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しおりを挟む週末の賑やかな並木通り。
ペットまでもがハイブランドに身を包み、颯爽と通り過ぎていく。
僕は一人、華やかなショーウィンドウをぼんやり見上げていた。
(なんか、血まみれみたいな服だな。でも、あの人なら似合いそうかも)
あの強烈な三日間から、月日はそれなりに経っていた。
僕は時々、彼と巡った街を訪れていた。
すぐに壊すと言っていたビルは、本当に跡形もなく消え去り。
今では別のハイブランドのビルが、高々と聳え立っていた。
(もうここに来るの、やめなきゃなぁ。大切な思い出まで、消えてしまう気がする)
ガラスに映った未練がましい自分の顔を見つめて、「はぁ」と肩を落としていると、
「篠崎?」
名前を呼ばれて反射的に振り返る。
すると、どこかで見たような男が、僕を見ていた。
「え? はい、え……?」
「あれ、わかんないか。国語の先生、宮下だけど」
「わ、あッ、すみません!なんか、ボーッとしてて」
声を掛けてきたのは、確かに新任の宮下先生だった。
いつも学校ではスーツ姿だけど、今日は休日の若者らしく、ラフな格好で丸レンズの眼鏡を掛けていた。
「なになに、宮下せんせー? さては生徒からの人望薄いね? 新しい学校でまだ顔も覚えられてないんだ~?」
肘で突いて揶揄う女の人は、目鼻立ちの整った綺麗な人だった。
僕は慌てて、かぶりを振り、
「がっ、学区外だから、先生に会うと思ってなくて。宮下先生は人気です、すごく……面白いし」
人気なのは本当だが、面白いわけではない。
どちらかというと冷めた雰囲気で、一部の女子にはメロいと評判ではあるが、
『女子には大人気だから、男子にはすこぶる不人気です』
なんて本当のことを言うわけにはいかず、多方面に配慮した結果だった。
「そうか、学区外なのは理解してるんだな? 一人か?」
「エッ。いえ、家族と、来てて。今は、ひとりで、その……」
「え~先生うざすぎ~。ていうか声かけないでしょ、ふつう、休日の生徒に。ね~? なんかごめんね~?」
「い、いえ」
親同伴であると嘘までつき、そのせいで家庭環境がアレコレ詮索されるのでは、と動揺していた。
そちらの方が校則違反より、はるかに大問題なのだ。
すると挙動不審に俯く僕の頭に、ポン、と触れ、
「じゃあ、篠崎も先生がデートしてたこと、内緒な?」
「あ、ぅん……ハッ、はいっ」
「気をつけて帰れよ」
「篠崎君、ばいばーい。宮下先生のこと、よろしくね~」
綺麗なお姉さんに手を振られ、僕も思わず、手を振り返していた。
そしてそのまま、その手で自分の頭に触れていた。
(先生の指、細くてきれいだったな。ちょっと…….ハルカくんの手に似てる気がする)
先生が触れた手の感触が、なんだか照れくさくて。
その日は久しぶりに、この街に来てよかったと思えていた。
◆
部活動もせず、ほぼ学校と家の往復をするだけの日々。
それでも僕のスケジュールはそれなりにハードだった。
「体操服袋、忘れないでね。玄関に置いておくから……エッ、行かない?! 学校は行かなきゃダメだよ~」
弟の惺は小学校にあがったけど、相変わらず無口だった。
とはいえ虐められたりもせず、むしろ友達も多く、僕とは真逆の人種だった。
成績も優秀で、運動も音楽も、もちろん容姿も。
何もかも人より飛び抜けて、秀でているのだった。
「学校行ってね……お願い、お兄ちゃん、今日早く学校行かなきゃいけない日だから。わかった? え、抱っこ? それ帰ってきてからじゃダメなやつなのおお?!」
平日はほとんど弟と二人きり。
母には別の家があり、今は女性と暮らしている。
それでも家計の管理や、生活に必要な事はしてくれるし、週末は必ず帰宅してくれるだけもマシである。
なにせ父はというと、もう何年も姿を見ていないのだから。
(毎月入金があるからって、警察に捜索願いも出してないし。うちって本当に大丈夫なのかな。なんかいろいろ通報されたらおしまいな気がする)
けど、いつのことだったか。
父が一度、ふらりと家に帰った事があった。
もうお風呂も入り終えて、リビングで弟に本を読んでいた時だった。
『よぅ、ぃち……』
真冬でも快活に日焼けし、筋トレも歯のホワイトニングも欠かさない意識も自尊心も高い父が。
青白く痩せこけ、落武者のような姿で、僕たち兄弟の前に現れた。
『え……おとぅ、さん?』
あまりの変貌ぶりに愕然として。
くまなく全身を鑑定したのち、『お父さん!』と感動の再会をやり直した。
『お、お水? あ、焼きそば!僕、焼きそばなら作れるよ!? そうだ、お母さんに電話しなきゃあ』
『よう、いちィィ』
父は凄い力で僕を押し倒し、抱き締めてきた。
悪臭がして、もう長い事お風呂にも入っていないのが明らかだった。
『おとお、さん、ぐ、るじぃ』
『ようくんッ、ようくんッ、ようくんッッ』
頬擦りしなが、僕の寝巻きをめくりあげ、乳首にジュルジュルと吸いつかれる。
『あッ、やだぁ、だめ、やめてよぉ』
家族がいる前で襲われるなんて、一度もなかったから焦っていた。
父は僕のパンツまで引き下げて、丸見えになった陰部にしゃぶりつく。
弟に見られている恥ずかしさから、僕は顔を真っ赤にして、メソメソ泣き出していた。
『ここじゃヤダぁ……ぼく、良い子にするからぁ……!お仕事部屋に行く、行こうよぉ』
『お、お注射しようね。太いの、ようくんに、挿れるょぅ』
グイと片足を持ち上げられ、父の怒張が尻穴に減り込んだ。
恐怖のあまり、硬く目を閉じ、唇を噛み締めていた。
けれどその瞬間に——
父は物凄い雄叫びをあげて、僕から飛び退いていた。
『ヒ、ヒィィィ………』
何を見ているのか、僕の背後に視線を彷徨わせ、狼狽していた。
『た、たすけ、ひいぃぃ、殺さないで、死にだぐな゛ぃ゛よぉ゛おぉぉ』
薬のやりすぎで頭がおかしくなったのか。
脂ぎった頭を抱え、ゴキブリのように床を這ってリビングを出ていく。
そして数分後には、エンジンを吹かせたスポーツカーが、ガレージから猛スピードで急発進する音が聞こえていた。
『うぅ、ぐす、うぅ……うえぇぇん』
泣きながら脱がされたパンツを引き上げる、情けない兄を。
弟は何も言わずに抱き締め、頭をなでていた。
そのまま僕が泣き疲れて寝るまで。
幼い弟は一晩中、僕のそばにいてくれたのだった——
(はぁ……あの日こと、惺が覚えてないといいのにな。かっこ悪すぎるよ……優秀な弟の未来に、変な影響がないといいんだけど)
そんなことを思い出しながら。
朝の静まり返った図書室の片隅で、僕は先生と大人のキスをしていた。
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