【R18】お父さんと僕、ときどき弟(仮)

鯨井兀

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15話

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 ◆

「むにゃむにゃ……もういっかい……あれ?」

 伸ばした手が空振りして、ようやく目が覚めた。
 窓から光がさしこみ、天空の塔に朝がやってきていた。

「あれ、ハルカ、くん……?」

 まるですべてが夢だったみたいに、広いベッドに一人きり。
 鏡には寝巻きすがたの身綺麗な自分がうつっていた。

「ハルカくん、どこいったの」

 僕はもたもたとベッドを降り、あわてて部屋を出る。
 ひと気のない見知らぬ廊下に足がすくむ。
 けど、どこからかいい匂いがして。僕は導かれるままに、リビングフロアを見下ろす階段にたどりついていた。
 フロアには朝食の香りが広がり、そしてキッチンには大好きな人のすがたが見える。
 僕はホッと胸をなでおろし、こっそり階段を降りていく。

「ワア~~っ」

 驚かせようと、冷蔵庫を開ける男の腰に飛びついた。
 すでにあの乱れやすいローブ姿ではなく。
 ゆるめだけど襟付きのシャツを着て、すっかり朝の身支度を整えていた。

「陽くん?」
「えへへーびっくりしたぁ? おはよぉ~」
「……おはよう、よく眠れた?」

 ハルカくんは僕を見下ろし、愛おしげに目を細める。

(よかったぁ。昨日は急にへんなこというから、どっかいなくなっちゃったのかと思った)

 ようやく不安がただの勘違いだったのだと。
 ハルカくんにギュッとしがみつき、夢中で顔をこすり付けていた。

「ふふ、どうしたの、甘えっ子だね。朝ごはんにするから顔洗ってきて」
「はぁい」
「あ、待って。髪もなおしてきてね? 陽くん、どうしてこんなふうにしちゃったの」
「え……」

 ハルカくんは困った顔をして、僕の髪をなでつける。
 そして前髪を縛っていたらしき髪ゴムを、ゴミ箱に投げ捨てていた。

「あ、ぼくのちょんまげ……」
「ああ、そういえば少し前髪が長いかな。うん、朝ごはん食べたら整えに行こうか。サロンに連絡しておくね」
「え……うん」

 僕は前髪にふれ、ちらりとゴミ箱をみた。

(え、まさか僕、ベッドでもずっとちょんまげヘアーだったの…? え、ハルカくんと、誓いのキスしたときもぉ? うわあ、かっこわるすぎるよ)

 衝撃の事実にダメージをくらいながら、トボトボと洗面所にむかう。
 お水で顔を洗いながら、僕はふと、つぶやいていた。

「……ハルカくんが結んだのに、覚えてないのかな」

 顔を洗っても、胸のモヤモヤは消えなかった。
 立ちあがった前髪を撫でつけ、僕のなかで消えたはずの不安がくすぶりだしていた。

 ◇

 洗面所から戻ると、ハルカくんは誰かと電話をしていた。 

「ああ、その時間で。二人で出掛けるから……薬?」

 お仕事中なのか、まるで別人のように冷たい横顔。
 でも僕に気付くと微笑み、すぐに電話を切った。

「お待たせ、食べようか」
「うん」

 ハルカくんは食卓に料理を並べると、向かいの席に座る。
 当然、昨日と同じ、おとなり同士だと思い、椅子を引いて待っていたのに予想がはずれた。

「お昼は軽く外で食べてこようね。サロンで髪を整えたら、そのあとパパと一緒にお買い物しよう」
「……パパ?」
「そうだった。パパ、ちょっとだけテレビつけるね」

 テーブルの下からザワザワと。宙ぶらりんの足元に、不安がイバラのツルように巻き付いてくる。
 目の前にいる男は、どこをどう見てもハルカくんで。
 顔も声も、華奢な指先も、全部そのままなのに。

(どうして僕……目の前のハルカくんにはドキドキしないのかな。それにパパだなんて、一度しか呼んだことないのに)

 初めて会ったとき、ハルカくんは三日間だけの“パパ”を演じていた。
 目の前にいるのは、その時の“パパ”にそっくりだと気づき、僕は口をとがらせていた。

「ねえ……どうしてまた、ごっこ遊びするの? パパって呼ぶの、僕、やだなあ」
「ごっこ遊び?」
「だって、ハルカくんは本当のパパじゃないでしょ。いつか、えへへ……ほんとの家族になりたいけどぉ。最初はほら、こ、恋びと、とか」

