【R18】お父さんと僕、ときどき弟(仮)

鯨井兀

文字の大きさ
21 / 44
▶︎

21話

しおりを挟む
 
「——パパぁ、はな、鼻血でてるよお?!」
「血……ああ、大丈夫。ちょっと待っててね」

 鼻血を垂れ流したまま、フラフラとどこかへ行ってしまう男。
 しばらくすると鼻栓をして、手にはローションやコンドームの箱の他に。
 “おとなのおもちゃ”を山ほど抱えて戻ってきた。

「え、それ、どうするの」
「だって、こういうの使うよね……陽くんを痛くしないようにしないと」

 ローテーブルにどっさり置かれた、地球外生命体のようなアイテムたち。
 黒光りした頭の長いエイリアンみたいなものや、大玉チェーンの先っぽに尻尾が生えた生物。
 他にも捕獲された怪魚のように、ブルブルのたうち回っているものまである。
 どう見ても父の秘密の部屋にあった道具より、はるかに異彩を放っているのだった。

「ここでしていい? パパ、我慢できないよ」
「え、う、うん?」

 のしかかられるままに、僕はソファに倒れこんだ。
 パパは自らの股間をまさぐり、おちんちんをゴシゴシしはじめた。

 しかし——

「……パパ、おくすりちゃんと飲んでる?」
「ん……忘れたかも」
「今から飲む? 僕、お水持ってこようか」
「待って……いま、ハァ、勃起しそうだから」

 こんなやりとりを、すでに二十分ほど前にもした気がする。

(パパ、すごい汗かいてる。大人になったら、ワンタッチくらいの感じで、おちんちんはビーンって堅くなるのかなあって思ってたけどお)

 僕はいつのまにかドロドロのことなんて忘れていた。
 そんなことより目の前で、汗と鼻血まで垂らしている美しい男が。
 なぜこんなにも自分のために必死になってくれるのかを、ぼんやりと考えていた。

(僕といやらしいことしたくないのに、僕のためにしようとしてくれてる。そんな大人の男の人、いるんだぁ……へんなの。パパは本当にへんな人だ)

 僕はティッシュをちぎって、パパの鼻栓をかえる。
 そして汗で前髪がはりついたおでこに触れ、もう何度目かの言葉をくりかえす。

「もういいよお。ほんとうに平気なんだってばあ。パパが僕よりえっちすぎて、ドロドロもどっか行っちゃったよお」
「でも、ん……もうちょっとなんだけど」
「もうゴシゴシ禁止だよ。パパのおちんちん、こすりすぎて消えちゃうから。ねぇ、ぼく、眠くなってきちゃったあ……パパ、ギュッてしてよぉ」
「うう、ごめん……ごめんね」

 ハァハァと。
 荒い息をはきながら、ようやく僕の肩に顔をうずめてくる。
 完全に事後みたいだが、キスすらしていない。
 背中に汗ばんだシャツを貼り付け、完全に事後みたいだが、男は勃起すらしていないのである。
 それでも僕の心は満たされていた。

「ふふ……パパ、ありがとう。僕のために、ごめんなさぃ。でも僕、すごく、うれしかった。もう、大丈夫だよ」 
「陽くん……」
「パパ、だいすき。パパも僕が好き……ぼくはパパとも両想いだあ」

 パパの首に抱きつきながら、幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
 僕をこんなに満たしてくれるのは、世界で一人だけだ。
 はじめて会ったときから、ずっと僕の特別な人。

「……時岡くん」

 目を閉じると、木漏れ日がキラキラと揺れていた。
 僕は真っ白な光に導かれるように、再び深い眠りについていた。

 ◆

 揺れるカーテンの向こうに、新緑が眩しく輝いていた。
 僕はベッドに寝ていて、モニタや電子機器の数々に見守られ、体からは管が生えまくっていた。

(ああ、また入院中なんだ……そういえば僕も、昔はよく入院してたっけ)

