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箱庭の章
バグの箱庭
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いつの間にか、雨が降っていた。
どこまで走ったのか分からない。
途中で走るのをやめたけれど、足は歩き続けている。
この先に何があるかなんて知らない。どこにも行けない。どこにも行きたくない。
ヒールはどこかに行ってしまったらしく、そういえば足の裏がびりびりと痛い。
だから、なんだって話なんだけどな。
ぐるぐる渦巻くだけの思考の中で、ポツンと明確な意志が声を上げた。
……彼を、街中で置いてきてしまった。
ああ、くそ。俺が悪いのに、逃げ出してしまった。加害者の癖に逃げ出した。
拒絶の言葉を、聞きたくないから。勝手に見当違いな謝罪を述べて逃げた。
……一人取り残された彼を、あの護衛はちゃんと保護してくれただろうか。
「……傷つけたく、なかったんだけどなぁ」
体も心も傷ひとつ付けたくはなかったのに。
よりにもよって俺が彼の心に深い傷を負わせてしまったのだ。
ああ、くそ。ままならない。最低だ。なんで、上手くいかない。
人生二回目なのに。どうして上手くいかない。
自分本位で自分が可愛い俺のことが俺は大嫌いだ。
雨が。
目から頬に落ちていく。
最悪だ。つられて涙が出そうになるじゃないか。
傷付けた俺がなんで涙を流せるのか。泣いたりなんかしたら、俺は本当に自分のことが許せなくなる。
「……?」
ふと、頭を打つ水がなくなったので頭を上げる。
「おかえり。Q」
「兄上……」
いつもの微笑みの兄上が、俺を優しく抱き上げて馬車に乗せてくれた。
「こんなに冷たくなって。可哀想に」
「兄上、俺は何よりも傷付けたくない人を傷付けてしまいました」
「? Qは何も悪くないよ」
さあ、大好きな可愛い僕の弟。屋敷に戻ろう。
……ああ、話が通じない。
雨の音を一身に受けた馬車が、蹄を鳴らして箱庭へと帰っていった。
兄上は、俺をとことん甘やかした。
一緒にいる間はずっと抱きしめて、一方的に言葉を俺に紡いでくれた。
心が痛いんだね。辛いんだね。
でも、Qは何も悪くないよ。だって、こんなに可愛いんだから。可愛いQちゃんは何も悪くない。
仕方なかったんだよ。
ああ、可愛いQ。
最初から屋敷から出なければこんなことにはならなかったのに。
今まで通りに戻るだけ。そうでしょ?
屋敷に居れば僕がずっと守ってあげられるんだから。お兄ちゃんとずっと一緒。それがQにとって一番いいことなんだから。
大丈夫だよ、お兄ちゃんはQのことが大好きだから。
可哀想で可哀想で可愛いQちゃん。
可哀想な子がした事なんだから、仕方がないんだよ。ね。
しょうがないよ。だってQは可哀想な子なんだもの。
とまあこんな感じで。
何を言っているんだろうか。
十中八九俺が悪いのに。
兄上は歪んでいる。
加害者の俺を被害者のように接してくる。
可哀想であることを求めてくる。そんな兄上が一番可哀想だ。
……ルエリア様は、どうしているだろうか。
時が流れれば、心の傷が埋まるだろうか。
そうして俺のことを忘れてくれないだろうか。
俺への言葉の全てを悔いているだろうか。
……俺からの言葉を全て嘘だと思っていることだろう。
「……Q様、お花を植えましょう」
庭師があの日買った種とスコップを持って来た。
「俺でも、花を咲かせられるかな」
俺はルエリア様からの言葉を、
ルエリア様から与えられたものを、
ルエリア様を傷付けた罪を、
心に刻んでこの箱庭で生きても良いだろうか。
どうか。ルエリア様が俺なんかのことをすっかり忘れてしまって。どこかの誰かと幸せになれますように。
忘れられなくても、その傷を一緒に縫ってくれるような誰かから愛されますように。
嘘ついてて、ごめんなさい。
なんて正しい謝罪の言葉は今更何の意味を成すことなく空気の中に消えていった。