 もじもじして口ごもる僕の声をかき消すように、食卓に甲高い声が響きわたっていた。

『ああんっ。やだあ、おとぅさぁん、いたああい』

 壁に備え付けられたテレビから聞こえる声。
 画面には腕を吊るされた、裸の男の子が映っていた。

 バチンッ、あン、バチンッ、ああっ、バチンッ

 無防備な体をムチで打たれるたびに、男の子は喉をそらせて喘ぐ。
 そしてムチをふるう大柄な男。
 それは今まですっかり忘れていた、僕の“お父さん”なのだった——

「………っ」

 飲み込んだスープを戻しそうになり、僕は口をおさえこむ。
 スプーンを持つ手も震え、うつむいて呼吸を整えるのに必死だった。

「……陽くん、この人知ってるの」
「え……」
「とても父親がすることとは思えないな。陽くんはこんな悪いおじさん、知らないでしょ?」

 画面の中の父は、もう片手にガラス製のおもちゃを握りしめていた。
 それを男の子の足が浮くほど強引にお尻にねじ込み、

『もっと大きいのが欲しいだろ、欲しいって言えよ、オラッ』

 と、珍しく声を荒げて怒鳴っていた。
 その声が恐ろしくて、僕は耳をふさぎ、体を小さく縮こまらせる。

(お父さん、またお注射したのかも……こわい、あの部屋はいやだよ、もう行きたくない……やめて、連れてかないで)

 地下の仕事部屋には、さらに秘密の部屋があった。
 そこには鎖や手錠以外にも、縛りつける台や檻があって。僕もあの部屋で、ムチを打たれたことがある。
 父はビタミン剤だというけど、お注射をすると目がおかしくなって、ひどく乱暴になるのだ。
 嫌がる僕の腕を引っ張って、部屋に押し込むと鍵をかけてしまう。
 そして目隠しと首輪をし、四つん這いで父に奉仕をさせられるのだ。
 ある日は、『わんわん』しか言えなくて。
 うまくできないと『躾だ』と怒鳴り、お尻が真っ赤になるほど叩かれた。

『——いやあああッ、おなか壊れちゃうよおお』
『ああ、今すぐ使い物にならなくしてやるからな。ケツだせ、もっとだ。挿れるぞ、ンッ』
『アア……ッ、やだ、おとぉさあああん』

 テレビから聞こえてくる悲鳴が自分と重なって、おなかが痛みだす。
 あの部屋で父に乱暴にされ、腹痛で立ち上がれなくなったこともあった。
 学校もお休みして、ひとり部屋で寝ていたら、父に呼ばれたいうお医者さんが往診に来てくれたけど。

『……じゃあ、中にもお薬いれないとね。まずは触診だよ』

 そういってお医者さんが僕のベッドに入ってきて。
 シワシワの手が痛むおなかをなでまわし、髪の薄い頭が布団の中へともぐりこむ。
 僕は点滴されながら、お医者さんからも直接おくすりを注がれたのだった。

「陽くん」  

 いつの間にかテレビは消え、男が傍に立っていた。
 そして震える僕の体を抱き寄せ、「ごめんね」と頭をなでてくれた。

「陽くんはあんな悍ましい部屋、知らないものね。こわいもの見せてごめんね……あれは人の皮を着た悪魔だよ」
「おとうさんが、あくま……」
「……陽くんのパパは、パパだけだよ。だから“パパじゃない”なんて言わないで。陽くんはうちの子だよ、ずっと前から、そうでしょ」

 僕はコクリとうなずき、男の胸にすがりついていた。

「……ごめんなさぃ、パパ」
「ふふ、よく言えました」

 僕に触れる手も、そのぬくもりも。
 大好きな愛しいハルカくんなのに。
 でも僕はようやく気付いてしまった。

(目の前にいるこの人は、昨夜のことを覚えていないんじゃない……知らないんだ)

 父の悪行を思い知らせるように、嫌がる僕にみせてくるこの人は。
 この家で最初に出会った“パパ”であり、ハルカくんではないのだ。

 目の前にいる男の中から、こつぜんと。
 僕の王子様は、跡形もなく消えてしまっていた——
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