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赤い鋏のパレード⑦
しおりを挟む必死な様子で報告していたロイが、いきなり顔をしかめて膝を付く。よくよく見れば、左右の脚にも無数の傷があって、あちこちでじわじわと出血が続いていた。ズボンの生地どころか、長い編み上げのブーツまで切れているから、小さくてもかなり深い傷なのだろう。
騎士の仕事にも戦うことにも、全く縁のない理咲に読み取れたくらいだ。上官であるノルベルトに伝わらないわけがない。すぐさま歩み寄って肩を貸し、自分が座っていた椅子まで連れてきてやる。
「よく報《しら》せてくれた。お前は医官殿に治療を受けて、ここで待機するように。西の郊外だったな、すぐ向かおう」
「す、すみません、お願いします……あの、耐性があるおれでもこんな有り様なんで、ほんとお気をつけて!」
「任せておけ。自分を誰だと思っている?」
「……現王陛下三傑がお一人、『銀鷹卿《ぎんようきょう》』ですね」
「よろしい」
ほっとした声で返した部下に頷いて、不敵に笑ってみせた隊長殿が急ぎ部屋を出て行く。その際、理咲たちに黙礼するのを忘れなかったのが律儀だ。さっき平身低頭していた時とは打って変わって、非常に頼りがいがあって格好良かった。
「よし、じゃあキミは治療に専念しよっか! ノルさんに任せとけばだいじょーぶ!!」
「あ、はい、ありが……ったたたたた」
「い、痛みますか、やっぱり」
「正直結構……火傷も混じってて、引き攣れるのがキツいっす」
「じゃあ焦げてるんですか、この黒いの!」
一体何があったのか。魔物《モンスター》ではなく魔法生物、ということは、そこまで凶悪な生き物ではないはずだが……いや、それはこの際後回しだ。火傷も出血も、放っておくとマズいことになる点は同じである。一刻も早く手当てをしないと。
とにかくまずは患部の洗浄! と、新しい洗面器いっぱいに汲んだ水でロイの腕を洗っていくポーペンティナ。邪魔しないように脇によけて、沁みるのを堪えている青年の顔をタオルで拭いてやった。こちらもあちこちに煤のようなものが付いて、どこに当たったやら額に盛大なすり傷が出来ている――いや、出来ていた。
――ふっ。
「……あれっ? 傷消えた!?」
「はい?」
「ええー!? あっホントだ、おでこきれいになってる!!」
一瞬見間違いかと思ったが、本職のポーペンティナも驚いているからそうじゃない。そこでやっと、今のがアロマテラピーに使ったタオルだったのに気が付いた。さっきまでのことといい、もしかして。
(本当は絶対いけないんだけど……ええい、もし何かあってもポーちゃんがいるし!!)
脳内で無責任なことを叫びつつ、タオルを広げて火傷まみれの腕に巻き付ける。しゅうっと微かな音を聞いた気がして、咄嗟にケガ人を見上げるが、当のロイはきょとんと目を瞬かせていた。信じられないと、はっきり顔に書いてある。
「わあっ、一瞬で治った! リサちゃんすごーい!!」
「おれも全然痛くなかったです! それ何て薬ですか?」
「うわああああ、やっぱり……!!」
この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!
現実世界ではあり得ないすさまじい即効性を目の当たりにして、大混乱する理咲の悲鳴が医務室に響き渡った。
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