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嵐を呼ぶ男
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芹香さんと弟を会わせることになったが、1つ懸念事項があった。
芹香さんは知的な印象とは裏腹に少々ミーハーなところがある(そこもまたかわいい)。
そんな彼女が、美形の弟・斗真と会ったら一体どうなるだろうか。
きゃーきゃー言うだけならまだしも、もし、斗真に心奪われてしまったら?2人がトントン拍子にうまくいって結婚することになったら?式に呼ばれたら?スピーチを頼まれたら?
俺は一体、どうしたらいい?
そんなことを本気で心配して、副院長室内をそわそわ歩き回っている。
……常ならぬ様子を心配した秘書が熱いお茶を淹れてくれた。
・・・
やきもきしている俺の気持ちには構わず、会合はあっという間に実現した。
『じゃあ15時ごろ来るから!みんなでケーキでも食べよう!俺が持ってくるから何も用意しなくていいからね~』
『………あぁ』
芹香さんに伝えると、とてもほっとした様子だった。
『あ~~昼食用意した方がいいのかな?とか色々考えていたので、そこまで決めてもらえてよかったです』
その様子に、俺はハッとした。
自分はなんて気の利かない男なんだ。というか斗真が気が回りすぎるのかどっちなのかわからない多分どっちもだ。いずれにせよ芹香さんが悩んでいたことに気付かないなんて何という失態だ。
『弟さんーー斗真くん?コーヒー飲むかな?好きな銘柄とかわかります??』
『ーーーーーー』
芹香さんの言葉にもハッとした。
いつも周りがお膳立てしてくれるので、こういう下準備的なことまで頭が回らないのだ。自分が恥ずかしい。
『湊斗さん?』
無言になった俺を心配してくれたのか、芹香さんが覗き込んできた。
『どうかしました?』
『あ、いえ……なんでもないです』
自然と芹香さんを抱きしめていた。
『斗真には水道の水を飲ませておけば十分ですので』
『それはダメですって!』
楽しそうな笑い声に安心した。
ーーー
ーー
ー
「よし、お掃除オッケー!お湯の準備オッケー!もうすぐだね」
「……芹香さん」
「ん?」
いつもよりぴかぴかに掃除された部屋に、いつもより見た目に気合いが入っている芹香さん。
それを見て俺は嬉しい半分焦り半分の妙な心持ちになった。
「……お綺麗ですね」
俺が言うと、芹香さんは頭をかきながら真っ赤になった。
「えーーだってさーー!湊斗さんに恥かかせたら悪いじゃーーん!じゃなくて、悪いなぁって思いまして。……え、変ですかね?」
「変ではないです」
「なんか…奥歯に物が挟まったような言い方ですね…。着替えてこようかな……」
そう言いながら自分の書斎(そこに芹香さんの所持品一式が置いてある)に行こうとしたのを止めた。
腕をとって、引き寄せる。
「どうぞそのままで。よく似合っています」
芹香さんは一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔になって俺をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ふふふ。そう言って頂けると嬉しいです」
どちらからともなくキスが始まり、優しくついばみあった。そのままベッドに連れていきたくなったけれど、脱がしてはダメだろうと自分を強く律した。
ピンポーン
チャイムが鳴ったのは、弓道で鍛えた精神力も限界を迎える一歩手前だった。危なかった。
時計を見ると約束の時間を少し過ぎた頃だった。
「俺が出ますね」
「あ、ちょっと待って」
芹香さんがスーハーと呼吸を整えて良い姿勢をとった。
「緊張する」
その様子を微笑ましく思いながらドアを開けた。
「こーんにーちはー!弟の斗真でーす!」
きらきらきら……と輝くような笑顔にその場が明るくなったような錯覚に陥る。院内でも『斗真先生がいると場が明るくなる』と言われているが、それはプライベートでも発揮されるみたいだ。
「あ、こ、こんにちは、湊斗さんとお付き合いさせてもらっている夏目芹香と申します。はじめましてよろしくおねがいします」
芹香さんを見ると、案の定顔が赤くなり口をぱくぱくさせていた。動きから「イケメンやばいイケメンやばい」と読み取る。
「あはは!こちらこそよろしくお願いします。ていうか、兄がいつもお世話になってまーす」
明るい声音に芹香さんの表情も少し和らいだ。
「げ、玄関先ではなんですので、どうぞ中に……」
「うん、ありがとうございます」
そう言いながら斗真が特に緊張もしていない様子で滑らかに靴を脱ぎ、スリッパを履いた。
いかん。俺はただ立っているだけではないか。芹香さんは緊張しているだろうから俺がなるべく主導せねば。
そんなことを考えていたら2人はさっさとリビングへ向かっていた。
・・・
「でさ、これ限定のやつなの」
「え、ほんとに?見ていい?」