どこまで走ったのか分からない。
途中で走るのをやめたけれど、足は歩き続けている。
この先に何があるかなんて知らない。どこにも行けない。どこにも行きたくない。
ヒールはどこかに行ってしまったらしく、そういえば足の裏がびりびりと痛い。
だから、なんだって話なんだけどな。
ぐるぐる渦巻くだけの思考の中で、ポツンと明確な意志が声を上げた。
……彼を、街中で置いてきてしまった。
ああ、くそ。俺が悪いのに、逃げ出してしまった。加害者の癖に逃げ出した。
拒絶の言葉を、聞きたくないから。勝手に見当違いな謝罪を述べて逃げた。
……一人取り残された彼を、あの護衛はちゃんと保護してくれただろうか。
「……傷つけたく、なかったんだけどなぁ」
体も心も傷ひとつ付けたくはなかったのに。
よりにもよって俺が彼の心に深い傷を負わせてしまったのだ。
ああ、くそ。ままならない。最低だ。なんで、上手くいかない。
人生二回目なのに。どうして上手くいかない。
自分本位で自分が可愛い俺のことが俺は大嫌いだ。
雨が。
目から頬に落ちていく。
最悪だ。つられて涙が出そうになるじゃないか。
傷付けた俺がなんで涙を流せるのか。泣いたりなんかしたら、俺は本当に自分のことが許せなくなる。
「……?」
ふと、頭を打つ水がなくなったので頭を上げる。
「おかえり。Q」
「兄上……」
いつもの微笑みの兄上が、俺を優しく抱き上げて馬車に乗せてくれた。
「こんなに冷たくなって。可哀想に」
「兄上、俺は何よりも傷付けたくない人を傷付けてしまいました」
「? Qは何も悪くないよ」
さあ、大好きな可愛い僕の弟。屋敷に戻ろう。
……ああ、話が通じない。
雨の音を一身に受けた馬車が、蹄を鳴らして箱庭へと帰っていった。
兄上は、俺をとことん甘やかした。
一緒にいる間はずっと抱きしめて、一方的に言葉を俺に紡いでくれた。
心が痛いんだね。辛いんだね。
でも、Qは何も悪くないよ。だって、こんなに可愛いんだから。可愛いQちゃんは何も悪くない。
仕方なかったんだよ。
ああ、可愛いQ。
最初から屋敷から出なければこんなことにはならなかったのに。
今まで通りに戻るだけ。そうでしょ?
屋敷に居れば僕がずっと守ってあげられるんだから。お兄ちゃんとずっと一緒。それがQにとって一番いいことなんだから。
大丈夫だよ、お兄ちゃんはQのことが大好きだから。
可哀想で可哀想で可愛いQちゃん。
可哀想な子がした事なんだから、仕方がないんだよ。ね。
しょうがないよ。だってQは可哀想な子なんだもの。
とまあこんな感じで。
何を言っているんだろうか。
十中八九俺が悪いのに。
兄上は歪んでいる。
加害者の俺を被害者のように接してくる。
可哀想であることを求めてくる。そんな兄上が一番可哀想だ。
……ルエリア様は、どうしているだろうか。
時が流れれば、心の傷が埋まるだろうか。
そうして俺のことを忘れてくれないだろうか。
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……俺からの言葉を全て嘘だと思っていることだろう。
「……Q様、お花を植えましょう」
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ルエリア様から与えられたものを、
ルエリア様を傷付けた罪を、
心に刻んでこの箱庭で生きても良いだろうか。
どうか。ルエリア様が俺なんかのことをすっかり忘れてしまって。どこかの誰かと幸せになれますように。
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嘘ついてて、ごめんなさい。
なんて正しい謝罪の言葉は今更何の意味を成すことなく空気の中に消えていった。
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