【R18】お父さんと僕、ときどき弟(仮)

鯨井兀

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22話

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 ◆

 パパの“息子”になって三日目。
 最終日の朝を、僕はリビングのソファで迎えていた。

「ぼくのパパ……いったい、なにものなの」

 すでに朝と呼ぶには高くのぼった太陽。
 高級マンションの最上階で、一面に広がる大都会の大パノラマをながめ、僕はぼうぜんとしていた。

 ヴィン、ヴィン、ヴィン

 ソファの下でのたうち回るオモチャの電源を切り、とりあえず、傍らで眠る男を見た。

『ヒカリ』

 僕をそう呼んできた男は、とりあえず、めちゃくちゃにド変態だったのだ。

(ハルカくんも、パパも、すごく変わってるけど。僕にそういうこと、しない大人だったのにな、ってことも、ないかもだけど)

 自分の許容範囲が広すぎるのも問題だが。
 覚醒モードのパパは、僕のその広すぎる守備範囲をはるかに超えた、異次元の変態だった。

『おまえとヤるのって合法? あ、やっぱ●●●だから違法か、やべ、爆笑だわ』
『ガチできめぇおっさんに掘られてんの? そいつ●せよ、早く』
『おっさん短小すぎんだろ。おまえのお肌の曲がり角、オレが教えてやろうか?』
『パパのかたち、おぼえまちたか~? ここ、パパしかちゅっちゅできまちぇんからねぇ』
『●●●、●●? ●●●●●!』

 大好きな人の声や姿形で、ペラペラと放たれる●●語の数々。
 閑静だったパパの平家股間が、みるみるうちに巨悪な高層ビルに建て代わり、ためらいなく僕の敷地尻穴の中にまでクレーン車で突っ込んできた。

(まだ信じられない……優しくて美人なパパに、とんでもなく、どエロな変態幽霊が取り憑いちゃって。頭がイカれ……おかしくなっちゃったかと思った。うぅ、でもぉ)

 僕はおなかのおへその辺りをなでて、顔を赤らめていた。

「僕のなか、一晩でぜんぶ変態さんのかたちにされちゃった。すごい、こんなとこまで」

 奥の入っちゃいけないとこが、まだ、ズンズンされてるみたいだ。
 うずくおなかをさすりながら、開発業者に熱っぽい視線をむける。
 あんなにエロエロしかった男は、幼子のように小さくなって眠っていた。
 大げさな例えではなく、親指を咥え、僕のぬいぐるみを胸にギュッと抱えて寝ているのだ。

「……ぼくのパパ、へんすぎる。かっこいいのに、へんたいで、かわいいのに、ぜつりんなんだもの」

 覚えたての言葉をつぶやき、カーペットに散らばったゴムの残骸をみつめる。

「でもなあ。変態でも、中にビュッはしなかったんだよねえ。ビュッされると、ぼく、おそうじ大変だから……えへへ、やっぱりやさしいんだぁ。えっちのときも、からだはやさしかったもん」

 自分の許容範囲が広すぎるのは、本当に本当に問題である。

「でもなあ。誰かと勘違いしてるみたいだったから。もしかして、ヒカリって、本当の子どもの名前、かな」

 ド変態のパパは、一度も『陽くん』とも『陽一』とも呼ばなかった。
 たとえ『ヒカリ』が、夢の中のラッキースケベ男と同名だったとしても。
 どうしたって、ふつうに実の息子の名前なのでは? と考えるほうが自然なのだった。 

「はぁ……結局、僕は三日間だけの子だもん。いいなあ、ヒカリくんは。へんなパパをひとりじめして」

 熟睡しているド変態のパパにブランケットをかけて、うじうじとゴミの片付けをしていると、

「——あっ、そうだ! お父さん、お昼には迎えに来るっていってたんだあ」

 大事な約束を思い出し、慌てて時計をさがす。
 しかし、家が高級すぎるせいか時計がどこにも見当たらない。
 するとちょうどローテーブルの上で、パパのスマホが光った。
 グロテスクなオモチャに囲まれたスマホの画面のぞくと、時刻はすでに11時を過ぎていた!

「わあっ、もうお昼だよ~っ。あれ? これって、お父さんからのメールかも」

 画面には《11:30 エントランス》と。
 要件のみのメールの一文が、通知欄に表示されていた。

「ええ、さ、30分?! たっ、大変だあ! すぐ着替えて準備しなきゃ」

 階段を駆けあがり、急いで僕の荷物があるパパのクローゼットに向かう。
 気持ちは焦っているのに、寝室のドアを開けたとたんに。
 僕は——
 なにかも忘れて、その場に立ちすくんでしまうのだった。

「あは……そうだぁ……。ここは、ハルカくんのお部屋でもあるもんね」

 天窓から陽がさしこむ、広くて、どこかさびしいその部屋に。
 やたらと乱れやすいローブをきた、大好きな人が僕に微笑みかけてくれるような気がして。
 僕は、胸がいっぱいになって、ハラハラと涙がこぼれていた。

「えへへ……ハルカくん、ぼく、帰っちゃうんだよ、いいの……?」

 誰もいない部屋に、僕だけの声が吸い込まれ、消えていく。
 僕を『愛してる』と言ってくれた人は、いったい、どこに行ってしまったのか。
 それでもなぜか、もう会えないとは思えなかった。

「僕ね、もう一度、どうしてもハルカくんに会いたいです」

 胸の前で両手を握りしめ、僕は心から祈っていた。

「僕、早く大人になって、こんな高級マンション買えるようになります。お肉もいっぱい買って、毎日、ずっとずっと待ってます。……だから、僕と、結婚してください。君を愛してます……えっと、篠崎、陽一より、ハルカくんへ」

 最後はなんかカッコよく決まらなかったけど、おうちの住所と電話番号も伝えた。
 僕のスマホは知らない番号の着信ができないから。
 もちろん、恋人からの返事はないのだけど。
 それでも告白したら、少しは胸が満たされるのだった。

「ふふ。よーし、早くりっぱな大人にならなきゃ。とりあえず帰ったら宿題だなあ、遊んでばっかりだったし」

 がぜんやる気になってクローゼットを開けた。
 昨日買ってもらったハイブランドな洋服に混じって、見慣れた制服を見つける。
 けど、手に取ると、なぜか甲冑のように重く感じるのだった。

(そっかあ……また、おうちでいつもの毎日がはじまるんだよね。へんなの、三日前は泣きながら家を出てきたのに)

 僕はのそのそと制服に着替えながら、鞄からスマホを取り出す。
 すると父からのメールが僕にも届いていた。

《11時半にマンションの前で待ってるからね。早く陽くんに会いたいよ》

 心待ちにしていたはずの父からのメッセージにも、なんだか気持ちが落ち込んでいく。

(帰ったら、また、地下室、連れていかれるのかな。でもお母さんも惺も帰ってくるから、大丈夫かも。……最後にしたのは、お泊まりする日の朝だったっけ)

 泣いてる僕のおくちにおちんちんいれてきて、苦しかったことを思い出す。
 なぜだか急に具合が悪くなってきて、お腹までチクチク痛むのだった。

「ううん、しっかりしなきゃ! 早く大人になって、ハルカくんが気にいるような、すごいおうちを買うんだもの。がんばろう」

 鞄をせおい、鼻をふくらませ意気込んだ。
 鏡にうつる僕は、このマンションに来たときと同じ、いつもの僕に戻っていた。

「じゃあ、行ってくるね!」

 ハルカくんと過ごした部屋に別れを告げ。
 僕は大好きな人との幸せな未来に向けて、大きな第一歩を踏み出すのだった。
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