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緋の章
第30話「異変」
しおりを挟む「おいおい、マジかよ」
俺は、遠目に近づいてきているご立派な一団を見ながら思わず呟いた。
「……ホントに来ちまったんだな、ルドヴィグ殿下」
一方、隣に立つアルは呆れた表情を隠しもせずに言った。
「僕も、昨日知らせを受けた時点では半信半疑だったんですがね」
そう。
只今、200騎弱の騎馬隊と2台の馬車が、石畳で整備された街道をこちらに向かって移動しているのだが――。
その一行の主は誰あろう、オルシニア王国第3王子のルドヴィグだ。
旗の紋章が今さっき確認できたんで間違いない。
因みに、例の狼男がヘンネ村を襲ってから、もう今日で3日が経っていた。
あの日から今日まで、アルの休息を兼ねて俺たちは引き続き村でお世話になっていたのだが……とはいえ、いつまでもいられるものじゃない。
そろそろ王都に戻らなくちゃな、と準備しつつの数日だった。
具体的には、シリンさんたち家族は引っ越し準備、俺たちは休息を兼ねつつ、彼ら一家およびイサナを王都へ輸送するための算段、といったところだ。
アルも連日身体を酷使していたせいで、一時は身動き取れなくなっていたし (次の日には普通に動き回っていたが)、ちょうどいいので村の人たちの厚意に甘え、3日かけてゆっくりと準備を整えていたのだ。
特に、シリンさんたちはまるっきり生活基盤を移さなくちゃいけないから、細々家を片付けなくちゃいけなかったし。
一方のイサナも傷口から感染症ひきこんだらマズいんで、俺がその経過を診ながら手当を継続。かつ、近場の砦へ護送用の荷馬車を提供してもらえないか打診して、その返事待ちをしていた。
もう1つ因みに。シリンさん達のことはもうずいぶん前にルドヴィグ殿下宛てに報告書を送っていて、イサナの事も狼男の件が片付いた翌日には軽くしたためて、同じく彼に報告してた。
こういう情報共有はこまめにしないと意味が無いからな。
もちろん、万が一盗み見られた時のために、文面は符丁を使ったうえ、かなりぼかしたものだったらしいけど。
そんな中――。
ヘンネ村にいた俺たちのところに、昨日、1騎の伝令がやってきたわけだ。
「ルドヴィグ殿下が明日こちらに到着するため、街道沿いに出ているように (意訳)」ってなメッセージを携えて。
俺もアルも誤報を疑っちまったくらい、想定外の事だった。
確かに、今回のアルの任務で明らかになったのは隣国の軍事機密に、従魔による民の殺害。
下手すれば戦争の火種にもなりかねない重要案件のオンパレードだったわけだが……。
それに対して仮にも“王子殿下”なんて身分の人間が動きを見せれば、注目度は一段と跳ね上がる。
そして民衆が「異常が起こったのか?」といらぬ不安を抱くわけだ。
行政側としては何かと避けたい状況だろう。
そんなリスクを冒してまで、果たしてルドヴィグ殿下は何を目的にこっちへ向かってきてるんだ?と俺たちは首をかしげていたんだが……。
しかも、今日のこの日にこんな西の地方までルドヴィグが来てるってことは、相当な強行軍だったと思う。
よくもまあ、それだけ急いで来るもんだ。
「――まったく。あの方の行動力には呆れますね」
「だよなぁ、シリンさんの事、報告して1週間くらい、にはなったか?
