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同じ釜の飯
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湊斗さんの泊まり部屋が、私たち2人の部屋に変わった。
毎日少しずつ自宅から本を運び込み、自分の書斎を完成させていった。(ちなみに私にあてがわれたのは玄関を入ってすぐの6畳ほどの洋間だ)
本を処分する予定だった父は目を丸くしていた。
『そんな、いくら恋人とはいえ人様の家を倉庫代わりにしていいのか』
『ちゃんと部屋の管理するって条件付きだってば』
『あ~~!湊斗くんすまん~~!わしがさっさと処分しておかなかったせいで君に迷惑が……』
『迷惑にならないようにするって!部屋代もちゃんと払う予定だし』
『うむ、恋人でもそこはしっかりせんといかん。金の切れ目が縁の切れ目というからな』
『……………………』
現金は受け取ってくれないと相談すると『じゃあ寄付の名目で病院宛に振り込むしかないな』と言っていたのは冗談だと思いたい。
・・・
そんな感じの日々を過ごしていたある日の夕方。そろそろ戻ろうかと思いつつ、湊斗さんの部屋でだらだら本を読んでいた私は、受信したメッセージを読んで焦っていた。
『明日はお休みです。もしよければ、今日は一緒に過ごしませんか』
……これって、あれよね。ここで過ごすって意味よね?
部屋はいつ点検に来てもらっても結構なんだけど、今日の私の格好って大丈夫?
ていうか、えーーーーと、て、手料理とか振る舞った方がいい??
震える指で返事を打った。
『いいですね。今の時間だったら夕飯はどうされますか?』
えいやっと送信した。3分ほどで返信がきた。
『食べに行ってもいいですし、何か買ってきて部屋で食べてもいいですし。どうしましょうか?』
少し考えて、返事を送った。
『ごはんとお味噌汁と肉じゃがくらいならできますよ。材料が足りないのでスーパーに行く分少し時間頂ければ』
これは送ったらすぐに返信がきた。
『そうしたいです。帰る楽しみができました。お手数おかけしますが、お願いします』
律儀な文章に思わず頬が緩んだ。
料理は実はあまり得意ではないけれど、ここまで言われちゃあ腕がなるってもんよ。
読んでいた本を棚に戻し、ハンドバッグを手にスーパーへ向かった。知らず知らずスキップしていた私を、通り過ぎる人々が訝しげに見ていた。
・・・
「戻りました」
「はーい、おかえりなさーい。ちょうどできたところです」
ナイスタイミング、と笑うと湊斗さんも照れくさそうに笑い、かわいらしいピンクの箱をかざした。
「ケーキを買ってきました。食後に食べましょう」
「わ、嬉しいです。ありがとうございます。冷蔵庫に入れておきますね」
新婚みたいな雰囲気にどぎまぎしながらケーキを受け取り冷蔵庫に入れた。
どうしよう、なんだかすごく緊張してきた。
額の汗をぬぐいながらぎこちなく振り返ると、湊斗さんの穏やかな瞳と目が合った。それが優しく細められ、気付けばそっと抱きしめられていた。
どひゃー!と一瞬ハリネズミのように神経が張り詰めたが、私も彼の背中におそるおそる手を回し、存在を確かめるように腕に力を入れた。湊斗さんが笑う気配がした。
「……おかえり、ってもう一回言ってくれませんか」
「改めて言うのも恥ずかしいんですが」
「いいじゃないですか、お願いします」
「~~~~おかえりなさい」
小さな声でぼそぼそ言うと、湊斗さんはますます笑みを深めた。
「おいしいですね」
湊斗さんが嬉しそうにもぐもぐしながら言った。
それを聞いて私はほっとした半面、気を使ってくれているのかな?と心配になった。
ーーなにせ湊斗さんは鈴木病院の御曹司様。小さい頃からおいしいものを食べてきているだろうから、今は割と大きい会社の社長一家とはいえ元は一庶民に過ぎない私の作った料理なんて、お口に合うだろうか。
「嘘じゃないですよ」
私の心の声が聞こえたかのように湊斗さんが言った。
「料理、お上手なんですね」
あっという間に肉じゃががなくなっていた。おかわりを所望され少々驚いていると、
「すみません、とてもおいしかったものですから……」
「あ、いえいえ。まずくはなかったみたいでよかったです。おかわり、持ってきますね。たくさん食べてください」
「はい」
お皿に盛り付けながら、私はにやにやが止まらなくなっていた。心の中で小躍りする。
緊張もしていた分「おかわりください」という言葉を大変嬉しく思った。
ーーいい調味料買ってきた甲斐があったなぁ……!
