理系が転生したら非科学的存在 (魔物)でした

秋人司

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緋の章

第49話「政変」

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――そして、この時から一カ月と半月近くが経過した頃のこと。

 オルシニア王城、その一画において。



「ルドヴィグ・ライジェント。……国王陛下の命により、貴殿の身分の一時剥奪、および領地での謹慎を申し付ける。また、期間は追って沙汰する」

 “王命”が記載されているのだろう、仰々しい巻物を掲げ、豊かな髭を蓄えた老政務官が言った。

「…………は。謹んでお受けする」

 対するは、オルシニア王国第3王子――ルドヴィグ。

 王族と言えど、片膝を突き、こうべを垂れるのが筋というもの。

 とはいえ、そう滅多にあることではない。……ひるがえればこれは、それだけの異常事態、ということ。


 矜持の高い彼が押し出すように答えたものの、政務官は無情にも言った。

「加えて、更なる処罰が下る可能性もある。心して待つように」

「っ。……承知した」


 その場にいるのは数人の政務官とルドヴィグのみ。

 自然光しかないやや暗い室内でさえ、彼の金髪は硬質な輝きを纏い、その威風堂々とした装いも併せ、跪いた姿勢ながら見る者に畏怖さえ与える。

 だが、そのルドヴィグ本人は、自身の碧眼にこらえきれない屈辱を滲ませながら、政務官の発する王命に、ただひたすら「諾」と返すしかない。

 とはいえ、曲がりなりにも王族に下されるには重すぎる沙汰だ。
 身分の剥奪に領地での謹慎、期間は未定。更にはこのほかにも処分が課されるという。

 なぜそのような事態に陥ったのか。

 
――勿論、彼は嵌められたのだ。

 
 自らの不明に、ルドヴィグは拳を握って震わせる。
 
 広く“耳”を持つ彼でさえも、この事態を感知した頃には既に全てが整いきっており、何も弄することができないほど、その手際は鮮やかだった。

 すなわち、「議会」でこの件が発議された直後、ほとんど審議されることなく可決した、ということだ。

 様々な立場や派閥の貴族で構成されるその議会において、こんなことはほとんどないと言っていい。つまりは、何者かによる十分な事前の根回しがあった、ということに他ならない。

 そして、ルドヴィグが一体どんな罪で糾弾されたのかと言えば――。


 なんと“国家反逆罪”だ。


 彼からすればまさに寝耳に水の事だった。
 当然、自覚もなく、唯々困惑するしかない。

 そして。
 その罪の根拠となったのは何かと言えば――。


――もう既に、2カ月以上も時が経った“イルドアでの件”にまで遡る。


 具体的には、イルドア騎士団の長を入れ替え、その近隣を慰問したことだ。
 これが、国王の職権を勝手に代替した越権行為として、議会から罪に問われたのだった。


 ルドヴィグは、この根拠と経緯を知って更に困惑した。

 イルドアの件を処理するにあたり、確かに彼は当該行為を行ったが、しかしちゃんと手続きを踏み、国王からの勅書をもって事に当たったのだ。

 ただ、早さを重視したため、議会に諮ることなく動きはした。
 つまり、その揚げ足をとられたのだ。



 補足すると、この国では、国王の諮問機関として「議会」というものが存在している。

 有力貴族で構成されたこの機関は、オルシニアが建国されてから数代後、王位継承者が立て続けに死ぬ、という不幸が起こった際、残された幼い国王を補佐するためとして設立されたものだ。

 当時は十分、その役割を果たしていたが、時を経るごとに国王と権力を分かつような存在に変貌。

 今では度々、国王と議会の間で衝突が起こるほどだ。

 特に先々代の御代では、国王が強引に統治改革を進めようとした結果、議会との仲が険悪化。

 最終的な決定権は常に国王にあったと言えど、貴族たちの賛同を得られなければ政策が形骸と化すのは明白だ。

 そのため、当時の国王は碌に政治が動かせず国の停滞につながった――。

 そんな歴史もある。

 すなわち、未だ議会よりも国王の権力が辛うじて上回りつつも、近い将来どうなっているかは不透明、といった状況なのだ。




――閑話休題。
 
 繰り返しになるが、現在“バスディオの災厄”が収束してからおよそ1カ月半が経過。

 この頃には既に、バスディオの災厄による混乱も徐々に落ち着きを見せ、カルニスの一部地域を除いて、順調に通常の暮らしが戻りつつあった。
 
 何しろ正確に事態を把握してからの第2王子グスターヴの采配が迅速を極め、負傷者の保護や物資の分配、そして税の軽減などが速やかに実行されたからだ。

 これには国王もいたく喜び、手ずから褒章を授けたほど。

 そうした諸々も片が付き――このまま平時の様相が戻ってくるのかと思われた、そこに。



――第3王子が反逆罪に問われる、などという政変が起こった。



 しかも、その疑義を掲げたのは実兄であるグスターヴ・ガレアス。
 災厄の収束に貢献大な、当の第2王子が発起人であった。





==========================================================================


――そして場所は変わり、王城の回廊。

 本来は静謐せいひつであるべきその場所で。


「グスターヴ!」

「ルドヴィグ殿下、なりません!」

「わかっている! だが――」

 激高したルドヴィグが文官の制止を振り切りながら、遠目に通りかかったグスターヴへ詰め寄ろうとする姿があった。
 
 やがて、その声が耳に届いたのだろう。

「――なんだ、騒がしい」

 張り付けたような笑みを浮かべながら、グスターヴ自らが進路を変更し、騒ぎの中心部へと近寄り、言った。

「……ほう、誰かと思えば、我が愚弟か。――謹慎を申しつかった身で何をしている」

「っ」

 そのわざとらしい言葉に、ルドヴィグは珍しく感情を煽られ、唸るように言った。

「――グスターヴ! 此度の我が処分、どんな理由あってのことだ!」

「……誤魔化そうとは白々しいな」

 ギラつく視線に晒されながら、グスターヴは身じろぎもせず、微笑みながら言う。

「――そもそも、なぜそれを俺に問うのかわからんが」

「ハッ。白々しいのはお前も同じこと。此度の発議は兄上からであったと既に承知している!」

 このルドヴィグの言葉に、グスターヴはその蒼灰の瞳を眇めて言った。

「……そうだな。確かに俺が発起人だ。しかし、議会もこれを承認し、父王も最後には頷かれたのだ。お前がそれだけの事をしたと肝に銘じろ」

「ですからッ、俺の行動の何が“国への謀反”などという嫌疑になったのかと――!」

 これにグスターヴは目を見開いた。

「……驚いたな。本気で自覚していないとは恐れ入る。だからお前は愚弟なのだ」

「!!――っ」

 そんな、あまりの罵倒にルドヴィグは一層身体を震わせた。
 対するグスターヴは至極冷淡に言った。

「――理由など、明白だろう」

 そう言って、彼は鬱陶しげに金茶の髪を掻き上げ言葉を継ぐ。

「お前は、あろうことか国王と議会が協力して為すべき行為を、独断専行したのだ。
 議会の追承認があったといえど、そんな行動を起こす時点で、お前の思慮がたりないのは明らか」

「年々目に余るようになっていたが、ここで1つ身の程を知らせてやろうと動いたまで」

 堂々とそう宣ったグスターヴに、ルドヴィグは言った。

「……イルドア騎士団の件は、必要あってのこと。それに、陛下には事前に奏上し、許可もいただいていた!」

 その反論に、グスターヴは相変わらず動じない。

「確かに、碌な働きをしなかった者を罰するのは良い。だが、お前が特段動くべきことでもない。
 そして、議会を軽んじた行動も、到底看過できるものではない」

「っ」

 ルドヴィグは咄嗟に言葉が返せず、息を呑む。

 ちなみに、イルドアでのルドヴィグの迅速な行動は、グスターヴが災厄に対処したのと同様、適切に的を射たものであった。
 その点に関し、異論の余地はない。

 だが、確かにグスターヴが指摘した点に関しても、それを覆せるだけの言葉はなかった。

――ただ。

 これを、グスターヴがどれほど本気で言っているのかについては、全く分かったものではなかった。

 何しろ、王族にとってみれば、貴族で構成される「議会」は、何かと目障りな存在であることは確かなのだ。

 特にルドヴィグからすればその存在自体に疑念を抱き、時には軽視するくらいだ。
 他方、効率性を重視するグスターヴにとっても、それほど重きを置く存在とは思えなかった。

――つまりは、ルドヴィグを追い落とすための詭弁だろう。

 それを確信し、ルドヴィグは忌々し気に顔を歪める。

 その若々しい感情の発露に対し、それを見つめる青灰の瞳は、静かで硬質な色を湛えるのみだ。

「――お前は、そろそろ分のわきまえ方を学ぶべきだ。精々自らの行動を省みろ」

 その一言を最後に、オルシニア第2王子グスターヴ・ガレアスは身を翻して去っていく。

 残された第3王子ルドヴィグ・ライジェントは、未だ憤懣ふんまんやるかたない、といった態で、しばらくの間、その回廊に留まり続けていた。
























「……道中、くれぐれも気をつけろよ、我が愚弟」

 生憎、その去り際の言葉が彼に届くことはなかったが。



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