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第3章:情けはリンゴの為ならず
二人にまつわるエトセトラ①
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まだ低い位置から差し込んでくる、うっすらと金色を乗せた太陽の光がすがすがしい。夜が明けてからまだまもない森は、緑と朝露の澄んだ香りに満ちていた。
そんな中を、連れだって歩いている影が三つほど。
「――といったわけで、こちらで起こったことは全て長にお伝えしております。くだんのツノを分析して、呪いについてもう少し詳しく調べてみようとお言葉を賜りました」
「長さんが自分でやるの!? スゴいですね」
「はい、郷で最も長命で博識なのはあの方ですので。他の宿主も今のところは現れていないそうですから、ひとまず安心かと」
「よかった。それで、この子はどうなるんですか?」
『きゅう』
外出用のマントをはおったティナと、抱き上げられて不安そうにしている春ウサギに見つめられ、淡々と報告していたシグルズがややこわばった顔つきで言葉を切った。おずおず、という擬態語がぴったりの口調で、
「……長が言われるには、手元において経過観察するのが最も望ましい、と」
『きゅうーっっ』
「……お兄さーん、嫌がってますよー」
「し、しかしながら、です! 追跡劇のせいで怯えてしまっている様子ゆえ、ティナどのの元で養生させつつ見守ってやるのが次善の策であろうとも仰せつかりました! 要らぬお手間を取らせてしまい、私個人としては大変申し訳ないのですが」
「なんだ、そんなこと? 全然問題ないですよ、喜んで面倒見させてもらいますっ」
『ぴぴっ♪』
「……そう、ですか。それは重畳」
いたって明るく受け合ってくれた相手に、シグルズの表情がほっと和む。本気で迷惑をかけることを心配していたようだ。最初の印象どおり生真面目なんだなあ、と小動物二匹を抱えつつ思うティナだったが、その頭上からさらに話題を振ってきたひとがいた。
「――わざわざそんな御大層な理由つけなくたって、会いたいなら顔出しゃいいだろうが。頭固いなぁ」
「っ、は!? 滅多なことを言うな!!」
「冗談だって。ほんっと融通きかねぇな」
「……バルトさーん、ひとの頭越しにケンカしないでくださーい」
「ははっ、すまんすまん」
じとっと据わった目で抗議するティナに、ぱたぱた手を振って笑っているのは、黒い髪と琥珀色の目をした青年。そう、つい先ほど目覚めた黒づくめのひとだ。もう少し休んでいればいいのに、薬が効いてきたらすぐ出るといって聞かなかったのである。
寝ている間にがんばって繕った服は、丈夫ななめし革で出来ている上、あちこちに防具が仕込んであって結構重かった。そんなものを当たり前の顔で着こなしているこの人はバルトと名乗り、一般市民に危害を加える魔物などを退治して回ることを生業にしている、と教えてくれたのだ。
「……で、なんでお前までついてきてんだ? アンノスに長からの言づてがあるなら、俺がやっとくが」
「当然だ、直々の御下命ゆえ。第一、うら若い女性をほぼ初対面の男と二人きりになど出来るか!」
「信用ねえなー、いくら何でも命の恩人にいきなり手を出したりはせんぞ」
「この方の前でそういうことを言うなー!! 聞いてはなりません、耳が穢れますッ」
「ふぎゃっ」
「だああ、わかったって! 本気で過保護だなオイ!」
そんな中を、連れだって歩いている影が三つほど。
「――といったわけで、こちらで起こったことは全て長にお伝えしております。くだんのツノを分析して、呪いについてもう少し詳しく調べてみようとお言葉を賜りました」
「長さんが自分でやるの!? スゴいですね」
「はい、郷で最も長命で博識なのはあの方ですので。他の宿主も今のところは現れていないそうですから、ひとまず安心かと」
「よかった。それで、この子はどうなるんですか?」
『きゅう』
外出用のマントをはおったティナと、抱き上げられて不安そうにしている春ウサギに見つめられ、淡々と報告していたシグルズがややこわばった顔つきで言葉を切った。おずおず、という擬態語がぴったりの口調で、
「……長が言われるには、手元において経過観察するのが最も望ましい、と」
『きゅうーっっ』
「……お兄さーん、嫌がってますよー」
「し、しかしながら、です! 追跡劇のせいで怯えてしまっている様子ゆえ、ティナどのの元で養生させつつ見守ってやるのが次善の策であろうとも仰せつかりました! 要らぬお手間を取らせてしまい、私個人としては大変申し訳ないのですが」
「なんだ、そんなこと? 全然問題ないですよ、喜んで面倒見させてもらいますっ」
『ぴぴっ♪』
「……そう、ですか。それは重畳」
いたって明るく受け合ってくれた相手に、シグルズの表情がほっと和む。本気で迷惑をかけることを心配していたようだ。最初の印象どおり生真面目なんだなあ、と小動物二匹を抱えつつ思うティナだったが、その頭上からさらに話題を振ってきたひとがいた。
「――わざわざそんな御大層な理由つけなくたって、会いたいなら顔出しゃいいだろうが。頭固いなぁ」
「っ、は!? 滅多なことを言うな!!」
「冗談だって。ほんっと融通きかねぇな」
「……バルトさーん、ひとの頭越しにケンカしないでくださーい」
「ははっ、すまんすまん」
じとっと据わった目で抗議するティナに、ぱたぱた手を振って笑っているのは、黒い髪と琥珀色の目をした青年。そう、つい先ほど目覚めた黒づくめのひとだ。もう少し休んでいればいいのに、薬が効いてきたらすぐ出るといって聞かなかったのである。
寝ている間にがんばって繕った服は、丈夫ななめし革で出来ている上、あちこちに防具が仕込んであって結構重かった。そんなものを当たり前の顔で着こなしているこの人はバルトと名乗り、一般市民に危害を加える魔物などを退治して回ることを生業にしている、と教えてくれたのだ。
「……で、なんでお前までついてきてんだ? アンノスに長からの言づてがあるなら、俺がやっとくが」
「当然だ、直々の御下命ゆえ。第一、うら若い女性をほぼ初対面の男と二人きりになど出来るか!」
「信用ねえなー、いくら何でも命の恩人にいきなり手を出したりはせんぞ」
「この方の前でそういうことを言うなー!! 聞いてはなりません、耳が穢れますッ」
「ふぎゃっ」
「だああ、わかったって! 本気で過保護だなオイ!」
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