【R18】お父さんと僕、ときどき弟(仮)

鯨井兀

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19話■

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「うぅ、ぐすん……ひっく、うう……」

 汚したぬいぐるみを抱いて、僕は床にペタリと座り込んでいた。
 男に注がれものが、まだお尻からトロトロとこぼれていた。

「今度は正常位で浄化をしましょう。君はとても汚れていますから、先生のちんぽで清浄にしなくはなりません」
「——やぁ、もぅやだあッ」

 抵抗する僕の足首をつかんで、強引に股を開かせる。
 さらに泣きわめく僕を平手打ちし、

「…‥静かになさい、この悪魔め」

 と、焦点の定まらない瞳で見下ろし、首に手をかけてくる。
 僕は顔をそむけ、うめき声をあげた。

「ゥ、うう、こわいよぉ、パパぁ…‥ぐす、たすけて」
「君を救済できるメシアは私だけです。聖槍と聖水で奥まで清めましょうね」

 お腹につくほど反り返ったものを握りしめ、僕の穴へとあてがう。
 そして男の聖水が流れ落ちる中へと、聖槍がつらぬいていく。
 僕はギュッと目を閉じ、必死に大好きな人を声を。
 そして僕を愛おしげに見つめる、温かな眼差しを思い浮かべていた。 

 そのとき——

「……なんだ、停電か?」

 男の声にそおっと片目を開けると、なぜか辺りが真っ暗になっていた。
 不思議なことにモールを行き交う人のざわめきも。
 流れる音楽すら途切れて聞こえない。
 代わりに暗闇のなかを、惑うことなく近づいてくる足音が聞こえた。

「……まさか、違いますよね、ありえない」

 いかれた男は、なぜか激しく動揺していた。
 手で僕の口をふさぎながら、ポケットから取り出したものを首にあてがう。
 カチカチ……と動くそれは、脅しではなく、本当にカッターのようだった。

『陽くん、そこにいるの』

 足音はドアの前で止まっていた。
 そして僕の名を呼ぶ声は、大好きな人のものだった。

「……パ、パぁ……」
「——?! まさか、そんな、馬鹿な」

 男は転がるように飛びのき、ドンッと反対側の壁に背を打ち付けた。

『陽くん。パパがそっちに行くまで、目を閉じていられる?』
「……ん」

 言われたとおりに目を閉じると、また涙がこぼれた。
 でも今度はこわくない方の、胸がじんわりあたたかくなる方の涙だった。  

『……いい子だね。次は耳も塞いで。その人とパパ、話があるから』

 うなずき両手で耳をふさいだ瞬間に——聞いてはいけない音がした。
 何かが壊れていく音と、断末魔に似た男の悲鳴。
 でも目の前で何が起こっているのか、考えてはいけない気がして。
 僕は必死に頭の中で大音量の校歌を歌い、好きな人のえっちな裸体を思い出していた。

「陽くん」

 頭をなでられるまで、便器と壁の間で小さくうずくまっていた。
 いつのまにか明かりも点いて、週末のにぎやかなショッピングモールに戻っている。
 後ろを振り返ると、そこには裸ではない男が——
 三日間だけのパパが、優しく目を細め、僕を見つめていた。

「陽くん、帰ろう」

 棚に置かれたままだった帽子を手に取り、僕の髪に手ぐしを通しながら。
 パパは困ったように笑っていた。

「帽子を探してたの? パパ、怒らないから……今度、忘れ物したらパパにも教えてね」

 そういいながら髪を整えると、頭に帽子をかぶせてくれる。
 一体何がどうなったのか、あの男のすがたはもうどこにもなく。
 個室内のビジネスバッグすらも見当たらなかった。

 でも——

「……や、あっち行って」
「え……」

 僕はぬいぐるみを胸に抱きしめたまま、パパに背を向けた。

「パパきらい、来ないで。ぼく、一人で帰る」
「……陽くん」

 パパはきっと悲しそうな顔をしているのだろう。
 それでも見られたくなかった。
 自分の本当の息子でもないのに探しにきてくれた、ちょっとへんだけど優しいパパ。
 僕は心の底からうれしくて、「ありがとう」「こわかった!」と。
 その胸に抱きついてしまいたいのに。
 そんなこと、とても出来るはずもなかった。

「ぼく、汚いから……すごく汚れてるって。だから見ないで。もぅ、あっち行ってよぉ……っ」

 汚れたぬいぐるみに顔をうずめ、僕は嗚咽していた。

 男のすがたが消えても、されたことは消えなかった。
 はじめてパパにもらったプレゼントは、自分の尿と体液で汚れていた。
 お尻の穴からは見知らぬ男に注がれたものが、まだこぼれ落ちたまま。
 そんな僕を、僕以上に心を痛めてくれるパパに。
 僕の大好きな人と同じ声と眼差しをした男には、こんなみじめな姿を見られたくなかったのだ。

「パパが全部悪いんだ、ごめんね」
「うぅ、あっちいってってばあっ」
「ごめん……ずっと、全部、パパだけが悪いんだ。陽くんを悲しませるようなことばかりして、ごめんね。パパは本当にダメなやつで、パパ失格なんだ」 
「——ちがうのお! 僕が、パパのやくそく、守らなかったからなのっ」

 頭を振りながら、グズグズと鼻水をぬいぐるみにこすりつける。
 本当は一人になんてして欲しくないし、パパを責めたいわけでもないのだ。
 そんなわがままばかりの僕にパパは手をのばし、

「陽くん……抱っこ、してもいい?」

 と。大好きな人と同じ声で、同じ言葉を繰り返す。
 僕はついに我慢できずに、その胸に飛びついて、思い切り泣きじゃくっていた。

「パパぁ、ごめんなさぃ……!待っててって、言われたのに、ぼく、うわああん」
「ちがうよ。パパが陽くんを一人にしたから悪かったんだ。パパのこと、嫌いでも……一緒におうちに帰ってください。パパは陽くんがいないと、ダメになってしまう」
「うう、パパぁ……っ。きらい、全部うそなのおお。ぼく、嘘つきで、悪い子だから、うわああん」

 大好きな人と同じにおいがするパパの胸で、僕はワンワンと泣き喚いた。

「陽くんは悪くないよ。嘘つきも、悪い子も、全部パパのほうなんだから」

 そう悲しげにつぶやき、なぐさめてくれる声を聴きながら。
 僕は、ギュッとその胸にしがみついていた。
 なぜかパパも、大好きなハルカくんみたいに。
 明日にはどこかに行ってしまいそうな気がして、怖かったのだ——

 ◇
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