「どうぞ。もー予約始まる30分前からスマホ握ってて」
「1分で予約終了だったんだよね……!私10分後にサイト開いたらもう『終了しました』って出てて泣いたもん」
「あはは、ねえさんそれ遅すぎだよー!」
主導せねば、と意気込んでいたのも見事空回り、美味しいケーキとコーヒーを飲みながら芹香さんと斗真は2人で盛り上がっていた。俺がやったことといえばコーヒーを運んだことぐらいだ。
その様子を見ながら『仲良くやれそうでよかった』と思う反面、一抹の寂しさも感じていた。
(俺は芹香さんとじっくり時間をかけて心を通わせていったのに。こいつはほんの1時間でこんなに仲良くなって……)
思えば小さいときからそうだった。6歳も差があるのに、友人もいつのまにか斗真の方と仲良くなってしまうこともあった。
「…………………………」
庭で遊ぶ友人達と斗真を見ながら、自分はとぼとぼと部屋に戻って勉強を始めた記憶が頭をよぎった。
懐かしい映像に胸の奥がざわざわした。
「じゃ、お邪魔しました~!今度は俺のとこ遊びにきてよ」
「行きたーい!コレクション見せてね」
「いいよ~」
笑い合っている2人。ただ立っている俺。完全に蚊帳の外だ。
「じゃあ兄ちゃんも、また病院で。ちゃんと人間らしい場所で生活してて安心した」
「………………あぁ」
芹香さんが吹き出した。
「またね~!」
手をぶんぶん振りながら、元気な台風は去っていった。
火が消えたように静かになった部屋にお皿類を片付ける音が響く。コーヒーの香りが部屋に残っている。
いつもは気にならない沈黙が今日はやけに気になった。
「…………芹香さん」
「うん?どうしました?わっ」
突然抱きしめてきた俺に困惑したようだ。でも今はどうしても芹香さんを腕の中に閉じ込めておきたかった。
芹香さんも俺の腰に手を回し、頭をこてんと預けてきた。そのまましばらくそうしていた。
「湊斗さん」
「はい」
「あの、違っていたらすみませんが、私斗真くんと盛り上がりすぎちゃって。寂しい思いさせましたね。すまなかったね」
よしよし、と背中を撫でてくれる芹香さん。その優しさにぐっときてしまい、顔をうずめた。
「俺の方こそ」
「?」
「すみません。芹香さんにばかり相手させて。緊張していたでしょうに……」
「あはは、確かに最初はそうだったけど。斗真くんがずっと話してたし、それに、湊斗さんがいてくれたから私も心強かったんですよ~」
むしろ斗真くんが1番緊張していたかも、と笑った。
明るい笑顔に心の底からほっとした。
「次はちゃんとしゃべりますので」
「ふふ、無理せず」
そう言いながらキスをし合った。柔らかで甘いキスにほろ苦い思い出も溶けていくようだった。
芹香さんは知的な印象とは裏腹に少々ミーハーなところがある(そこもまたかわいい)。
そんな彼女が、美形の弟・斗真と会ったら一体どうなるだろうか。
きゃーきゃー言うだけならまだしも、もし、斗真に心奪われてしまったら?2人がトントン拍子にうまくいって結婚することになったら?式に呼ばれたら?スピーチを頼まれたら?
俺は一体、どうしたらいい?
そんなことを本気で心配して、副院長室内をそわそわ歩き回っている。
……常ならぬ様子を心配した秘書が熱いお茶を淹れてくれた。
・・・
やきもきしている俺の気持ちには構わず、会合はあっという間に実現した。
『じゃあ15時ごろ来るから!みんなでケーキでも食べよう!俺が持ってくるから何も用意しなくていいからね~』
『………あぁ』
芹香さんに伝えると、とてもほっとした様子だった。
『あ~~昼食用意した方がいいのかな?とか色々考えていたので、そこまで決めてもらえてよかったです』
その様子に、俺はハッとした。
自分はなんて気の利かない男なんだ。というか斗真が気が回りすぎるのかどっちなのかわからない多分どっちもだ。いずれにせよ芹香さんが悩んでいたことに気付かないなんて何という失態だ。
『弟さんーー斗真くん?コーヒー飲むかな?好きな銘柄とかわかります??』
『ーーーーーー』
芹香さんの言葉にもハッとした。
いつも周りがお膳立てしてくれるので、こういう下準備的なことまで頭が回らないのだ。自分が恥ずかしい。
『湊斗さん?』
無言になった俺を心配してくれたのか、芹香さんが覗き込んできた。
『どうかしました?』
『あ、いえ……なんでもないです』
自然と芹香さんを抱きしめていた。
『斗真には水道の水を飲ませておけば十分ですので』
『それはダメですって!』
楽しそうな笑い声に安心した。
ーーー
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「よし、お掃除オッケー!お湯の準備オッケー!もうすぐだね」
「……芹香さん」
「ん?」
いつもよりぴかぴかに掃除された部屋に、いつもより見た目に気合いが入っている芹香さん。
それを見て俺は嬉しい半分焦り半分の妙な心持ちになった。
「……お綺麗ですね」
俺が言うと、芹香さんは頭をかきながら真っ赤になった。
