愚直な判断ですわ! 素晴らしい!
 現状と自分たちの生活水準を照らし合わせて現状維持するためのプライドをかなぐり捨てたその判断! 見事という他ありませんわね!
 今の時代の貴族の何人にそれが出来るでしょうか……多分いませんわよ!

「ご安心ください、そこまでの事は考えておりませんわ」
「! ほ、本当か!?」
「そもそも今回の件、わたくしの戸籍の件はお父様とお母様の凡ミスです。わたくしをどんな風に育てたかはさしたる問題ではございませんし、法的にも問題はありません」

 前世の世界だったら逮捕ですけどねぇ~。

「わたくしの気持ち一つでお父様たちを……ロンディウヘッド侯爵家をどうこうするつもりもございませんし、今回の余興にお付き合い頂きましたのであとの事はすべて今後のお父様、お母様、お兄様の手腕次第ですわ!」
「…………え?」
「当然でございましょう? クリス様よりご慈悲があるとでも思っておりましたの? 現状維持をなさりたいのであれば、ご自身たちのお力でなんとかなさってください。侯爵も、侯爵夫人も交友関係が大変広いそうでございますから? きっと皆様、お力添えを頂けると思いますわ」
「「「…………!」」」

 ……まあ、フィリーったら意地悪ですわね。
 でも、そういう事なのですわ……。

「ごめんなさい、お父様、お母様、お兄様。今のわたくしには本当にそこまでの力も影響力もありませんの。本日平民の出自である事も知られましたし、学園の皆様には応援して頂けているのですが他の貴族の方々までは……」
「っ!」
「ですから、お兄様」
「…………」

 お兄様を真っ直ぐに見る。
 自分の罪をきちんと認めて謝罪もして、その上でみっともなく、生恥だと理解した上で、わたくしのような出自の者であってもなりふり構わず頭を下げられる……自分の守りたいもののために戦える…………あなたなら——。

「わたくしではなく、家を守るために必要な力をお持ちの方にその頭を下げてください。お兄様なら守れます」
「…………!」

 ロンディウヘッド侯爵家がどうなるのか分からない。
 少なくとも今のわたくしには後ろ盾になる力はありませんから。
 それに、そうなる事をフィリーや王家の方々が許してくれなさそうなんですよね。
 だから、頑張ってください。

「……ま、待ってくれ、待ってください……俺は……リーデン伯爵家は、それじゃあどうなるっていうんですか?」
「…………」

 そう、問題はこちら……リーデン伯爵家。
 こちらは無傷とはいかない。
 ちょっとしんどいですが、これも……次期王妃に必要な『覚悟』。

「リーデン伯爵家はメアリ夫人の、クリス様への陰湿な嫌がらせ行為の件があります。もちろんリーデン伯爵もそれはご存じだったはず。知らないのであればそれはそれで問題ですわ!」
「い、いや……それは……いや、待ってくれ! 俺はなにも知らない! 本当だ! 彼女が学園にいる妹に手紙を送っているとは聞いていたけれど、それは仲がいいからだとばかり思っていたからであって……!」
「残念ですがリーデン伯爵! 伯爵ご自身にも姦通罪の嫌疑がかかっておりますの」
「っ!?」

 フィリー、かっこいいですわ。
 ジェーン様が一枚の紙を取り出しつつ、ルイナが扉を開ける。
 すると隣室から三人の少女が兵士に連れてこられ、跪かせられた。

「きゃあ!」
「「!」」
「が、学生?」
「サブリナ・アーゲ、エナ・リジン、ジェニー・ロンズ……全員わたくしたちと同じ学生です。ですが……」
「ち、違う……いや、その……」
「……っ!」

 にこり、とわたくしは微笑みます。
 お姉様、この件は本当にわたくしもゾッと致しましてよ?
 狼狽るリーデン伯爵。
 顔を背けるお姉様。
 お父様たちはさすがに事情を察して真っ青になり、嫌悪の表情でお姉様夫婦を見下ろした。

「まさか……子どもに手を出したのか? 学生に? 嫁入り前の令嬢たちに? まさか……まさか!」
「信じられない! メアリという妻がありながら! ケダモノ!」

 お母様がヒステリックに叫んで扇子をリーデン伯爵に投げつける。
 ああ、良かった。お父様もお母様もそういう常識はある方でしたのねー。……本当に良かった。
 しかし、現実はお父様やお母様が考えているよりえげつないのです。

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