18 / 39
それは理由になりません
しおりを挟む
しこたま買ってもらった食材で、アライグマのお母さんが腕を奮ってくれたご馳走が並ぶ豪勢な食卓。支部長さんは虎なだけに肉がとってもお好きなんだけど、
「カミサンが作ってくれたもんならなんでも美味い」
ご馳走さまです。
「そうですよね。料理上手っていいですよね」
て、なんであんたが大層らしく相槌打ってんのよ、ルノア。
「でも、この人も料理するんだよ。結構上手だよ。なんせ冒険者やってたからな」
「まぁ俺のは、大雑把だけどな」
虎の支部長さんは若い頃はかなり有名な冒険者で相当腕がたつ人だったらしい。大怪我して引退したんだけど、その時に看護してくれたアライグマのお母さんにぞっこんに惚れてプロポーズしたんだそうな。
「この人さぁ、虎だからまぁ照れ屋で、人前に出るのが大嫌いで。偏屈だったけど、なんとかしてやんなきゃ、と思ったんだ。気っ風もいいし、親分肌で面倒見もいいのに、すぐ頭に血が昇る質で、随分手こずったよ」
「そう言うなって......」
気恥ずかしそうな支部長さん。そうだよね、昔の冒険者仲間がふらっと顔を見に立ち寄ってくれるくらいだからね。
「羨ましいですね」
ルノアが、お母さん得意のキッシュをパクつきながら言う。
「コイツなんか料理全然出来ないすよ。きっと」
「なんだよっ!」
図星。なぜバレている。.....まぁ実家暮らしでしたからっ。母さんがちゃんと食べさせてくれてた。ムクレる私。
「料理したことないだろ、今まで。作ってもらうか、買い食いだろ、坊やは」
突っ込むなぁ~。仕方ないじゃん。前世だってお一人様だし、あの世界にはコンビニもファストフードもあって、自分で作らなくても良かったんだもん。
だいたい毎日、残業で遅かったし、帰りに吉○家で牛丼を掻き込んでましたよ、はい。そう言えば時々、あいつに奢ってもらったり、奢り返したり。夜中までよく議論してたっけ。結構楽しかったな......。
「い、いいんだよ。俺は男なんだから、出来なくても」
「何言ってんだ、お前?」
冷たい眼差しが突き刺さる。
「お前は俺の嫁になるんだから、料理くらい覚えろ。それ以前に自分の食い物は自分で作れるようになれ。大人なんだろ?」
あっ、忘れてた。この世界には男しかいないんだった。ー男だからーは通用しない、言い訳できない。シビアだな....。
「俺が少しずつ教えてやるから、大丈夫だよ」
アライグマのお母さんがルノアを優しく宥める。リカバリーありがとう。
「町の特産品売り出すなら、新しいレシピも考えないとだしな」
うんうん、と頷く支部長さん。でも、まだルノアの目線が怖い。
「これから、休みの日は特訓な。家事労働」
「えーっ、花嫁修業なんか絶対やだ!」
ささやかな抵抗を試みる私に、冷たい口調でトドメの一撃。
「花嫁修業じゃない。自立するんだ。まず一人前になれ、ガキ」
ひ、ひどい。そんな言い方無いじゃんよ。
「あんたは出来るのかよっ!」
「当たり前だ」
きっぱり言い切ったルノア。
その言葉どおり次の休みから、朝から私の下宿に入り浸って厳しい『ご指導』が始まった。おかげで私の指はかなり悲惨な状態。
「野菜を切れと言ってるのに、なんで自分の指を切るんだ」
包帯ぐるぐる巻きの私の指先。だからってそんな大きな溜め息つかなくてもいいじゃんよ。
「まったく.....仕事以外はなんにも出来ないんだな、お前」
ボソッとぼやくルノア。その口調、あいつそっくり。止めてよ、刺さるから。
「もぅいい、座ってろ」
半ば怒り気味で、でも手際よくスープ作ってくれたルノアの背中に、あいつを思い出してしまった。
元の世界にいた頃、ある時、仕事が詰まっていてずっと休めなかった私は風邪で高熱出して、会社で倒れた。気がついたら、家のベッドに寝ていて、あいつが台所にいた。
『冷蔵庫、なんにも入って無かったぞ。それに米くらい買っておけ』
怒りながら作ってくれたおじやは美味しくて温かかった。食べ終わってからも、冷したタオルを何度も変えてくれた。私が眠るまでいてくれた。
夜中、あいつが帰った後、喉が乾いて冷蔵庫を見たら、スポーツドリンクと作り置きのシチューが入っていた。テーブルの上に栄養ドリンクを文鎮がわりに短いメモがあった。
ー明日は休め。部長には言っておくー
翌日、少し熱は下がって、会社に電話を入れたら、部長が不気味なくらい優しい声で言った。
『無理しないで、今日は休みなさい。仕事のことは心配いらない』
週明けに出社した時、溜まっていた仕事は綺麗に片付いていた。部下のひとりに訊いたら、あいつが仕事を采配して、私の仕事も引き受けてくれたという。倒れたその日も、私はあいつに背負われて帰ったらしい。
『○○さん、自分はゲイだから心配いらないって......。部長もそう言ってました』
ーいい奴だったよな.....ゲイだったのはちょっと意外だったけどー
おネエとゲイは別物だと、その時に始めて知った。
ーどうしてるかな.....ー
なんだか無性にあいつに会いたくなった。
