かわいい悪役令嬢俺とクソゲー世界

あくるめく咲日

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幼少期の章

俺そのものをバグにしてくるクソゲー

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「俺、悪役令嬢じゃね?」

ちょっと釣り目だけど最高にかわいい俺が、最高にかわいい女の子の服を着て最高のメイドにメイクアップしてもらえば、最高にきゃわな女の子になるはずだろうと思って鏡を見た。

前世で見たことのある悪役令嬢の幼少期の姿がそこにあった。

ええっ……確かにかわいいけれども。最高のきゃわがここにつまっているけれども。

複雑な心境で俯くと、女装協力者であるメイドたちがそんな可愛らしい俺に見惚れた後に高らかに声を上げ始めた。

「Q様! 最高にかわいいですわ!」

「どこからどう見ても女の子、いえ、最上級の高嶺の花! あまりの可愛さに失神者続出間違いなしでございますぅ!」

「ありがとうございます」

にこりとほほ笑んで会釈をするとみんなが心臓を抑えた。妥当なリアクションだな。

まあ、元がいいからこうなるだろうなとは思っていたけれど、まさか。

まさか、俺が前世プレイしたことのあるクソゲーと名高き乙ゲーの世界の悪役令嬢に転生しているとは。

流石クソゲー。

好感度マックスの個別エンド中に突然好感度がマイナスになるという奇跡的なバグを引き起こしたゲームだけある。転生にもこんなバグを引き起こしてくるとは。

これもうシナリオどうなるのかわかんねぇぞ……。

ハハッ、と力なく笑うと目の前の悪役令嬢も同じように力なく笑った。



さて、前世の記憶なんて生まれたときから持っているので衝撃はあまりなかった。

てっきり純粋に異世界転生したとばかり思っていたから既知の世界ということに少し驚いた程度。

俺が男のせいで明らかにストーリー通りに行かないとは思っているが、まあ一応忘れる前にストーリーの確認はしておかないといけない。

とはいっても、この悪役令嬢は王国騎士のオーデルハイン家と王国魔導士のセルーネ家の間の第二子。

両親に甘やかされて育っているので第二王子のご学友である兄について行って王城に入ったりするなかなかアグレッシブな子だ。

そして見かけた第一王子に一目惚れするものの、全く相手にされず、第二王子の婚約者となることで第一王子に取り入ろうとする。みたいなよくいる悪役令嬢。

かなり容姿端麗ということくらいしか俺と共通点になることはない。

まあ俺は男だから婚約者になることも出来なければ、そもそも第一王子に知り合えすらしない。

ちなみに彼女関連のバグは他と比べて些細なバグなので唯一の良心と言われていたりする。なんたって、たかが誤字だったり表示間違いだったり。さっき出番が終わったはずの彼女のグラフィックが暫く消えず、ヒロインが悪役令嬢の策略により閉じ込められてひとりぼっちというシチュエーションの時に画面上ではずっと一緒にいてくれるみたいな、プレイヤーと恋が始まりそうな感じなバグばかりだったのだ。あとセーブデータを破壊しないしスタートに戻さないしセリフループもしないからというのも好かれる要因だ。



話はそれたが、俺が男である以上彼女と同じようなポジションに立つのは無理。

兄上と第一王子と第二王子という、ゲームの半分が悪役令嬢を障害にしているのでなんというか本当に詰んでいる。何だこの致命的なバグ。この三人選んだらきっとなんともな~く結ばれてハッピーエンドになるのだろう。兄上ルートが俺のせいでちょっと錆びついてしまった気がしなくもないが。



まあ、そんな不確定な未来なんか久しぶりに帰ってくる兄上と比べれば塵に等しい。

なので特に何も考えずに兄上のお出迎えに向かった。

「お兄様! お帰りなさいまし、ジュタお兄様! Qはお兄様のお帰りを何よりもお待ちしておりました」

ショタ特権のボーイソプラノに甘さを加えた声と極上のほほ笑みを携えて家に入って来た兄上を出迎えると、兄上は従者が開いた扉をそっ閉じした。

そう来るか。

兄上、三日前はもう少しノリがよかったのに。やはり、死んだふりより完成度の高い女装の方がリアクションは薄いということか。少し、美少女になりすぎてしまったな。

反省反省。それはともかく。

後ろのメイドにちらりと視線を向けて頷き合う。

「まあ、どうしたのかしら」

「Q様、坊ちゃまはおそらく久しぶりの実物のQ様の可愛らしさに動揺してしまったのですよ」

「三日ぶりですもの、照れていらっしゃるのですわ」

「そうだと良いのですけれど……もしかして、お兄様は私のことを嫌いになったのではないでしょうか」

「「そんなはず」」

バァン!!