よくこんな短期間で遠征隊組んでこんなとこまでやってこれるよな」
“王子殿下が地方へ遠征する”なんて、早々許可がおりないはずだ。さっき言った通り、注目度が無駄に高まる一大イベントなわけだし。
ホント、何が目的だってんだろうな。
俺とアルが適当にやりとりをしつつその場で待機していれば、まもなく王子殿下一行が俺たちの前までやってきた。
さすが殿下率いる一団なだけあって、整然と隊を崩さず騎馬隊が停止する様は見事の一言に尽きた。
ついでに言うと、こんな大規模で本格的な騎馬隊を間近に見れるなんて感動モノだ。
やっぱ武器防具もフル装備な“騎士”が同じくフル装備の“騎馬”を操って動き回るってのは迫力がスゴイな。
その騎馬隊が停止し、お付きの方々が忙しく動き回り、王子殿下が下車するための準備が進められる中――。
一方の俺たちは道端に控えルドヴィグを出迎える体勢を整えていた。
とはいえ……。
「あー、アル? こういう時、俺はどう振る舞うのが正解だ?」
「……身分的な事を言えば、額づくのが正しいんでしょうが……。あの方が今更そんな振る舞いを求めるとは思えませんし。貴方の国の礼儀で構いませんよ」
「って、言ってもなあ……」
無位無官で平民な俺は、やっぱ額づく――いわゆる土下座の姿勢をとらなくちゃいけない。それは分っているんだけども。
……単純な話、地面に頭をつけたくない。
だけど、アルが言う俺の国での礼儀も、立ったままやるお辞儀とか、そんな程度しか俺は知らないのだ。
座敷じゃないから着座での礼儀は当てはまらないしな。
だが、本場のお貴族様相手に、仮にも平民が立ったまま相対するのはさすがに不敬がすぎるだろう。
なので、とりあえずアルに習って片膝を突いておくことにした。
さすがアルは慣れたもんで、ピシりと姿勢が決まっている。
それに対し、前世でもこんな姿勢滅多にやったことない俺は見よう見まねで適当だ。
……しかもこの体勢、結構体幹が重要だな。長時間は相当疲れるぞ。
そんなことを俺たちがやっていれば、その間に諸々の準備が整ったらしい。遂に馬車の扉が開き、殿下本人が姿を見せた。
アルは一層頭を低くし、出迎えの言葉を口にする。
「この度は図らずもご尊顔を拝することができ、恐悦至極に存じます。御無沙汰しておりました。ルドヴィグ殿下」
「相変わらずなようだな、アルフレッド・シルバーニ」
定型的なやりとりを交わしながら、王子殿下は完全に馬車を降りてくる。そして、アルの背後の俺に眼を向けた、みたいだ。
もちろん俺は顔を伏せているので見えないが、視線が刺さっているのが感覚でわかる。ついでに言うと、周りの騎士たちからの視線もスゴい。
既に俺の事を知っているルドヴィグはともかく、騎士たちからすれば「こいつ誰だよ」ってな感じだろう。
見たこともない顔なのに、いっちょ前に片膝ついてアルの後ろに控えてんだからな。
……やっぱ、俺みたいなのが貴族位のアルと同格に振る舞ってるのは可笑しいんだな……。今からでも額づくか?
「そのままでは話しにくい。立て、アルフレッド。……お前もだ、ショウ」
「ありがとうございます」
うわ。
「……え、あ、はい」
平静に礼を言ったアルに対し、俺の口からは思わず不用意な声が漏れちまう。突然話しかけられたんで、びっくりしちまった。
……別に俺は話す用もないんで、片膝ついててもいいっすか?
