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瑠璃も真実も照らせば光る⑦
しおりを挟む腹が減った。辺りのものを片端から薙ぎ払って進みながら、堕神の思考の大部分はそれで占められていた。
『滅するか否かの瀬戸際、迷うておる余地はなかった――が、器があるというのはやはり不便よな』
ふん、と鼻息も荒く言い捨てる。くだんの『器』であるところの子どもは、熱のせいで完全に意識を手放しているようだ。日頃は不平不満を喧しく囀っているというのに、うんともすんとも言わない。確かに選ぶ余地はなかったが、よくもまああれだけ悪しき言霊ばかりを発することが出来るものだ。己の生国の常人ならば、とっくの昔に何がしかの災いを引き寄せて自滅している。……だからこそ、そういった概念に疎いこの異国に潜り込んだのだ。
とにかく、こうして器を乗っ取るくらいには回復できた。運の良いことに、厳重な警備をすり抜けて王城に入り込むことも出来た。あとは然るべき贄を取り込んで血肉とし、失った目と左腕を取り戻して、国の中枢を掌握するだけだ。扶桑ではあともう少しで達成できたにもかかわらず、邪魔が入ってしまったが。
『あの人の仔ども、特に斎宮! 生意気にも目に呪をかけおって、次にまみえた折には必ず――』
「――ああ、やっぱり見えにくいのか。やけに攻撃が大振りだと思った」
『ん!?』
思いがけず間近で聞こえた声に、反射的に右腕を振るう。横一線に払う一撃で柱と壁がごっそり吹き飛んだが、相手は気にしたそぶりもなく続けた。
声の低さと質からするに、まだ若い男だ。必死で凝らした視界に、ぼやけつつもどうにか像を結んだ姿は、紺青の衣服に白銀の鎧――この国で王族に仕える武人の装束だった。しかも、
『貴様、何故に剣を持っておる!? ここは武装が禁じられておるだろうが!!』
「てことは、帯剣禁止区域ってわかった上で出てきたんだな。賢者殿からざっと聞いてはいたが、相当質が悪いなあ、お前」
『お前だと!? 何を偉そうな口を、人如きが!!!』
畏れ多くも神に対して何たる口の利き方か、と憤った堕神が再び拳、ついで右脚の蹴りを繰り出してくる。それを難なく走って躱しながら、武人――当然のことながらクライヴは、内心で拳を握っていた。よし、かかった!
(プライドがとにかく高いから、ちょっとからかってやるだけで簡単に怒る、とはおっしゃってたけど……予想以上だな、これは)
もっと荒っぽい挑発も考えていたのだが、この分じゃやめておいて正解だった。でなければこの後、ユーフェミアの出番に支障が出たかもしれない。と、いうか、
(あんまり汚い言葉遣いして、引かれたくないしなぁ……)
口には出さずにぼやいてから、そんな場合ではないのについ苦笑する。こんなことを考えていると知れたら、賢者や姉や王太子、近衛隊の同僚に笑われるに違いない。それを想像するとだいぶ照れくさいが、心底嫌なわけではない。その理由はもうとっくの昔に分かっていた。
(さて。平和なやり取りをするためにも、さっさと頼まれた役割を片付けるか)
元から狙いは微妙だったが、怒りに駆られている今はさらに滅多打ちの風情だ。特に脚の方はリーチが長いだけに中々の脅威で、当たったところから放射状にヒビが走ってどんどん崩壊していく。その威力に驚きながら、つい先ほど打ち合わせた際の言葉を思い起こす。
――クライヴ殿には陽動役をやってほしいんです。とにかく平常心を失わせて、礼拝の間の手前までおびき寄せて下さい。あとですね
頭上すれすれを煙の塊が掠めていく。それに片手で捕まって、振られる反動を利用して跳躍する。そして、
ザシュッ!!!
『――っ、は!? 何ぃッ』
宙づりになったエリオット、ではなく、右腕に絡んでいる煙を斬り払った。ぶわっと拡散して掻き消えるのを目の端で捉えつつ、着地と同時にその場で回転し、一本足も一刀両断にする。痛みもなく、しかしあっという間に移動と攻撃の手段を失った堕神が驚愕の声を上げた。
――帯剣禁止はもう解除してもらってますので、剣に魔法かけてガンガン使ってください。取り憑かれてるご令息は後回しで、まずは手足を何とかしましょう
景気の良すぎるゴーサインを出してくれた責任者の言を思い出す。さあ、露は払ったとばかり、出撃を待っている相方に呼びかけた。
「ユーフェミア!! 君たちの出番だ!!」
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