「まさか! そんなことは万に一つもあり得ないことだ! ああ、そんな顔をしないで。可愛らしいお顔を更に彩った美しいそのお顔をこちらに見せておくれ、僕の可愛い可愛いQ! 可愛いお洋服でなんて愛らしお迎えをしてくれるんだ。三日も家を開けてしまって申し訳なかった、許しておくれ僕の可愛い天使。さぞ寂しい思いをさせてしまったことだろう。さあ、兄の腕の中に飛び込んで来なさい」

「お帰りなさいませお兄様」

そこまでのリアクションは求めてなかったなぁと遠い目をして全く動き出そうともしない俺を兄上は抱きかかえてギュッと抱きしめた。

そしていつものように頬擦りをして来ようとするものだからぴしゃりと頬を叩いた。おしろいが取れるだろ。流石の兄でもそれはやめてくれ。

そんな兄弟仲睦まじい光景を使用人たちがハンカチで涙をぬぐう素振りをしてうなづいて見守るのが俺と兄上の日常である。唯一、いつもと違うところがあるのだけれどこれは俺が指摘してもいいのだろうか。

「ああ、ただでさえ可愛いQ。どうして今日はこんなにも可愛らしい姿を? 中庭の花園の妖精のようだ」

「お兄様の比喩の引き出しについては後で話しましょう。何も特別なことはありません、お兄様のことを私の一番かわいい姿でお出迎えしたいと三日間考えただけですもの」

「天使……!」

兄上の語彙力が限界になっている。

耳障りのいいことを言っているけれど、要は暇だったのだ。あとこの家は本来俺が女として生まれてくることを前提にしていたから、女児向けドレスがたくさんあった。箪笥の肥やしになっているそれを有効活用しただけだ。それにしても、

「……」

扉の向こうで見てはいけないものを見てしまった気持ちなのか、純粋に普段クールな兄が途端に気持ちが悪くなったから関わりたくないと思ったのか、

必死に存在感を消している人とさっきから目が合ってしまう。

悪いことをしてしまった気がする。

というか、悪役令嬢だと思い出した影響であのクソゲーの記憶が完全に蘇ってしまった今、目が合っているこの不憫な少年が何者なのかわかっているわけで……。

うーん。

これ、全員不敬罪になるのでは?と思うけれど。これ以上無視しても罪が重くなるだけなので、俺を抱きしめてくるくる回りだした兄上を殴り飛ばしたくなる気持ちを抑えて口を開いた。



「あの、お兄様。あの方は?」

「ああ、彼は私が友人をさせてもらっているキーン第二王子だよ」

その兄上の爆弾により、存在感を消していた第二王子に全員が注目し、絶叫を飲み込んですぐさま膝をついた。

みんな可哀想なほど顔が真っ青……いや兄上も膝をついてくれ。

我が家は父系にしろ母系にしろどっちも献身的な王家の狗ぞ??

「兄上も膝をついてください。恥ずかしい」

「ああ、そうだったそうだった」

そうだったじゃない。

俺を抱えたまま膝をつく兄上に小さくため息をつくと、それ以上に大きなため息にかき消された。



「あー、なんつーか。邪魔する気はなかったんだよ」



いたたまれなさそうに後頭部をがしがしかく金髪のイケメン。

これが、俺と第二王子であるキーン様との出会いだった。

この後、王族にしては信じられないほどフランクなキーン様はあっさり無礼を許してくれた。俺は青ざめるメイドたちに回収されたので2人でお茶会をしたらしい。





後日、王族の家紋が入った正式な手紙にてキーン様から婚約者候補に指名されるなんて思いもよらなかった。女装なんてめったにするもんじゃないな、と反省した。

クソゲーの癖に世界の強制力とか起こしてんじゃねぇよ。
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