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初仕事(2)

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 一覧表を参考にしてルビーの祝石ルーナを薔薇の台座に取りつける。
 祝石ルーナを傷つけないように金具の間に挟むのは、工具を使うとはいえ結構気を遣うものだ。
 親指サイズの祝石ルーナを、しっかり台座に納めてから改めてズレていないかを確認する。
 その時、体の中から指先に向かって不思議なあたたかさが流れていく感じがするんだけれど……これはなんだろう?
 これが祝石ルーナの効果なんだろうか?
 不思議に思いながらも、ネックレスチェーンを金具に挟んで、完成。
 
「で、できました」
 
 ソラウ様に差し出してみせる。
 途端に祝石ルーナが光り輝きだす。
 ギョッとしたけれど、祝石ルーナの中に小さな光となって凝縮して灯り、治まる。
 いや、これは治まったと言っていいのだろうか?
 ずっと灯り続けている。
 
「あ、あの、これは?」
祝石ルーナ祝石ルーナとして機能している証だよ。祝石ルーナは時間が経つと中に込めた[祝福]が抜けていくんだ。装飾品に加工することで、効果が目に見えるようになる――って、言ったよね」
「物理的だとは考えも及びませんでした」
 
 確かにわかりやすく効果が現れるという話だったけれど、こういう意味だったのか。
 ……こういう意味だったの……?
 あれ? ちょっと騙されてない? 私……。
 いや、これはきっとあれだ。
 偉い人の考えることはわからない!
 
「うん、効果は『美容効果アップ』になっているな。あげるから自分で効果を確かめてみるといい。それも勉強になるだろうしね」
「あ、ありがとうございます。でも、本当にいいんですか?」
「初めて作ったものが売れるわけないだろ」
 
 ごもっとも……。
 
「でも、祝石ルーナを加工できたってことは君にはやはり聖魔力がある。さっきも言ったけれど祝石ルーナを装飾品にできるのは聖魔力のある細工師だけなんだ」
「わ……私なんかに、聖魔力が……?」
「普通の貴族は幼少期に魔力属性を調べると思うんだけれど、君はやっぱり調べていないんだね」
「う……。は、はい。養女として引き取ったけれど、居候にすぎないと言われていましたから……」
「養女として引き取ったなら養育義務があるんだけれどね? 君の養父は馬鹿なのかな?」
「え、ええ、とぉ……ど、どうでしょう……?」
 
 ものすごく冷たい目で見下ろされて、思わず顔ごと背けて目を泳がせる。
 怖い怖い怖い!
 
「まあいいや。魔力の属性とかも、その様子だと教わってないんだろう?」
「う……は、はい」
「教えることが山のようで面倒くさいのに、逆に興味深くなってきたな」
「え?」
 
 なんで、と見上げたら、ものすごーく悪い顔をしている。
 み、見るんじゃなかった……! 怖すぎる!
 
「ソラウ様、リーディエ様、昼食のご用意が整いました」
「え」
「あー、もうそんな時間。俺はあとでいいや。君は食べておいでよ、集中力を使ったから疲れていると思うし。今日はもうそのまま休んでもいいよ」
「え、で、でも……」
 
 作ったルビーの祝石ルーナをそのまま持って立たされ、シッシッと手で払われる。
 おろおろとソラウ様と、呼びに来てくれたオラヴィさんを見比べたけれど、ソラウ様は私を完全に無視して作業場の方に入っていってしまった。
 結局促されるまま食堂に向かう。
 掃除の行き届いた廊下、磨かれた窓、青い空。
 今まで住んでいたハルジェ伯爵家とは、なんだか明るさが違うような気がした。
 怒鳴る人も、殴ってくる人も、嫌味を言ってくる人も、見下してくる人も、無視してくる人もいない。
 はあ、と息を吐き出す。
 
「どうかなさいましたか? なにか気になるところでも?」
「え!? あ、い、いいえ! なんでも……、……ちょっとだけ、なんというか、その……呼吸がしやすいな、って、思っただけです」
「……? それはなによりです……?」
 
 ああああ、なにを言っているんだこの人は、みたいな反応!
 それはその通りですよね!
 どうしよう、二日目でもう変な人って思われるのはつらいものがある!
 
「あ! そ、そうです! なんか、掃除がとても行き届いていますね!」
「ああ、本宅から毎日使用人が掃除に来ているからですね。二階の使っていない部屋の方までは手が回っておりませんでしたから、今シニッカが掃除をしております。夕飯を終える前には、快適にお休みいただけると思いますよ」
「あ……ありがとうございます」
 
 でも、それってつまりこのお屋敷に常駐している使用人はいないということでは?
 ちらりとオラヴィさんを見ると、首を傾げられる。
 
「このお屋敷に使用人って、もしかしてオラヴィさんとシニッカさんと私だけなんですか?」
「えーーーと、リーディエ様は使用人の枠ではありませんね。シニッカと自分は、リーディエ様にお仕えするように仰せつかっておりますので」
「え!? ……。じゃあ、でも私のご主人様はソラウ様ですよね……?」
「その認識で大丈夫だと思います。リーディエ様には令嬢らしい最低限の教養を身に着けていただきながら、屋敷のことではなくソラウ様の健康面を気にしていただきたいのです」
「ソラウ様の……」
 
 あ、そうか。
 整理立てて言われてようやく理解した。
 私の仕事は、ソラウ様に求められることを覚えることと――ソラウ様に健康になっていただくことなんだ!
 思えばあの綺麗な瞳の下には、くっきりしたくまがあった。
 ゆっくり寝ていないんだろう。
 それに、昼食も……。

「ってことはご飯食べさせなきゃダメじゃないですか!ソラウ様を呼んできます!」
「ぜひよろしくお願いいたします」
 
 速攻で踵を返して作業場に駆け戻った。


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