いや、こうして立てるのはありがたいが、果たして俺はこの言葉に素直に従っていいものなのか……。
案の定、200人近くの騎士に不審げな視線を向けられてるんですが、それは……。
辛うじてバイトと社会人生活で培ったとっておきの営業スマイルを張り付けてはいるが、こんな大人数に注目される場面なんて、学生時代最後の学会くらいしか経験ねえんだけど。
そんな俺の困惑は脇に置き、アルもルドヴィグも会話を続ける。
「この度は御自らこのような地までお越しとは。どんな風の吹き回しでしょう」
「お前からあのような報告を受ければ、気になっておちおち城にいられんわ。確実を期すためいち早く足を運んだまでのこと」
「……それにしても拙速すぎではありませんか。いらぬ注目を集めますが」
アルの言葉遣いはいつもより堅苦しいが、言ってる内容はズバズバと鋭い。
……前も思ったけど、アルってルドヴィグにほとんど遠慮がないよな。
貴族とは言え特殊な雄爵という立場のアルフレッドが、第3王子殿下に対してこんな忠告するのは普通の事なんだろうか。
俺はアルの背後にいるので見えないが、こいつが眉をひそめてんのは明らかだ。不敬に当たらないのかハラハラするぜ。
ま、相変わらずルドヴィグも気にした様子は一切ないんだけどな。
その彼が言った。
「なに、俺が唐突に動くのはいつものことだ。それに、たまには遠出をするのもよい。最近の都は息が詰まって敵わんからな」
「……」
ルドヴィグは何でもないように答えてくれる、が、ホントにそれだけか?
王子殿下が動くなんて、もうちょっと大事なんじゃなかろうか。
アルも納得してなさそうで無言だし。きっと殿下に不信感の籠るジト目を向けているんだろう。
そんなアルの不遜な態度にも、ルドヴィグは鷹揚に笑って返す。
「そう睨むな。詳しくは中でだ。特別に同乗を許す。休息ののち、出るときはこちらに乗れ」
アルが言った。
「……では、ありがたく。ですが、例の人間を含めた5人を護送する必要があります。そちらはどうされますか」
ちなみに“例の人間”ってのはシリンさんのことだ。
ルドヴィグも状況は分ってるらしく、当然と言った顔をしてもう1台の馬車を指し示す。
「あれが見えんのか? あちらに乗せろ」
「承知しました。格別のご配慮、ありがとうございます」
やっぱ2台目はシリンさんたちのためだったか。
ルドヴィグは王族なんて高貴な立場にいるってのに、こういう細やかな用意が行き届いてんのはスゴイな。
「それでは、一旦ヘンネ村へと戻り、例の人間たちをこちらに連れてきます。少々お時間をいただきますが、よろしいですか」
「構わん。その間に俺たちは休息をとれるからな」
アルとルドヴィグが言葉を交わし、無事に許可も貰えたんでアルと俺は一礼して身を翻す。
んじゃまあ、シリンさん達とイサナを呼んできますか。
……しっかし、こうなるとシリンさん達も予めこの場に呼んどければ二度手間にならずにすんだものを。
それもこれも、昨日の伝令がルドヴィグの目的を教えてくれなかったせいだ。
端から知らなかったんだろうが、そのせいで安易に彼女らをこっちに連れてきておくことができなかった。
でも、ルドヴィグはどうやらこのまま俺たちを回収して王都に向かってくれるようなんで、そのご厚意に乗っからせてもらおう。
いやぁ、念のためシリンさん達には引っ越し準備を急いでもらっといてよかった。
どうやって子供3人抱えて王都まで行こうか考えてたから、まさに渡りに船だ。この機会は逃せない。
あ、でも、そういえば――。
「なあ、アル、俺とイサナもシリンさん達と一緒でいいよな。イサナは一応、監視しなきゃだし。……けど、定員超えちゃうか?」
「それは――」
村に向かって進路をとりつつ、俺はアルに確認したんだが――。
「いや、お前もこちらに来い。そのイサナとやらもだ。道々事情を聴くのに都合がいい」
ルドヴィグの耳にも俺の言葉が入ってしまい、それに対し思わぬ答えが返ってきた。俺は驚いて、思わず本音が漏れちまう。
「……マジかよ」
……いや、だから。
俺みたいな身元不明者が王子殿下と同じ馬車に乗るって、普通ありえねえだろ!?
……さっきアルの真似して膝ついてたのが、やっぱマズかったのか……?
内心驚愕しながらルドヴィグを振り返ったら、平然としている王子殿下がいた一方。
その背後のお付きの人達も、俺と同じような顔して驚いてた。
よかった。俺の感覚がおかしいわけじゃなかったんだな……。
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