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二 通小町

難波津に......

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 やってきました、大阪。
 待ちに待ったテーマパーク。きゃっほ~い!

 堅苦しいお勉強は、今日は無し......と思いきや、テーマパークに行く前にやっぱり社会科見学。



 行き先は日本一デカイと言われる大仙陵古墳。以前は仁徳天皇陵と言ったそうな。

 日本だけじゃなくて世界でも最大級の墳墓、つまりはお墓らしい。確かにデカイ。端っこが何処にあるかわかんないもん。
 でも、前方後円墳?......あの鍵穴みたいなやつなんだって。

 で、本日の講師、長柄先生によれば、今日、俺たちが行くテーマパークのあるところは明治時代後半までは海の中。それまでは今の大阪の中心地くらいまで海が入り込んでいたんだって。

「古墳時代から平安時代が始まるまで、都が置かれていた場所でもあるんだよ」

 嬉々として語る長柄先生。本領発揮で嬉しそう。

 奈良時代も副宮が置かれていて、大阪湾の南の方、難波津と言われていたところから、遣唐使や遣隋使の船が出発したんだそうな。

 小野崎先生、もとい小野篁が上司と喧嘩して乗船拒否、職務放棄したアレですね。

 篁さんせんせい、それで島流しになったんですよね?



「和歌にも沢山読まれている。わたの原、や難波江という枕言葉がよく出てくるだろう?」

 うんうんと頷く、小野崎先生。めっきり昔のことは忘れた顔。

王仁わにという人が、この古墳の被葬者、仁徳天皇に捧げた難波津の歌というのが大和歌、和歌の初めと言われている。平安時代の貴族とかは、これを手習い、つまり勉強の一番初めに習ったんだ」

 あ、資料プリントのこれですね。
 競技カルタで一番最初に詠まれる決まりなんだって。映画じゃ言ってなかったな。


「新しい天皇ー当時は大王おおきみだが、その尊い人に捧げた門出の歌だ。詳しいことが知りたい人は、古文の小野崎先生に聞くように」

 長柄先生はそう言って、昔の宮殿のあった場所とか、大阪の古墳の分布とかを地図に落とした分厚い資料プリントを配ってくれた。

 力入ってますね。本当に好きなんですね、考古学。高校じゃやらないけど。

 ホントに奈良だけかと思ったら、宮殿の跡とか古墳とかマジいっぱいあるんだ。

 都と言っても、ちゃんと都市計画されたのは、平安京が初めて。   
 それ以前は本当に小規模な町で、宮もあまり大きくないんだ。

 目からウロコが五、六枚剥がれたよ。

 結構、関心を持ってあれこれ質問してたやつらもいたけど、俺は興味なし。だって俺、理系だもん。歴史苦手。
 早くテーマパーク行って遊びたい。




 
 それから待つこと約一時間。やっとお待ちかねのテーマパークに到着した。
 バスの中はみんなの歓喜の声ではちきれそう。

 そして......
 
 ハリウッド映画のキャラクターの出迎えを受けてゲートを潜ると、もう別世界。
 溢れる鮮やかな色彩とエレクトリックな音の洪水にテンション爆上がりな今ドキ高校生、つまりは俺たち。
 もうハジケていいんだよね?
 
 ひっきりなしの歓声にやっと現代に帰ってきた実感が沸き上がってくる。

 小野駒治、無事、令和に生還いたしました!

.......なぁんちゃって。えへ。

 
 もう目一杯、楽しみまくった!!


 有名映画の街を体感して、恐竜に追いかけられたり、捕まったり。ジェットコースターに乗って、ゲームみたいにレースもした。
 みんなして、盛り上がって、はしゃぎまくって......。

 先生達もケガさえしなきゃいい、って半分は放置状態。
 あ、でも飲酒喫煙は厳しく禁止されてます。当然ながら、菅原先生が目を光らせてます。 
 ゴミのポイ捨てだけでもソッコー叱られる。

 
 遊んで遊びまくったラストの花火も、とにかくキレイで凄くて、感動だった。本当に夜空に花が咲いたみたいだった。
 出来ることなら、あの少将に見せてあげたいと思ったくらいだった。

 でも.......ね。



『凄いよな~!』 

『彼女と見たいよな~!』

 親友の水本と二人並んで大口開けてる俺の脇で、式部と清原が、有名な犬やお茶目なモンスターのぬいぐるみ抱えて、黄色い声を上げまくる。
 やっぱり女子だね、こいつらも。ちょっとウルサイ。


 宿泊先はテーマパーク併設のホテルで、ベッドはふかふか。暖かい布団を掛けて寝られるのは最高に幸せだった。俺はジャンケンに負けて補助ベッドだったけどね。

 平成・令和の人間で良かった。
 俺は大阪の街のネオンを眺めながら、つくづくそう思った。



 そして......ちょっとだけ祈った。

ー深草少将が、今度は幸せな未来に生まれて来れますようにー

 
 


 早く新しい門出が来ると、いいね。少将さん。








ー難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花ー
(古今和歌集 仮名序)

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