「えーーだってさーー!湊斗さんに恥かかせたら悪いじゃーーん!じゃなくて、悪いなぁって思いまして。……え、変ですかね?」
「変ではないです」
「なんか…奥歯に物が挟まったような言い方ですね…。着替えてこようかな……」
そう言いながら自分の書斎(そこに芹香さんの所持品一式が置いてある)に行こうとしたのを止めた。
腕をとって、引き寄せる。
「どうぞそのままで。よく似合っています」
芹香さんは一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔になって俺をぎゅっと抱きしめてくれた。
「ふふふ。そう言って頂けると嬉しいです」
どちらからともなくキスが始まり、優しくついばみあった。そのままベッドに連れていきたくなったけれど、脱がしてはダメだろうと自分を強く律した。
ピンポーン
チャイムが鳴ったのは、弓道で鍛えた精神力も限界を迎える一歩手前だった。危なかった。
時計を見ると約束の時間を少し過ぎた頃だった。
「俺が出ますね」
「あ、ちょっと待って」
芹香さんがスーハーと呼吸を整えて良い姿勢をとった。
「緊張する」
その様子を微笑ましく思いながらドアを開けた。
「こーんにーちはー!弟の斗真でーす!」
きらきらきら……と輝くような笑顔にその場が明るくなったような錯覚に陥る。院内でも『斗真先生がいると場が明るくなる』と言われているが、それはプライベートでも発揮されるみたいだ。
「あ、こ、こんにちは、湊斗さんとお付き合いさせてもらっている夏目芹香と申します。はじめましてよろしくおねがいします」
芹香さんを見ると、案の定顔が赤くなり口をぱくぱくさせていた。動きから「イケメンやばいイケメンやばい」と読み取る。
「あはは!こちらこそよろしくお願いします。ていうか、兄がいつもお世話になってまーす」
明るい声音に芹香さんの表情も少し和らいだ。
「げ、玄関先ではなんですので、どうぞ中に……」
「うん、ありがとうございます」
そう言いながら斗真が特に緊張もしていない様子で滑らかに靴を脱ぎ、スリッパを履いた。
いかん。俺はただ立っているだけではないか。芹香さんは緊張しているだろうから俺がなるべく主導せねば。
そんなことを考えていたら2人はさっさとリビングへ向かっていた。
・・・
「でさ、これ限定のやつなの」
「え、ほんとに?見ていい?」
「どうぞ。もー予約始まる30分前からスマホ握ってて」
「1分で予約終了だったんだよね……!私10分後にサイト開いたらもう『終了しました』って出てて泣いたもん」
「あはは、ねえさんそれ遅すぎだよー!」
主導せねば、と意気込んでいたのも見事空回り、美味しいケーキとコーヒーを飲みながら芹香さんと斗真は2人で盛り上がっていた。俺がやったことといえばコーヒーを運んだことぐらいだ。
その様子を見ながら『仲良くやれそうでよかった』と思う反面、一抹の寂しさも感じていた。
(俺は芹香さんとじっくり時間をかけて心を通わせていったのに。こいつはほんの1時間でこんなに仲良くなって……)
思えば小さいときからそうだった。6歳も差があるのに、友人もいつのまにか斗真の方と仲良くなってしまうこともあった。
「…………………………」
庭で遊ぶ友人達と斗真を見ながら、自分はとぼとぼと部屋に戻って勉強を始めた記憶が頭をよぎった。
懐かしい映像に胸の奥がざわざわした。
「じゃ、お邪魔しました~!今度は俺のとこ遊びにきてよ」
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「いいよ~」
笑い合っている2人。ただ立っている俺。完全に蚊帳の外だ。
「じゃあ兄ちゃんも、また病院で。ちゃんと人間らしい場所で生活してて安心した」
「………………あぁ」
芹香さんが吹き出した。
「またね~!」
手をぶんぶん振りながら、元気な台風は去っていった。
火が消えたように静かになった部屋にお皿類を片付ける音が響く。コーヒーの香りが部屋に残っている。
いつもは気にならない沈黙が今日はやけに気になった。
「…………芹香さん」
「うん?どうしました?わっ」
突然抱きしめてきた俺に困惑したようだ。でも今はどうしても芹香さんを腕の中に閉じ込めておきたかった。
芹香さんも俺の腰に手を回し、頭をこてんと預けてきた。そのまましばらくそうしていた。
「湊斗さん」
「はい」
「あの、違っていたらすみませんが、私斗真くんと盛り上がりすぎちゃって。寂しい思いさせましたね。すまなかったね」
よしよし、と背中を撫でてくれる芹香さん。その優しさにぐっときてしまい、顔をうずめた。
「俺の方こそ」
「?」
「すみません。芹香さんにばかり相手させて。緊張していたでしょうに……」
「あはは、確かに最初はそうだったけど。斗真くんがずっと話してたし、それに、湊斗さんがいてくれたから私も心強かったんですよ~」
むしろ斗真くんが1番緊張していたかも、と笑った。
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