奮発した甲斐があるってものであーる。
食事を終え、ケーキも食べ食後のコーヒーを飲みながら、大事なことを思い出した。
「あの、湊斗さん」
「はい?」
テレビで北欧特集を観ていた湊斗さんがこちらを向いた。バッグから封筒を取り出し、捧げた。
「ここのお部屋代です。お納めください」
「……何回言えば納得してくださいますか?こういうことはしなくていいです」
そろそろ怒りますよ、と呆れたように言われぐいっと腕をとられた。湊斗さんの腕の中にぽふっときれいに着地した。
「……これを言うと反感を買うかもしれませんが、お金には困っていません。なので、女性からましてや恋人からもらおうなんて考えたこともないです」
「俺のためだと思って、これはもうおさめてください」
本当に困っているようだ。けれど私も譲れない。
「湊斗さん、私もしていただくだけでは心苦しいんです。父からも金銭面はけじめをつけるように言われていますので」
父を出したことで、湊斗さんもおいそれと突っぱねることはできなくなったようだ。
しぶしぶ封を受け取り、中身の確認はせずそのままテーブルの上に置いた。
「……またお茶代が貯まりました」
「ふふ、お茶代じゃなくても湊斗さんが何か好きなものを買ってください」
「…………………………」
納得いかない表情で私を抱きしめた。
そのかわいらしい様子を愛しく思いながら、背中をそっと撫でた。
「私、嬉しいんです」
「何がです?」
湊斗さんが体を離して私を見た。真正面から見るにはイケメンが過ぎるので、湊斗さんをソファがわりのようにしてテレビの方を向いた。湊斗さんが遠慮がちに私の腰に手を回した。
「湊斗さん、本を持ってきていいよって言ってくれたことが。……ほら、この年で勉強なんてしてたらやれ気難しいだの変わり者だの言われることが多かったから」
「…………………………」
湊斗さんは無言だ。
「……うん。この間話しそびれた『離婚の理由』の一つです」
空気が少し緊張した。
毎日少しずつ自宅から本を運び込み、自分の書斎を完成させていった。(ちなみに私にあてがわれたのは玄関を入ってすぐの6畳ほどの洋間だ)
本を処分する予定だった父は目を丸くしていた。
『そんな、いくら恋人とはいえ人様の家を倉庫代わりにしていいのか』
『ちゃんと部屋の管理するって条件付きだってば』
『あ~~!湊斗くんすまん~~!わしがさっさと処分しておかなかったせいで君に迷惑が……』
『迷惑にならないようにするって!部屋代もちゃんと払う予定だし』
『うむ、恋人でもそこはしっかりせんといかん。金の切れ目が縁の切れ目というからな』
『……………………』
現金は受け取ってくれないと相談すると『じゃあ寄付の名目で病院宛に振り込むしかないな』と言っていたのは冗談だと思いたい。
・・・
そんな感じの日々を過ごしていたある日の夕方。そろそろ戻ろうかと思いつつ、湊斗さんの部屋でだらだら本を読んでいた私は、受信したメッセージを読んで焦っていた。
『明日はお休みです。もしよければ、今日は一緒に過ごしませんか』
……これって、あれよね。ここで過ごすって意味よね?
部屋はいつ点検に来てもらっても結構なんだけど、今日の私の格好って大丈夫?
ていうか、えーーーーと、て、手料理とか振る舞った方がいい??
