腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

文字の大きさ
30 / 37

お蕎麦が食べたいです

しおりを挟む

「おお!」
「わあ、僕の贈ったドレス!」
「はい!」

 ミリアムとアークの元へと戻ると、お二人に満面の笑みでお出迎えして頂きました。
 着替えたドレスはアークが贈ってくれた青のドレス。
 今回も顔にヴェールは被りますが、ドレス自体は洋服に近いですわ。
 そして会場の方は盛り上がっておりますわね。
 先程わたくしが用意したアイスの試食開場が大盛り上がりで、人が列をなしております。

「お帰りなさい、クリスティア。とてもよく似合っているわね」
「ありがとうございます、エリザ様!」
「ええ、さすがうちのアークの見立てだわ。余興の方もとても素晴らしかったわよ。一部放送禁止映像が流れてしまいそうだったけれど、上手くフォローしたと思うわ。あの兵士たちにはあとで褒美を与えましょう。実によい仕事ぶりでした」
「はい! ジーン様、わたくしもそう思っておりました」

 リバース処理兵たちは大変素晴らしい仕事をしてくださいました。
 ご褒美はなにがいいでしょうね?
 やっぱりアイスにしましょうか?

「そうですわ、フィリーとジェーン様もご協力ありがとうございました」
「それは構わないわ! こっちとしてもスッキリしたし!」
「ええ! ざまぁみやがれですわ!」

 ジェーン様が未だかつてないほど生き生きした顔をしておられますわ。
 そういえばジェーン様はメアリお姉様の圧で、わたくしに挑まされていたんですわよね。
 それじゃあ今日の事でスッキリ心の整理も出来たという事なのでしょうか。
 それならそれで良かったですわ。
 ……次はわたくしですわね。

「では、ミリアム、アーク、わたくしお姉様に会って参りますわ」
「本当に一緒に行かなくていいのか?」
「心配なんですけど」
「大丈夫ですわ。それに二人がいるとお姉様の本音は絶対聞けません」
「「うう」」

 王族がいたら絶対に取り繕うに決まっているのです。
 だからお二人にはパーティーで引き続きお客様のお相手をお願いしますわ。

「まあ、あれだけ無様な姿を晒したあとで、取り繕う気力があるかどうか怪しいものですが……。クリスの事はこのフィリアンディス・プラテがしっかりとお守りしますから、お任せくださいませ!」
「私も! ご一緒します!」
「……分かった。ルイナ、クリスを頼むぞ」
「かしこまりました、ミリアム様、アーク様」

 というわけでフィリー、ジェーン様、ルイナとともにお父様たちの連れて行かれた控え室へと殴り込みですわ。
 まあ、本当に殴り合いはしないと思いますけど。
 食べ過ぎで今頃グロッキー状態でしょうしね~。
 ……今更ながら、わたくしこんなにたくさん食べられる体質だったのですわよね。
 普通の人があれしか食べないのかとびっくりしてしまいます。
 けれど、前世のわたくしは普通の人よりも食べられなかった。
 世界には……世の中には美味しいものがこんなにあるのに……。
 いいえ、美味しいものがたくさんある事は、前世のわたくしも知っていた。
 でも病気で食べられなかったんです。
 病院の待合室にある雑誌に載っていたレシピや流行のお店の記事を見ながら、なんて美味しそうなんだろう……と思っていました。
 ああ、今ならあの世界の食べ物を……ずっと食べ歩いていられるのに……。

「お腹が空いてきましたわ……」
「えぇ、嘘でしょう? クリス……。さすがにドン引きですわよ……さっきあれだけ食べていたのに……」
「ごめんなさい、でも美味しいものを思い出していたら……」

 じゅるり……。
 ああ、美味しいもの……甘いものと冷たいものと辛いものと熱いものは食べたので、もっと他のものを食べたい。
 塩っぱいもの、素材の味が分かるもの……ああ、そうです、蕎麦が食べたい!
 擦ったばかりの山葵をちょっとだけ、出汁の利いた麺汁に溶かし、細切りの海苔が添えられた麺を少し浸してズズズっ! と……!
 おうどんでもいいですわ。
 コシのある太麺をやっぱり出汁の利いた麺汁にネギを浮かべで、それに絡めてずずずっと!
 もちろんあったか麺もありです。
 天そば天うどんなんて久しぶりに食べたくありません?
 海老天、かき揚げ、大根おろし……!
 パリパリ衣のついた、器からはみ出んばかりの大きな海老天を麺汁に浸して衣がそれを少し吸い込んだ瞬間を狙ってぱくりと!
 麺を啜り、ちょっと七味唐辛子で味変したりしながら、最後に残っていた海老天を食べるんです。
 もうその頃になれば海老天の衣は汁を啜って茶色く肥大化してグジュグジュになっている事でしょう。
 それを一口で……じゅるっと。
 でも中の海老だけはプリプリのままでその食感のギャップが——……。

「海老天蕎麦が食べたいです!」
「落ち着いてクリス! えびてんそば? なんの事か分からないけど、まずはあなたの元ご家族……特にメアリ様と話しをするんでしょう!?」
「そういえばそうでした!」
「なんでこの短時間に忘れられるのよ」

 だってぇ~!
 思い出してしまったら、食べたくなるじゃないですかぁ~!
 特にわたくし前世は病院食ばかりで、たまに病院の食堂で食べる海老天蕎麦はご馳走でしたのよ~!?
 病室に運ばれてくるのはおかゆ! たくあん! 薄い味噌汁らしきスープ!
 一応おかずは日替わりでしたけれど、多分あれはたくあんではなかったし味噌汁でもなかったですわ。
 調子の良い日に食べられる病院食堂の海老天蕎麦のなんと美味だった事か!
 最期の方は点滴だけで物を食べるという事もなくなり、食に興味のなかったわたくしですら「ひもじい」と口にするような日々でしたのよ。
 病院の海老天蕎麦はご馳走でしたのよー!

「ほら、部屋に着きましたわよ」
「うう……思い出したら食べたくなりました」
「そんなわけの分からない物、どうする事も出来ないでしょう? あとになさい」
「そうですよ、お嬢様」

 怒られてしまいました~。
 しかし二人のおっしゃる事はごもっともなんですよね。はーぁ~……。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko
恋愛
平凡な主婦だった私は、夫が不倫旅行で不在中に肺炎で苦しみながら死んだ。 そして、自分がハマっていた乙女ゲームの世界の、どモブ令嬢に転生してしまう。 不倫された心の傷から、リアルの恋愛はもう懲り懲りと思っている私には、どモブの立場が丁度良い。 推しの王子の幸せを見届けよう。 そう思っていたのだが、実はこのゲーム、王子の死亡フラグが至る所に立っているのだ。 どモブでありながらも、幼少期から王子と接点があった私。 推しの幸せを護る為、乱立する死亡フラグをへし折りながら、ヒロインとの恋を応援する!と、無駄に暑苦しく決意したのだが・・・。 ゲームと違って逞しく成長した王子は、思った以上に私に好意を持ってしまったらしく・・・・・・。 ※ご都合主義ですが、ご容赦ください。 ※感想欄はネタバレの配慮をしてませんので、閲覧の際はご注意下さい。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...