 ぼんやりとそんな事を考えていると、

『またちんこに管いれられてんの?』

 病人のベッドに寝そべって話しかけてきたのが、時岡くんだった。

『……時岡くん、またお見舞いに来てくれたんだぁ』
『ちんこに管いれる時、痛くて泣いた?』
『えぇ』 
『前に痛くて泣いたって言ってた。泣いた?』

 時岡くんはなんかすごい子だった。
 先生たちからは一目置かれていて、同級生たちからは百目も千目も距離置かれていた。
 学校でほとんど話した事はないのに、なぜか僕が入院するたびに毎日病室にやってきていた。

『今回はあんまり痛くなかった。麻酔のゼリーみたいなのしたから』
『ふーん、じゃあ泣かなかった?』
『……ちょっとは、泣いたけど。おちんちん、へんになっちゃって。先生も笑うし、恥ずかしかったから』
『へん?』

 時岡くんは変わり者だったけど、なんでも話せた。
 病弱な僕をからかったりしないし、何より二人きりで話す時間が楽しかったから。
  
『いつ退院すんの?』
『……僕、いま麻酔が切れて起きたばっかりだよ』

 そんな何度目かの入院のあと、時岡くんと僕は寮で同室になった。
 いつの間にか背が伸びて、癖っ毛同様に性格も落ち着き、彼は大人っぽくなっていた。

(変わり者だから、みんなに敬遠されてるのかと思ったら。その反対なんだなぁ。僕、生きて卒業できるかな。不可が天才のルームメイトだなんて、はぁ、またすぐ入院しそう)

 ぼんやりと窓の外の新緑の見つめながら、自然と股間を触っていた。
 今更補足しようが自慰には変わりないのだけど。
 僕は定期的に精液を提出しなくてはならなかった。
 術後の後遺症もあって、勃起させることも訓練の一貫だったから。
 とはいえ、いつもはトイレや浴室で済ますのに、僕はぼんやりし過ぎていた。

『手伝ってやろうか』
『え』

 ぼんやりしすぎたあまり、目の前にルームメイトが立っていることにも気付かなかったのだ。
 僕は稀代の超越者の前で、股間を丸出しにして自慰に耽っていた。

『舐めてやるよ』
『え』

 柔らかな髪を耳にかけ、僕の股座にしゃがみ込む男。
 ふっくらとした唇が開き、赤い舌が伸びてくる。

(——あっ。これってこれってもしかしなくても、えっちな展開のやつだあ……!)

 僕は僕ではない人物の情景に、食い気味に見入っていた。
 けど欲を出したとたん、えっちな場面にはモザイクがかかっていく。
 そしてそのままモヤがかかったように、パパそっくりの“時岡くん”は消えてしまったのだった——

 ◆

「ん、んん。だめ、だめだよお、時岡くん」

 僕はぬいぐるみを抱きしめ、体をくねらせていた。
 夢だとは分かりつつも、まだ妄想のルームメイトにアレコレされている気分にひたっていた。

 すると、

「じゃあ、挿れてもいい? 」
「え」

 僕の股間のものをにぎり、先っぽをペロペロとなめて笑う男。
 彼も“時岡くん”だけど、すでに一児のパパである。

(あれは、ただの……僕の夢、だよね? パパともしも、同級生だったらって、そういう学園モノみたいな妄想だ。だって現実ではありえないし、僕も名前が違うから)

 けれど、柔らかな髪を耳にかけ、妖艶に瞳を細める姿は。
 なぜか夢の中の、“時岡くん”そのものに重なってみえていた。

「……会いたかったよ、ヒカリ」 
「え」

 僕を僕じゃない名前で呼ぶ男は、パパでもハルカくんでもなく思えた。
 でも、そんなことよりも。
 僕は僕じゃない、その名前に覚えがあった。
 あの病室のベッドにも、内服薬の袋にも書かれていた名前。
 “ヒカリ”は、あのラッキースケベな、僕じゃない僕と、不思議と同じ名前だったのだ。

 ——【花井ハナイ ヒカリ】——

 その名前を覚えてしまったのは、なぜか、とても懐かしい響きに感じたからだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

処理中です...