「カミサンが作ってくれたもんならなんでも美味い」
ご馳走さまです。
「そうですよね。料理上手っていいですよね」
て、なんであんたが大層らしく相槌打ってんのよ、ルノア。
「でも、この人も料理するんだよ。結構上手だよ。なんせ冒険者やってたからな」
「まぁ俺のは、大雑把だけどな」
虎の支部長さんは若い頃はかなり有名な冒険者で相当腕がたつ人だったらしい。大怪我して引退したんだけど、その時に看護してくれたアライグマのお母さんにぞっこんに惚れてプロポーズしたんだそうな。
「この人さぁ、虎だからまぁ照れ屋で、人前に出るのが大嫌いで。偏屈だったけど、なんとかしてやんなきゃ、と思ったんだ。気っ風もいいし、親分肌で面倒見もいいのに、すぐ頭に血が昇る質で、随分手こずったよ」
「そう言うなって......」
気恥ずかしそうな支部長さん。そうだよね、昔の冒険者仲間がふらっと顔を見に立ち寄ってくれるくらいだからね。
「羨ましいですね」
ルノアが、お母さん得意のキッシュをパクつきながら言う。
「コイツなんか料理全然出来ないすよ。きっと」
「なんだよっ!」
図星。なぜバレている。.....まぁ実家暮らしでしたからっ。母さんがちゃんと食べさせてくれてた。ムクレる私。
「料理したことないだろ、今まで。作ってもらうか、買い食いだろ、坊やは」
突っ込むなぁ~。仕方ないじゃん。前世だってお一人様だし、あの世界にはコンビニもファストフードもあって、自分で作らなくても良かったんだもん。
だいたい毎日、残業で遅かったし、帰りに吉○家で牛丼を掻き込んでましたよ、はい。そう言えば時々、あいつに奢ってもらったり、奢り返したり。夜中までよく議論してたっけ。結構楽しかったな......。
「い、いいんだよ。俺は男なんだから、出来なくても」
「何言ってんだ、お前?」
冷たい眼差しが突き刺さる。
「お前は俺の嫁になるんだから、料理くらい覚えろ。それ以前に自分の食い物は自分で作れるようになれ。大人なんだろ?」
あっ、忘れてた。この世界には男しかいないんだった。ー男だからーは通用しない、言い訳できない。シビアだな....。
「俺が少しずつ教えてやるから、大丈夫だよ」
アライグマのお母さんがルノアを優しく宥める。リカバリーありがとう。
「町の特産品売り出すなら、新しいレシピも考えないとだしな」
うんうん、と頷く支部長さん。でも、まだルノアの目線が怖い。
「これから、休みの日は特訓な。家事労働」
「えーっ、花嫁修業なんか絶対やだ!」
ささやかな抵抗を試みる私に、冷たい口調でトドメの一撃。
「花嫁修業じゃない。自立するんだ。まず一人前になれ、ガキ」
ひ、ひどい。そんな言い方無いじゃんよ。
「あんたは出来るのかよっ!」
「当たり前だ」
きっぱり言い切ったルノア。
その言葉どおり次の休みから、朝から私の下宿に入り浸って厳しい『ご指導』が始まった。おかげで私の指はかなり悲惨な状態。
「野菜を切れと言ってるのに、なんで自分の指を切るんだ」
包帯ぐるぐる巻きの私の指先。だからってそんな大きな溜め息つかなくてもいいじゃんよ。
「まったく.....仕事以外はなんにも出来ないんだな、お前」
ボソッとぼやくルノア。その口調、あいつそっくり。止めてよ、刺さるから。
「もぅいい、座ってろ」
半ば怒り気味で、でも手際よくスープ作ってくれたルノアの背中に、あいつを思い出してしまった。
元の世界にいた頃、ある時、仕事が詰まっていてずっと休めなかった私は風邪で高熱出して、会社で倒れた。気がついたら、家のベッドに寝ていて、あいつが台所にいた。
『冷蔵庫、なんにも入って無かったぞ。それに米くらい買っておけ』
怒りながら作ってくれたおじやは美味しくて温かかった。食べ終わってからも、冷したタオルを何度も変えてくれた。私が眠るまでいてくれた。
夜中、あいつが帰った後、喉が乾いて冷蔵庫を見たら、スポーツドリンクと作り置きのシチューが入っていた。テーブルの上に栄養ドリンクを文鎮がわりに短いメモがあった。
ー明日は休め。部長には言っておくー
翌日、少し熱は下がって、会社に電話を入れたら、部長が不気味なくらい優しい声で言った。
『無理しないで、今日は休みなさい。仕事のことは心配いらない』
週明けに出社した時、溜まっていた仕事は綺麗に片付いていた。部下のひとりに訊いたら、あいつが仕事を采配して、私の仕事も引き受けてくれたという。倒れたその日も、私はあいつに背負われて帰ったらしい。
『○○さん、自分はゲイだから心配いらないって......。部長もそう言ってました』
ーいい奴だったよな.....ゲイだったのはちょっと意外だったけどー
おネエとゲイは別物だと、その時に始めて知った。
ーどうしてるかな.....ー
なんだか無性にあいつに会いたくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
124
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる