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22話
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パパの“息子”になって三日目。
最終日の朝を、僕はリビングのソファで迎えていた。
「ぼくのパパ……いったい、なにものなの」
すでに朝と呼ぶには高くのぼった太陽。
高級マンションの最上階で、一面に広がる大都会の大パノラマをながめ、僕はぼうぜんとしていた。
ヴィン、ヴィン、ヴィン
ソファの下でのたうち回るオモチャの電源を切り、とりあえず、傍らで眠る男を見た。
『ヒカリ』
僕をそう呼んできた男は、とりあえず、めちゃくちゃにド変態だったのだ。
(ハルカくんも、パパも、すごく変わってるけど。僕にそういうこと、しない大人だったのにな、ってことも、ないかもだけど)
自分の許容範囲が広すぎるのも問題だが。
覚醒モードのパパは、僕のその広すぎる守備範囲をはるかに超えた、異次元の変態だった。
『おまえとヤるのって合法? あ、やっぱ●●●だから違法か、やべ、爆笑だわ』
『ガチできめぇおっさんに掘られてんの? そいつ●せよ、早く』
『おっさん短小すぎんだろ。おまえのお肌の曲がり角、オレが教えてやろうか?』
『パパのかたち、おぼえまちたか~? ここ、パパしかちゅっちゅできまちぇんからねぇ』
『●●●、●●? ●●●●●!』
大好きな人の声や姿形で、ペラペラと放たれる●●語の数々。
閑静だったパパの平家が、みるみるうちに巨悪な高層ビルに建て代わり、ためらいなく僕の敷地の中にまでクレーン車で突っ込んできた。
(まだ信じられない……優しくて美人なパパに、とんでもなく、どエロな変態幽霊が取り憑いちゃって。頭がイカれ……おかしくなっちゃったかと思った。うぅ、でもぉ)
僕はおなかのおへその辺りをなでて、顔を赤らめていた。
「僕のなか、一晩でぜんぶ変態さんのかたちにされちゃった。すごい、こんなとこまで」
奥の入っちゃいけないとこが、まだ、ズンズンされてるみたいだ。
うずくおなかをさすりながら、開発業者に熱っぽい視線をむける。
あんなにエロエロしかった男は、幼子のように小さくなって眠っていた。
大げさな例えではなく、親指を咥え、僕のぬいぐるみを胸にギュッと抱えて寝ているのだ。
「……ぼくのパパ、へんすぎる。かっこいいのに、へんたいで、かわいいのに、ぜつりんなんだもの」
覚えたての言葉をつぶやき、カーペットに散らばったゴムの残骸をみつめる。
「でもなあ。変態でも、中にビュッはしなかったんだよねえ。ビュッされると、ぼく、おそうじ大変だから……えへへ、やっぱりやさしいんだぁ。えっちのときも、からだはやさしかったもん」
自分の許容範囲が広すぎるのは、本当に本当に問題である。
「でもなあ。誰かと勘違いしてるみたいだったから。もしかして、ヒカリって、本当の子どもの名前、かな」
ド変態のパパは、一度も『陽くん』とも『陽一』とも呼ばなかった。
たとえ『ヒカリ』が、夢の中のラッキースケベ男と同名だったとしても。
どうしたって、ふつうに実の息子の名前なのでは? と考えるほうが自然なのだった。
「はぁ……結局、僕は三日間だけの子だもん。いいなあ、ヒカリくんは。へんなパパをひとりじめして」
熟睡しているド変態のパパにブランケットをかけて、うじうじとゴミの片付けをしていると、
「——あっ、そうだ! お父さん、お昼には迎えに来るっていってたんだあ」
大事な約束を思い出し、慌てて時計をさがす。
しかし、家が高級すぎるせいか時計がどこにも見当たらない。
するとちょうどローテーブルの上で、パパのスマホが光った。
グロテスクなオモチャに囲まれたスマホの画面のぞくと、時刻はすでに11時を過ぎていた!
