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事後処理【前編】

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「では行きましょうか」
「ええ」

 気持ちを切り替えて、わたくしは扉の前に待機していた兵に頷いてみせる。
 彼らは普通に護衛の兵です。
 一応まだロンディウヘッド家は侯爵家ですからね。
 お姉様たちの体調も気になりますし。

「失礼致します。体調はいかがですか?」
「! クリスティア……」

 まあ、お父様とお母様に睨まれてしまいましたわ。

「…………」

 あれ? 怖くない……?
 睨まれたのに……体が震えない。
 真っ直ぐにこの人たちを見る事が出来る。

「…………」
「クリス?」
「いいえ、なんでもないですわ」

 部屋の中にはお父様、お母様、お兄様、お姉さ様、お義兄様。
 皆様ソファーに座ってうなだれたような姿。
 特にお姉様は顔面蒼白でハンカチを口元に当てております。
 近くには医者、ですわね。困り果てた顔をしておりますわ。
 あの方はお城の常駐医。
 まあ、ですよねぇ。

「なんの用だ? まだ我々に恥を上塗りさせるつもりか? まったくとんでもない女になったものだな! これだから平民は……! これ以上なにを望むんだ!? ああ!?」
「父さん、落ち着いて! 立場を弁えてくれ! 彼女はもう王子妃となる地位を確立させているんだぞ!」
「くっ!」

 ……どうやらこの中ではお兄様が一番冷静、なのかしら。
 お義兄様は我関せず……まるで自分は関係ありません、関わりたくありません、という顔。
 そういえばお義兄様はお顔を今日初めてみたんですよね。
 ああ、いかにもおモテになりそうないろおとこかおですわ。
 とても凛々しく整っておられますわね、軟弱そうですけど。

「事後処理に来ましたの。本当はミリアムにもアークにも、エリザ様にもジーン様にも止められたのですが……」

 あと地味に陛下にも「え、人に任せた方がよくない?」って引き留められたんですけどね?
 でも来て良かった。
 お父様に怒鳴られても、なにも怖くない。
 あんなに顔を見るのも恐ろしかったのに。
 それが分かったのは、わたくしの人生を大きく変えてくれる。
 俯いて、怯える事しか出来なかったわたくしは——。

「ロンディウヘッド侯爵、そしてリーデン伯爵、本日はわたくしの用意した余興への協力感謝致しますわ」
「な、んだと?」

 もうなにも恐れるものはない。
 真っ直ぐにあなたたちを見て、話が出来る。

「お察しとは思いますが、本日の余興は我が国でこれから始まる新しい産業への宣伝と投資ですの。王城地下にもある冷凍洞窟……我が国にある数少ない資源を最大限に活用し、安定的に他国から食糧を輸入出来るようにするものです。その辺りの事は今後冷凍洞窟を持っている貴族との話し合いとなるでしょう」

 ふん、とジェーン様が胸を張る。
 そうですわね、主にジェーン様のような家の貴族が活躍する事となるでしょう。
 ロンディウヘッド侯爵家は内政に携わるので、その恩恵は……望めない。
 もちろんいくつもの商家を抱えているので財政的にも手伝って頂けるのならありがたいのですが……それはお父様たちの出方次第ですわね。
 今回のアレやソレやは地位を揺るがす大失態……大スキャンダルですもの。

「っ……!」

 けれど一番影響が大きいのはお姉様……リーデン伯爵家でしょう。
 元々落ち目なところをお姉様と、その実家であるロンディウヘッド侯爵家が後ろ盾となり保っていた家です。
 だからこそお姉様の暴走を、我が身の不貞という罪悪感も手伝って見て見ぬ振りをしていたリーデン伯爵ですが……まあ、ツケが回ってきた、というのでしょうね。

「ま、待っ……待って欲しい! クリスティア嬢! そんな、我々……いや、リーデン伯爵家はどうなるんですか!? まさかお取り潰しなんて……そこまでの事はなさいませんよね!? ね!?」

 まあ、お姉様を庇うどころか我が身ですか。
 お話に聞いていた以上に残念な方……。

「ロンディウヘッド侯爵は由緒正しきこの国の侯爵家ですわ! あなたの事だって、わたくしたちが買い取って育てなければ野垂れ死んでいたのですよ! 感謝されど、廃爵やお取り潰しになるような事はなに一つしておりませんわ!」

 叫んだのはお母様。
 お元気でなによりですわね。
 お姉様はまだ気分が悪そう……でもしっかりわたくしを睨んでいる。
 一応自分たちがわたくし次第でどうとでもなるのだとご理解頂けているようで……。

「…………まあ、そうですわね」

 実際わたくしを、半ば虐待とも取れるような育て方をされてはおりましたけれど……戸籍のない子どもでしたから……ロンディウヘッド侯爵家を罪に問う事は出来ない。
 お母様の言う通り、ロンディウヘッド侯爵家は今日の無様な醜態くらいしか非がないのです。
 ああ、お姉様は別ですけれどね。
 色々証拠も揃っていますし、本日のコレですし。

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