デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第七章:

おめざめですか、イブマリー①

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 目が覚めたら、なんだかやたらと暗かった。

 (……あれえ、今何時だろ……)

 半分以上寝ぼけた状態でごそごそ体勢を変え、とりあえずカーテンを開けようと手を伸ばしたら、思ったより手前で布に触れた。さらさらふわふわなこれはベルベットかな……あ、これ、ベッドの周りに布が垂らしてある? いつかリュシーもどきが離宮の部屋で使ってたような、それこそお姫様とかお嬢様が寝るような、天蓋に幕がついてるやつで――、えっ!?

 「ちょっと待って、ここどこ!?」

 がばあっ、と文字通り跳ね起きた。その勢いで周りの天幕を引き開けたら、部屋の中は思ってたより明るいカーテンは閉まってるけど、その隙間から明るい光が差し込んでいて、床に敷かれた絨毯にラインを作っていた。これは確実に、朝どころか昼に近い時間帯の差し込み方だ。ついでに、

 「……あー、公爵さんのお屋敷かぁ……」

 そろっと細く開けてみたカーテンの外に、バラや芍薬といった季節のお花がたくさん咲いている庭園と、その向こうにちょっとだけ見える街――確実にヴァイスブルクだなぁ、という風景を目撃して、一気に記憶がよみがえったわたしは深々とため息をついた。






 ――誤解がないように言っておくと、別に嫌なわけではない、と思う。

 限界オタクの野生のカンが根拠の八割だったとはいえ、マグノーリア侯爵と血縁関係がないって推理が当たったのはうれしい。公爵さん本人は言うまでもなく、アンナさんを筆頭にお屋敷にいるひとはみんな親切だ。ユーリさんだって綺麗だし優しいし、……いや、まあ、ブチ切れた時の暴れっぷりはちょっと予想外だったけど、あれはおっさんが悪いんだし。

 そう、そもそもは諸悪の根源だった(らしい)ジョナスのおっさんが全面的に悪いのだ。それはもう絶対間違いない、のだが、

 「アンリさん、起きてますか? 大丈夫? ……どうしよっか」

 《ええ、起きていてよ。心配をかけてごめんなさいね。
 そうねえ、わたくしも大体同意見なのだけど……ここまでもつれ込むと、こちらが逆に気を遣ってしまうというか……》

 「だよね!! 正直、もンのすっごい気まずい!!」

 魂だけで気絶するという、器用なことをやっていたガワの人だが、聞こえてきた声はいつも通り落ち着いていた。それに安心するのと同時に、返事の内容に同意しかなくて力いっぱいうなずいてしまう。うん、ホントそれ。

 こんなに警備が厳重なお屋敷から、ジョナスのおっさんはいつ泣き出すかわからない赤ちゃんをどうやって誘拐したのか。そして何をどうやってランヴィエルまで逃げおおせたのか。それも気になるけど、どうして公爵さんたちはこんなに時間が経つまで見つけられなかったんだろうか。ユーリさんが激おこしながらそれっぽいことを言ってた気がするけど、絵面のインパクトがすごすぎてほとんど覚えていない。

 そして何より問題なのは、その辺りが放置されたがためにアンリエットが辛い半生を送り、一回死にかけるほどの目に遭った挙句、追っかけてきた不肖の父が大罪人かつすでに人間ではなかったという衝撃の事実を知り、なおかつ目の前で冥府に引きずり込まれた――という、わりと取り返しがつかない事態を招いてしまってることなわけで……

 うん、気まずい! めっっっっちゃ気まずい、正直ご家族再会なんて素敵イベントがかすむくらいには居たたまれないー!!

 《……イブマリー、あなた本とに真面目よねえ》

 「ええー? そうかなぁ」

 《ええ、そうよ。それにとっても優しいわ。今こんなに困っているの、主にわたくしと他の皆のためでしょう?》

 「う。……うん、まあ、そんな感じです、はい」

 《ふふふ、よろしい。それじゃあまず、お二人のお話を聞いてみる? ちょうどこちらに向かっている気配がするから》

 ベッドに座り込んで頭を抱えたわたしを、そう言って促してくれたアンリエットの声は、いつにもまして微笑ましそうで柔らかかった。何気にメンタル玉鋼ですね、ガワの人よ。


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