「わあっ、もうお昼だよ~っ。あれ? これって、お父さんからのメールかも」
画面には《11:30 エントランス》と。
要件のみのメールの一文が、通知欄に表示されていた。
「ええ、さ、30分?! たっ、大変だあ! すぐ着替えて準備しなきゃ」
階段を駆けあがり、急いで僕の荷物があるパパのクローゼットに向かう。
気持ちは焦っているのに、寝室のドアを開けたとたんに。
僕は——
なにかも忘れて、その場に立ちすくんでしまうのだった。
「あは……そうだぁ……。ここは、ハルカくんのお部屋でもあるもんね」
天窓から陽がさしこむ、広くて、どこかさびしいその部屋に。
やたらと乱れやすいローブをきた、大好きな人が僕に微笑みかけてくれるような気がして。
僕は、胸がいっぱいになって、ハラハラと涙がこぼれていた。
「えへへ……ハルカくん、ぼく、帰っちゃうんだよ、いいの……?」
誰もいない部屋に、僕だけの声が吸い込まれ、消えていく。
僕を『愛してる』と言ってくれた人は、いったい、どこに行ってしまったのか。
それでもなぜか、もう会えないとは思えなかった。
「僕ね、もう一度、どうしてもハルカくんに会いたいです」
胸の前で両手を握りしめ、僕は心から祈っていた。
「僕、早く大人になって、こんな高級マンション買えるようになります。お肉もいっぱい買って、毎日、ずっとずっと待ってます。……だから、僕と、結婚してください。君を愛してます……えっと、篠崎、陽一より、ハルカくんへ」
最後はなんかカッコよく決まらなかったけど、おうちの住所と電話番号も伝えた。
僕のスマホは知らない番号の着信ができないから。
もちろん、恋人からの返事はないのだけど。
それでも告白したら、少しは胸が満たされるのだった。
「ふふ。よーし、早くりっぱな大人にならなきゃ。とりあえず帰ったら宿題だなあ、遊んでばっかりだったし」
がぜんやる気になってクローゼットを開けた。
昨日買ってもらったハイブランドな洋服に混じって、見慣れた制服を見つける。
けど、手に取ると、なぜか甲冑のように重く感じるのだった。
(そっかあ……また、おうちでいつもの毎日がはじまるんだよね。へんなの、三日前は泣きながら家を出てきたのに)
僕はのそのそと制服に着替えながら、鞄からスマホを取り出す。
すると父からのメールが僕にも届いていた。
《11時半にマンションの前で待ってるからね。早く陽くんに会いたいよ》
心待ちにしていたはずの父からのメッセージにも、なんだか気持ちが落ち込んでいく。
(帰ったら、また、地下室、連れていかれるのかな。でもお母さんも惺も帰ってくるから、大丈夫かも。……最後にしたのは、お泊まりする日の朝だったっけ)
泣いてる僕のおくちにおちんちんいれてきて、苦しかったことを思い出す。
なぜだか急に具合が悪くなってきて、お腹までチクチク痛むのだった。
「ううん、しっかりしなきゃ! 早く大人になって、ハルカくんが気にいるような、すごいおうちを買うんだもの。がんばろう」
鞄をせおい、鼻をふくらませ意気込んだ。
鏡にうつる僕は、このマンションに来たときと同じ、いつもの僕に戻っていた。
「じゃあ、行ってくるね!」
ハルカくんと過ごした部屋に別れを告げ。
僕は大好きな人との幸せな未来に向けて、大きな第一歩を踏み出すのだった。
パパの“息子”になって三日目。
最終日の朝を、僕はリビングのソファで迎えていた。
「ぼくのパパ……いったい、なにものなの」
すでに朝と呼ぶには高くのぼった太陽。
高級マンションの最上階で、一面に広がる大都会の大パノラマをながめ、僕はぼうぜんとしていた。
ヴィン、ヴィン、ヴィン
ソファの下でのたうち回るオモチャの電源を切り、とりあえず、傍らで眠る男を見た。
『ヒカリ』
僕をそう呼んできた男は、とりあえず、めちゃくちゃにド変態だったのだ。
(ハルカくんも、パパも、すごく変わってるけど。僕にそういうこと、しない大人だったのにな、ってことも、ないかもだけど)
自分の許容範囲が広すぎるのも問題だが。
覚醒モードのパパは、僕のその広すぎる守備範囲をはるかに超えた、異次元の変態だった。
『おまえとヤるのって合法? あ、やっぱ●●●だから違法か、やべ、爆笑だわ』
『ガチできめぇおっさんに掘られてんの? そいつ●せよ、早く』
『おっさん短小すぎんだろ。おまえのお肌の曲がり角、オレが教えてやろうか?』
『パパのかたち、おぼえまちたか~? ここ、パパしかちゅっちゅできまちぇんからねぇ』
『●●●、●●? ●●●●●!』
大好きな人の声や姿形で、ペラペラと放たれる●●語の数々。
閑静だったパパの平家が、みるみるうちに巨悪な高層ビルに建て代わり、ためらいなく僕の敷地の中にまでクレーン車で突っ込んできた。
(まだ信じられない……優しくて美人なパパに、とんでもなく、どエロな変態幽霊が取り憑いちゃって。頭がイカれ……おかしくなっちゃったかと思った。うぅ、でもぉ)
僕はおなかのおへその辺りをなでて、顔を赤らめていた。
「僕のなか、一晩でぜんぶ変態さんのかたちにされちゃった。すごい、こんなとこまで」
