32 / 37
事後処理【中編】
しおりを挟む「ク、クリスティア」
「はい、なんでしょうか、お兄様」
あら。初めてお兄様に話しかけられましたわ。
お兄様とお話ししてみたかったので嬉しい!
「…………許してくれないか」
「…………」
絞り出すように、お兄様は告げた。
それから突然ソファーを降りると床に跪いて頭を下げる。
あらまあ~。
「君が平民の娘だからと父さんや母さんや姉さんが意地悪をしていたのは、知ってた! それを止めなかった僕にも、責任はあると思っている! 怖かったからと言いわけは聞いてもらえなくて当然だ! でも、でも……今の生活が出来なくなって、生きていける自信はないんだ!」
まあ~、正直~!
お兄様すごいですわ! とても正直者で愚直な判断ですわ! 素晴らしい!
現状と自分たちの生活水準を照らし合わせて現状維持するためのプライドをかなぐり捨てたその判断! 見事という他ありませんわね!
今の時代の貴族の何人にそれが出来るでしょうか……多分いませんわよ!
「ご安心ください、そこまでの事は考えておりませんわ」
「! ほ、本当か!?」
「そもそも今回の件、わたくしの戸籍の件はお父様とお母様の凡ミスです。わたくしをどんな風に育てたかはさしたる問題ではございませんし、法的にも問題はありません」
前世の世界だったら逮捕ですけどねぇ~。
「わたくしの気持ち一つでお父様たちを……ロンディウヘッド侯爵家をどうこうするつもりもございませんし、今回の余興にお付き合い頂きましたのであとの事はすべて今後のお父様、お母様、お兄様の手腕次第ですわ!」
「…………え?」
「当然でございましょう? クリス様よりご慈悲があるとでも思っておりましたの? 現状維持をなさりたいのであれば、ご自身たちのお力でなんとかなさってください。侯爵も、侯爵夫人も交友関係が大変広いそうでございますから? きっと皆様、お力添えを頂けると思いますわ」
「「「…………!」」」
……まあ、フィリーったら意地悪ですわね。
でも、そういう事なのですわ……。
「ごめんなさい、お父様、お母様、お兄様。今のわたくしには本当にそこまでの力も影響力もありませんの。本日平民の出自である事も知られましたし、学園の皆様には応援して頂けているのですが他の貴族の方々までは……」
「っ!」
「ですから、お兄様」
「…………」
お兄様を真っ直ぐに見る。
自分の罪をきちんと認めて謝罪もして、その上でみっともなく、生恥だと理解した上で、わたくしのような出自の者であってもなりふり構わず頭を下げられる……自分の守りたいもののために戦える…………あなたなら——。
「わたくしではなく、家を守るために必要な力をお持ちの方にその頭を下げてください。お兄様なら守れます」
「…………!」
ロンディウヘッド侯爵家がどうなるのか分からない。
少なくとも今のわたくしには後ろ盾になる力はありませんから。
それに、そうなる事をフィリーや王家の方々が許してくれなさそうなんですよね。
だから、頑張ってください。
「……ま、待ってくれ、待ってください……俺は……リーデン伯爵家は、それじゃあどうなるっていうんですか?」
「…………」
そう、問題はこちら……リーデン伯爵家。
こちらは無傷とはいかない。
ちょっとしんどいですが、これも……次期王妃に必要な『覚悟』。
「リーデン伯爵家はメアリ夫人の、クリス様への陰湿な嫌がらせ行為の件があります。もちろんリーデン伯爵もそれはご存じだったはず。知らないのであればそれはそれで問題ですわ!」
「い、いや……それは……いや、待ってくれ! 俺はなにも知らない! 本当だ! 彼女が学園にいる妹に手紙を送っているとは聞いていたけれど、それは仲がいいからだとばかり思っていたからであって……!」
「残念ですがリーデン伯爵! 伯爵ご自身にも姦通罪の嫌疑がかかっておりますの」
「っ!?」
フィリー、かっこいいですわ。
ジェーン様が一枚の紙を取り出しつつ、ルイナが扉を開ける。
すると隣室から三人の少女が兵士に連れてこられ、跪かせられた。
「きゃあ!」
「「!」」
「が、学生?」
「サブリナ・アーゲ、エナ・リジン、ジェニー・ロンズ……全員わたくしたちと同じ学生です。ですが……」
「ち、違う……いや、その……」
「……っ!」
にこり、とわたくしは微笑みます。
お姉様、この件は本当にわたくしもゾッと致しましてよ?
狼狽るリーデン伯爵。
顔を背けるお姉様。
お父様たちはさすがに事情を察して真っ青になり、嫌悪の表情でお姉様夫婦を見下ろした。
「まさか……子どもに手を出したのか? 学生に? 嫁入り前の令嬢たちに? まさか……まさか!」
「信じられない! メアリという妻がありながら! ケダモノ!」
お母様がヒステリックに叫んで扇子をリーデン伯爵に投げつける。
ああ、良かった。お父様もお母様もそういう常識はある方でしたのねー。……本当に良かった。
しかし、現実はお父様やお母様が考えているよりえげつないのです。
21
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』
ふわふわ
恋愛
華やかなドレス。きらびやかな舞踏会。
公爵令嬢として転生した私は、ようやく優雅な人生を手に入れた――
……はずでしたのに。
実態は、書類の山、曖昧な命令、責任の押し付け合い。
忠誠の名のもとに搾取される領地運営。
前世のブラック企業と、何も変わりませんでしたわ。
ならば。
忠誠ではなく契約を。
曖昧な命令ではなく明文化を。
感情論ではなく、再評価条項を。
「お父様、お手伝いするにあたり契約を結びましょう」
公爵家との契約から始まった小さな改革は、やがて王家を巻き込み、地方貴族を動かし、王国全体の制度を揺るがしていく――。
透明化。共有化。成果の可視化。
忠誠より確かな契約で、異世界働き方改革ですわ。
これは、玉座を奪う物語ではありません。
国家を“回る構造”に変える、公爵令嬢の改革譚。
そして最後に選ばれるのは――契約ではなく、覚悟。
---
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる