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十一話.
しおりを挟む「ごめんなさぃ……」
僕はうつむき、力なくその場にペタリと腰を落としていた。
「いや……俺が悪かった、怒鳴ったりして。陽一は悪くないのにな。ハァ……」
癖っ毛だという髪をかき揚げ、深いため息をつく。
怒られたことより、落ち込むハルカくんを見るほうがつらかった。
(僕は、なにをまちがったんだろう。お父さんなら、ほめてくれた。だから、ハルカくんにも喜んでほしかっただけなのに)
ハルカくんはうなだれたまま、僕を拒絶するようにローブでしっかり前を隠している。
「ハルカくん……」
「ん、もうちょっとだけ待って。おさまってきたから」
「ぼく……へただから。上手くできなくて、ごめんなさい」
「ハァ……そこ? 下手ならこんなフル勃起するか? 俺は自分に幻滅してるだけ。クソが……怒ってごめん。もう寝よ」
ようやく立ち上がり、僕に手を差し伸べる。
でも僕はその手をとることも、ひとりで立ち上がることも出来ずにいた。
「……抱っこは? してもいい?」
「………ん」
ハルカくんの腕が伸びてきて、僕の体を抱きしめた。
強くもなく、肌をさすり体を求められるわけでもなく。
ただ抱きしめるだけの行為が、とても優しく感じた。
(いいにおい……いっしょに使った石鹸、僕と同じにおいだ)
そのまま僕を抱えあげ、二人で洗面所を出る。
リビングの明かりが消されると、窓の夜景が宝石のように輝いていた。
きれいなのに、深い海底に沈んだ世界のようにも思えて。
僕はこわくなって、ギュッとハルカくんの胸にしがみついていた。
「……陽一、ひとりで寝れる? 俺、怒っちゃったから、一緒にいるの嫌だろ?」
「や、いっしょ、がいぃ」
「うん……ごめんな、傷付けて。悪い子は俺の方なのに、ずっと、全部、俺が悪いんだ」
僕がへんなことをしたせいで、ハルカくんを悲しくさせている。
このまま寝てしまったら、なぜか——
朝には僕の目の前から、この人がいなくなってるんじゃないかって。
底知れぬ不安がこみあげ、もっと強く胸にしがみついていた。
「カーテン、全部閉める? 真っ暗になるけど」
「……や」
ベッドに降ろされても、僕はハルカくんにしがみついたまま。
「大丈夫だよ。陽一が寝るまで起きてるから」
「うん……」
天窓から差し込む月明かりに照らされた部屋は、ほとんど空っぽだった。
大きなベッドがひとつと、壁に大きな鏡がひとつ。
それだけなのだった。
「ここ……ハルカくんの、お部屋? 夜、ひとり……さびしくないの?」
「んー、どうだろうな」
「あ、そっか、あの子……」
声に出してしまってから、あわてて口をつぐむ。
あまりにさびしい部屋だから心配になったのだけど。この家にはちゃんと、ハルカくんの本物の“息子”がいるのだ。
「んー? あいつは自分の部屋があるから、ここには来ないんじゃないの?」
「え、そう、なの」
なぜ他人事のように話すのか不思議だったけど。
それでも嘘をつかれている気はしなくて、僕はうれしい気持ちを隠すのに必死だった。
「じゃあ寝るときは、こんな広いお部屋でハルカくん、ひとりぼっちなの? 」
「だろうな。でも今夜は陽一がいるから寂しくないな」
「ほんと……?! わぁい、ふふ。僕もハルカくんがいるからさびしくないよお」
ギュッと抱きつくと、優しく頭をなでられた。
それが嬉しくて、さらに顔をうずめた。
「えへへ。これは、悪いことじゃないんだぁ」
「え?」
「僕、ちゃんと覚えられるよ。だから、さっきはごめんね? もう悪いことしない、ハルカくんの嫌なことしないね」
「あのさ」
「なあに?」
ハルカくんは片肘をつき、まっすぐに僕を見つめていた。
月明かりに照らされた、目の前の美しい人を。
なぜか鮮烈に脳に焼きついて、僕は一生忘れられない気がした。
「俺はさ。君の体を触ったり、弄んだ大人を近々全員ぶっ殺すつもりなんだけど。まぁ、簡単には死なせないけどな」
「……? ふうん?」
「時岡ハルカは善人でもないし、自分だけが陽一のちんこ触ってもいいと思ってるドクズなわけ。それでもペドの変態クソ野郎じゃない。多分、女も好きなら抱けるし、セクシャリティは正常だ」
「ふうむ。ペロは、くそ」
話がむずかしかったけど、一生懸命わかったふりをしてうなずいた。
「人間をコレクションみたいに見せ合って、交換して。金や力で踏みにじる奴らのこと。俺はそいつらを心底憎んで軽蔑してるから、死ぬより恐ろしい目に遭わせるよ」
「わあ、なんかかっこいいねえ。ハルカくん、スーパーヒーローみたぁい」
「アハ、まじ? ヒーローなのに、さっきちんこガッチガチになったけどな。陽一にペロペロされて、あーこれ気持ちいいわって思ったらさ。あーこれ死にてえやつだわって気付いて。まぁ、もう死んでるようなもんだけど」
「死、え、死……っ?!ぼくの、ペロのせいで?!」
そこまでペロが恐ろしい行為だと考えたこともなかった。
自分のしでかしたことに血の気が引き、ペロしでかした股間を見つめて、わなわなと体が震えた。
「でもさあ」
ハルカくんは僕のおでこに、ちゅっ、とキスをして微笑んだ。
僕を見つめて、愛おしげに細められる瞳。
前にもこの瞳を、どこかで。
とても大切な記憶のどこかで見たことがある気がした。
「俺は陽一が好きだから。もう他に好きな奴もいないしさ。やりてえなって思っても許してよ。……俺を許して、陽一」
「う、うん……?いいよ?」
「ふふ、ありがとう。愛してるよ、陽一」
「え、えと、うん」
僕は「僕もだよ」って言いたかったけど、恥ずかしくて言えずに口ごもる。
ハルカくんは「ふわあ」と大きなあくびをして、
「じゃあ、寝よ。夜更かしさせたら怒られる」
「え、あ、あのっ」
僕は「愛してる」の代わりに、ハルカくんのおでこに慌ててキスをする。
驚いて目を丸くしたハルカくんの頬にふれ、
「ちゅうは、悪いこと……じゃない?」
「え、ああ、うん……たぶん」
「口は? 僕、ハルカくんと、口のちゅうしたい」
「い、いいけど、多分」
月明かりの下、僕から視線をそらすハルカくんの頬が、ほのかに赤くなった気がした。
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