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21話
しおりを挟む「——パパぁ、はな、鼻血でてるよお?!」
「血……ああ、大丈夫。ちょっと待っててね」
鼻血を垂れ流したまま、フラフラとどこかへ行ってしまう男。
しばらくすると鼻栓をして、手にはローションやコンドームの箱の他に。
“おとなのおもちゃ”を山ほど抱えて戻ってきた。
「え、それ、どうするの」
「だって、こういうの使うよね……陽くんを痛くしないようにしないと」
ローテーブルにどっさり置かれた、地球外生命体のようなアイテムたち。
黒光りした頭の長いエイリアンみたいなものや、大玉チェーンの先っぽに尻尾が生えた生物。
他にも捕獲された怪魚のように、ブルブルのたうち回っているものまである。
どう見ても父の秘密の部屋にあった道具より、はるかに異彩を放っているのだった。
「ここでしていい? パパ、我慢できないよ」
「え、う、うん?」
のしかかられるままに、僕はソファに倒れこんだ。
パパは自らの股間をまさぐり、おちんちんをゴシゴシしはじめた。
しかし——
「……パパ、おくすりちゃんと飲んでる?」
「ん……忘れたかも」
「今から飲む? 僕、お水持ってこようか」
「待って……いま、ハァ、勃起しそうだから」
こんなやりとりを、すでに二十分ほど前にもした気がする。
(パパ、すごい汗かいてる。大人になったら、ワンタッチくらいの感じで、おちんちんはビーンって堅くなるのかなあって思ってたけどお)
僕はいつのまにかドロドロのことなんて忘れていた。
そんなことより目の前で、汗と鼻血まで垂らしている美しい男が。
なぜこんなにも自分のために必死になってくれるのかを、ぼんやりと考えていた。
(僕といやらしいことしたくないのに、僕のためにしようとしてくれてる。そんな大人の男の人、いるんだぁ……へんなの。パパは本当にへんな人だ)
僕はティッシュをちぎって、パパの鼻栓をかえる。
そして汗で前髪がはりついたおでこに触れ、もう何度目かの言葉をくりかえす。
「もういいよお。ほんとうに平気なんだってばあ。パパが僕よりえっちすぎて、ドロドロもどっか行っちゃったよお」
「でも、ん……もうちょっとなんだけど」
「もうゴシゴシ禁止だよ。パパのおちんちん、こすりすぎて消えちゃうから。ねぇ、ぼく、眠くなってきちゃったあ……パパ、ギュッてしてよぉ」
「うう、ごめん……ごめんね」
ハァハァと。
荒い息をはきながら、ようやく僕の肩に顔をうずめてくる。
完全に事後みたいだが、キスすらしていない。
背中に汗ばんだシャツを貼り付け、完全に事後みたいだが、男は勃起すらしていないのである。
それでも僕の心は満たされていた。
「ふふ……パパ、ありがとう。僕のために、ごめんなさぃ。でも僕、すごく、うれしかった。もう、大丈夫だよ」
「陽くん……」
「パパ、だいすき。パパも僕が好き……ぼくはパパとも両想いだあ」
パパの首に抱きつきながら、幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
僕をこんなに満たしてくれるのは、世界で一人だけだ。
はじめて会ったときから、ずっと僕の特別な人。
「……時岡くん」
目を閉じると、木漏れ日がキラキラと揺れていた。
僕は真っ白な光に導かれるように、再び深い眠りについていた。
◆
揺れるカーテンの向こうに、新緑が眩しく輝いていた。
僕はベッドに寝ていて、モニタや電子機器の数々に見守られ、体からは管が生えまくっていた。
(ああ、また入院中なんだ……そういえば僕も、昔はよく入院してたっけ)
ぼんやりとそんな事を考えていると、
『またちんこに管いれられてんの?』
病人のベッドに寝そべって話しかけてきたのが、時岡くんだった。
『……時岡くん、またお見舞いに来てくれたんだぁ』
『ちんこに管いれる時、痛くて泣いた?』
『えぇ』
『前に痛くて泣いたって言ってた。泣いた?』
時岡くんはなんかすごい子だった。
先生たちからは一目置かれていて、同級生たちからは百目も千目も距離置かれていた。
学校でほとんど話した事はないのに、なぜか僕が入院するたびに毎日病室にやってきていた。
『今回はあんまり痛くなかった。麻酔のゼリーみたいなのしたから』
『ふーん、じゃあ泣かなかった?』
『……ちょっとは、泣いたけど。おちんちん、へんになっちゃって。先生も笑うし、恥ずかしかったから』
『へん?』
時岡くんは変わり者だったけど、なんでも話せた。
病弱な僕をからかったりしないし、何より二人きりで話す時間が楽しかったから。
『いつ退院すんの?』
『……僕、いま麻酔が切れて起きたばっかりだよ』
そんな何度目かの入院のあと、時岡くんと僕は寮で同室になった。
いつの間にか背が伸びて、癖っ毛同様に性格も落ち着き、彼は大人っぽくなっていた。
(変わり者だから、みんなに敬遠されてるのかと思ったら。その反対なんだなぁ。僕、生きて卒業できるかな。不可が天才のルームメイトだなんて、はぁ、またすぐ入院しそう)
ぼんやりと窓の外の新緑の見つめながら、自然と股間を触っていた。
今更補足しようが自慰には変わりないのだけど。
僕は定期的に精液を提出しなくてはならなかった。
術後の後遺症もあって、勃起させることも訓練の一貫だったから。
とはいえ、いつもはトイレや浴室で済ますのに、僕はぼんやりし過ぎていた。
『手伝ってやろうか』
『え』
ぼんやりしすぎたあまり、目の前にルームメイトが立っていることにも気付かなかったのだ。
僕は稀代の超越者の前で、股間を丸出しにして自慰に耽っていた。
『舐めてやるよ』
『え』
柔らかな髪を耳にかけ、僕の股座にしゃがみ込む男。
ふっくらとした唇が開き、赤い舌が伸びてくる。
(——あっ。これってこれってもしかしなくても、えっちな展開のやつだあ……!)
僕は僕ではない人物の情景に、食い気味に見入っていた。
けど欲を出したとたん、えっちな場面にはモザイクがかかっていく。
そしてそのままモヤがかかったように、パパそっくりの“時岡くん”は消えてしまったのだった——
◆
「ん、んん。だめ、だめだよお、時岡くん」
僕はぬいぐるみを抱きしめ、体をくねらせていた。
夢だとは分かりつつも、まだ妄想のルームメイトにアレコレされている気分にひたっていた。
すると、
「じゃあ、挿れてもいい? 」
「え」
僕の股間のものをにぎり、先っぽをペロペロとなめて笑う男。
彼も“時岡くん”だけど、すでに一児のパパである。
(あれは、ただの……僕の夢、だよね? パパともしも、同級生だったらって、そういう学園モノみたいな妄想だ。だって現実ではありえないし、僕も名前が違うから)
けれど、柔らかな髪を耳にかけ、妖艶に瞳を細める姿は。
なぜか夢の中の、“時岡くん”そのものに重なってみえていた。
「……会いたかったよ、ヒカリ」
「え」
僕を僕じゃない名前で呼ぶ男は、パパでもハルカくんでもなく思えた。
でも、そんなことよりも。
僕は僕じゃない、その名前に覚えがあった。
あの病室のベッドにも、内服薬の袋にも書かれていた名前。
“ヒカリ”は、あのラッキースケベな、僕じゃない僕と、不思議と同じ名前だったのだ。
——【花井 暉】——
その名前を覚えてしまったのは、なぜか、とても懐かしい響きに感じたからだった。
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