奥の入っちゃいけないとこが、まだ、ズンズンされてるみたいだ。
うずくおなかをさすりながら、開発業者に熱っぽい視線をむける。
あんなにエロエロしかった男は、幼子のように小さくなって眠っていた。
大げさな例えではなく、親指を咥え、僕のぬいぐるみを胸にギュッと抱えて寝ているのだ。
「……ぼくのパパ、へんすぎる。かっこいいのに、へんたいで、かわいいのに、ぜつりんなんだもの」
覚えたての言葉をつぶやき、カーペットに散らばったゴムの残骸をみつめる。
「でもなあ。変態でも、中にビュッはしなかったんだよねえ。ビュッされると、ぼく、おそうじ大変だから……えへへ、やっぱりやさしいんだぁ。えっちのときも、からだはやさしかったもん」
自分の許容範囲が広すぎるのは、本当に本当に問題である。
「でもなあ。誰かと勘違いしてるみたいだったから。もしかして、ヒカリって、本当の子どもの名前、かな」
ド変態のパパは、一度も『陽くん』とも『陽一』とも呼ばなかった。
たとえ『ヒカリ』が、夢の中のラッキースケベ男と同名だったとしても。
どうしたって、ふつうに実の息子の名前なのでは? と考えるほうが自然なのだった。
「はぁ……結局、僕は三日間だけの子だもん。いいなあ、ヒカリくんは。へんなパパをひとりじめして」
熟睡しているド変態のパパにブランケットをかけて、うじうじとゴミの片付けをしていると、
「——あっ、そうだ! お父さん、お昼には迎えに来るっていってたんだあ」
大事な約束を思い出し、慌てて時計をさがす。
しかし、家が高級すぎるせいか時計がどこにも見当たらない。
するとちょうどローテーブルの上で、パパのスマホが光った。
グロテスクなオモチャに囲まれたスマホの画面のぞくと、時刻はすでに11時を過ぎていた!
「わあっ、もうお昼だよ~っ。あれ? これって、お父さんからのメールかも」
画面には《11:30 エントランス》と。
要件のみのメールの一文が、通知欄に表示されていた。
「ええ、さ、30分?! たっ、大変だあ! すぐ着替えて準備しなきゃ」
階段を駆けあがり、急いで僕の荷物があるパパのクローゼットに向かう。
気持ちは焦っているのに、寝室のドアを開けたとたんに。
僕は——
なにかも忘れて、その場に立ちすくんでしまうのだった。
「あは……そうだぁ……。ここは、ハルカくんのお部屋でもあるもんね」
天窓から陽がさしこむ、広くて、どこかさびしいその部屋に。
やたらと乱れやすいローブをきた、大好きな人が僕に微笑みかけてくれるような気がして。
僕は、胸がいっぱいになって、ハラハラと涙がこぼれていた。
「えへへ……ハルカくん、ぼく、帰っちゃうんだよ、いいの……?」
誰もいない部屋に、僕だけの声が吸い込まれ、消えていく。
僕を『愛してる』と言ってくれた人は、いったい、どこに行ってしまったのか。
それでもなぜか、もう会えないとは思えなかった。
「僕ね、もう一度、どうしてもハルカくんに会いたいです」
胸の前で両手を握りしめ、僕は心から祈っていた。
「僕、早く大人になって、こんな高級マンション買えるようになります。お肉もいっぱい買って、毎日、ずっとずっと待ってます。……だから、僕と、結婚してください。君を愛してます……えっと、篠崎、陽一より、ハルカくんへ」
最後はなんかカッコよく決まらなかったけど、おうちの住所と電話番号も伝えた。
僕のスマホは知らない番号の着信ができないから。
もちろん、恋人からの返事はないのだけど。
それでも告白したら、少しは胸が満たされるのだった。
「ふふ。よーし、早くりっぱな大人にならなきゃ。とりあえず帰ったら宿題だなあ、遊んでばっかりだったし」
がぜんやる気になってクローゼットを開けた。
昨日買ってもらったハイブランドな洋服に混じって、見慣れた制服を見つける。
けど、手に取ると、なぜか甲冑のように重く感じるのだった。
(そっかあ……また、おうちでいつもの毎日がはじまるんだよね。へんなの、三日前は泣きながら家を出てきたのに)
僕はのそのそと制服に着替えながら、鞄からスマホを取り出す。
すると父からのメールが僕にも届いていた。
《11時半にマンションの前で待ってるからね。早く陽くんに会いたいよ》
心待ちにしていたはずの父からのメッセージにも、なんだか気持ちが落ち込んでいく。
(帰ったら、また、地下室、連れていかれるのかな。でもお母さんも惺も帰ってくるから、大丈夫かも。……最後にしたのは、お泊まりする日の朝だったっけ)
泣いてる僕のおくちにおちんちんいれてきて、苦しかったことを思い出す。
なぜだか急に具合が悪くなってきて、お腹までチクチク痛むのだった。
「ううん、しっかりしなきゃ! 早く大人になって、ハルカくんが気にいるような、すごいおうちを買うんだもの。がんばろう」
鞄をせおい、鼻をふくらませ意気込んだ。
鏡にうつる僕は、このマンションに来たときと同じ、いつもの僕に戻っていた。
「じゃあ、行ってくるね!」
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