震える指で返事を打った。
『いいですね。今の時間だったら夕飯はどうされますか?』
えいやっと送信した。3分ほどで返信がきた。
『食べに行ってもいいですし、何か買ってきて部屋で食べてもいいですし。どうしましょうか?』
少し考えて、返事を送った。
『ごはんとお味噌汁と肉じゃがくらいならできますよ。材料が足りないのでスーパーに行く分少し時間頂ければ』
これは送ったらすぐに返信がきた。
『そうしたいです。帰る楽しみができました。お手数おかけしますが、お願いします』
律儀な文章に思わず頬が緩んだ。
料理は実はあまり得意ではないけれど、ここまで言われちゃあ腕がなるってもんよ。
読んでいた本を棚に戻し、ハンドバッグを手にスーパーへ向かった。知らず知らずスキップしていた私を、通り過ぎる人々が訝しげに見ていた。
・・・
「戻りました」
「はーい、おかえりなさーい。ちょうどできたところです」
ナイスタイミング、と笑うと湊斗さんも照れくさそうに笑い、かわいらしいピンクの箱をかざした。
「ケーキを買ってきました。食後に食べましょう」
「わ、嬉しいです。ありがとうございます。冷蔵庫に入れておきますね」
新婚みたいな雰囲気にどぎまぎしながらケーキを受け取り冷蔵庫に入れた。
どうしよう、なんだかすごく緊張してきた。
額の汗をぬぐいながらぎこちなく振り返ると、湊斗さんの穏やかな瞳と目が合った。それが優しく細められ、気付けばそっと抱きしめられていた。
どひゃー!と一瞬ハリネズミのように神経が張り詰めたが、私も彼の背中におそるおそる手を回し、存在を確かめるように腕に力を入れた。湊斗さんが笑う気配がした。
「……おかえり、ってもう一回言ってくれませんか」
「改めて言うのも恥ずかしいんですが」
「いいじゃないですか、お願いします」
「~~~~おかえりなさい」
小さな声でぼそぼそ言うと、湊斗さんはますます笑みを深めた。
「おいしいですね」
湊斗さんが嬉しそうにもぐもぐしながら言った。
それを聞いて私はほっとした半面、気を使ってくれているのかな?と心配になった。
ーーなにせ湊斗さんは鈴木病院の御曹司様。小さい頃からおいしいものを食べてきているだろうから、今は割と大きい会社の社長一家とはいえ元は一庶民に過ぎない私の作った料理なんて、お口に合うだろうか。
「嘘じゃないですよ」
私の心の声が聞こえたかのように湊斗さんが言った。
「料理、お上手なんですね」
あっという間に肉じゃががなくなっていた。おかわりを所望され少々驚いていると、
「すみません、とてもおいしかったものですから……」
「あ、いえいえ。まずくはなかったみたいでよかったです。おかわり、持ってきますね。たくさん食べてください」
「はい」
お皿に盛り付けながら、私はにやにやが止まらなくなっていた。心の中で小躍りする。
緊張もしていた分「おかわりください」という言葉を大変嬉しく思った。
ーーいい調味料買ってきた甲斐があったなぁ……!
奮発した甲斐があるってものであーる。
食事を終え、ケーキも食べ食後のコーヒーを飲みながら、大事なことを思い出した。
「あの、湊斗さん」
「はい?」
テレビで北欧特集を観ていた湊斗さんがこちらを向いた。バッグから封筒を取り出し、捧げた。
「ここのお部屋代です。お納めください」
「……何回言えば納得してくださいますか?こういうことはしなくていいです」
そろそろ怒りますよ、と呆れたように言われぐいっと腕をとられた。湊斗さんの腕の中にぽふっときれいに着地した。
「……これを言うと反感を買うかもしれませんが、お金には困っていません。なので、女性からましてや恋人からもらおうなんて考えたこともないです」
「俺のためだと思って、これはもうおさめてください」
本当に困っているようだ。けれど私も譲れない。
「湊斗さん、私もしていただくだけでは心苦しいんです。父からも金銭面はけじめをつけるように言われていますので」
父を出したことで、湊斗さんもおいそれと突っぱねることはできなくなったようだ。
しぶしぶ封を受け取り、中身の確認はせずそのままテーブルの上に置いた。
「……またお茶代が貯まりました」
「ふふ、お茶代じゃなくても湊斗さんが何か好きなものを買ってください」
「…………………………」
納得いかない表情で私を抱きしめた。
そのかわいらしい様子を愛しく思いながら、背中をそっと撫でた。
「私、嬉しいんです」
「何がです?」
湊斗さんが体を離して私を見た。真正面から見るにはイケメンが過ぎるので、湊斗さんをソファがわりのようにしてテレビの方を向いた。湊斗さんが遠慮がちに私の腰に手を回した。
「湊斗さん、本を持ってきていいよって言ってくれたことが。……ほら、この年で勉強なんてしてたらやれ気難しいだの変わり者だの言われることが多かったから」
「…………………………」
湊斗さんは無言だ。
「……うん。この間話しそびれた『離婚の理由』の一つです」
空気が少し緊張した。
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