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「ラフィ、もう大丈夫?熱ひいた?」
夕方、アントーレがひょっこりと俺の部屋に顔を出した。
「うん、大丈夫。......それよりアントーレ、どうしたの?」
シーツの中に半分顔を隠して答える俺。
気まずい。
いや、別にアントーレのことが好きなわけじゃないけど、ああいうことしちゃった後だし、マグリットはさりげなく、枕元に座って俺の髪に触れてたりするし。
気づいたよね?
絶対、気づいてるよね?
案の定、アントーレは一瞬、微妙な表情をしたけど、すっといつも通りの、いやいつもより思い詰めた表情で俺達に言った。
「大事な話があるんだ。食堂に来てもらっていいかな。マグリットも.......みんなに聞いてもらいたいことがあるんだ」
俺は頷き、少しだけ身支度をする時間をもらった。腰はまだ少し痛いけど、歩けないほどじゃない。
「待たせてごめん」
俺達が支度を済ませて食堂に入ると、既にみんな集まっていた。
アントーレとエメルさん、ルートヴィヒにマグリットに俺。レイトン先生にリヴァロ先生、サマリアさん。ケヴィンは辺境に留まっているから当然だけどニコルもいない。
『ニコルには聞かせたくない』
ってサマリアさん。ということは、そういう話なんだ、と俺は身を硬くした。
マグリットがさりげなく俺の身体を支えて椅子に座らせてくれた。エメルさん、によによ笑うの止めて、そういうことだけど。
「まず、食事をしよう」
サマリアさんが手を叩くと、給仕が食事を運んできた。レイトン先生が何気に魔法でスキャンする。
それを察したらしくサマリアさんが微かに苦笑いしながら言った。
「大丈夫ですよ。けど、これから先はおちおち買い食いもできませんから、今日はお腹いっぱい食べておいてください」
にっこりしながら不穏なこと言わないでください。でも、そういうことなんですね。
「食べながら聞いて欲しい」
アントーレがパンを千切りながら言った。
「私は生命を狙われているらしい」
それ、ご飯食べながら言うことじゃないから。リヴァロ先生がスープ吹きそうになって、むせてるじゃない。レイトン先生、背中撫であげてる。優しいですね。ごちそうさま。
「それで......なんだ」
アントーレが言葉を続けた。
「みんなを危険に晒すわけにはいかない。だから、みんなとはここで別れたい」
「「「えっ?」」」
俺もルートヴィヒもマグリットも固まった。レイトン先生やリヴァロ先生も驚いたみたいだけど、表情を崩さない、さすがは大人。
「私は当初の行程どおり、王都に向かう。転移魔法の使えるルートヴィヒと先生達は、転移して王都で待っていて欲しい」
まぁ、それは確かに無理の無い安全策だけど......。
「殿下の道中の護衛は、私の部下がします。心配はいりません」
サマリアさんが言った。
そしてアントーレが俺とマグリットを見た。
「ラフィとマグリットは、......逃げろ」
「えっ?」
俺は思わずスプーンを取り落としそうになった。
「命じたのが兄上だとは限らない。もしかしたら、ラフィも狙われている可能性もある」
でも......。俺はエメルさんを見た。
「敵の正体が知れないかぎり、危険は少ないほうがいい。マグリット、君ならラフィアンを守りきれるだろう?」
「命にかけても......」
マグリットが深く頷いた。
アントーレが俺に微笑みかける。
「ラフィ、私は君を愛してる。だからこそ危険な目に合わせるわけにはいかない」
そんな哀しい目で笑うなよ、ポンコツ。格好つけても、お前には似合わないよ。俺は決意した。
「イヤだ」
「えっ?」
アントーレがマグリットが、みんなが目を見張った。でも俺は向き合わなきゃいけないことから逃げるのは嫌いだ。
「ウィスタリア殿下の命令じゃなくても、ウチの兄上や他の誰かが絡んでいるのは確かだ。それを確かめないうちに逃げ出すことはできない」
俺は言葉を切って、みんなを見つめた。
「アントーレが狙われているのを知っていて僕だけ逃げるなんて卑怯なことはできない」
俺はまっすぐアントーレを見た。
「僕だって男だ」
するとリヴァロ先生がおもむろに口を開いた。
「それなら私達もお供します。防御魔法もできますし、解毒ポーションだって必要になるかもしれない」
レイトン先生が大きく頷いた。
「僕だってマグとラフィを置いて逃げるなんてできない」
ルートヴィヒが椅子から立ち上がって、叫んだ。
「ルー......」
「僕達、親友だろ?!」
俺は涙が出そうになった。
内気で引っ込み思案なルートヴィヒが、俺のために......。
だけど、危険だ。危険すぎる。
沈黙がみんなを覆った。
やがて、ひと通りみんなを見回して、エメルさんが口を開いた。
「みんなで、ウチに来るか?」
えっ?
夕方、アントーレがひょっこりと俺の部屋に顔を出した。
「うん、大丈夫。......それよりアントーレ、どうしたの?」
シーツの中に半分顔を隠して答える俺。
気まずい。
いや、別にアントーレのことが好きなわけじゃないけど、ああいうことしちゃった後だし、マグリットはさりげなく、枕元に座って俺の髪に触れてたりするし。
気づいたよね?
絶対、気づいてるよね?
案の定、アントーレは一瞬、微妙な表情をしたけど、すっといつも通りの、いやいつもより思い詰めた表情で俺達に言った。
「大事な話があるんだ。食堂に来てもらっていいかな。マグリットも.......みんなに聞いてもらいたいことがあるんだ」
俺は頷き、少しだけ身支度をする時間をもらった。腰はまだ少し痛いけど、歩けないほどじゃない。
「待たせてごめん」
俺達が支度を済ませて食堂に入ると、既にみんな集まっていた。
アントーレとエメルさん、ルートヴィヒにマグリットに俺。レイトン先生にリヴァロ先生、サマリアさん。ケヴィンは辺境に留まっているから当然だけどニコルもいない。
『ニコルには聞かせたくない』
ってサマリアさん。ということは、そういう話なんだ、と俺は身を硬くした。
マグリットがさりげなく俺の身体を支えて椅子に座らせてくれた。エメルさん、によによ笑うの止めて、そういうことだけど。
「まず、食事をしよう」
サマリアさんが手を叩くと、給仕が食事を運んできた。レイトン先生が何気に魔法でスキャンする。
それを察したらしくサマリアさんが微かに苦笑いしながら言った。
「大丈夫ですよ。けど、これから先はおちおち買い食いもできませんから、今日はお腹いっぱい食べておいてください」
にっこりしながら不穏なこと言わないでください。でも、そういうことなんですね。
「食べながら聞いて欲しい」
アントーレがパンを千切りながら言った。
「私は生命を狙われているらしい」
それ、ご飯食べながら言うことじゃないから。リヴァロ先生がスープ吹きそうになって、むせてるじゃない。レイトン先生、背中撫であげてる。優しいですね。ごちそうさま。
「それで......なんだ」
アントーレが言葉を続けた。
「みんなを危険に晒すわけにはいかない。だから、みんなとはここで別れたい」
「「「えっ?」」」
俺もルートヴィヒもマグリットも固まった。レイトン先生やリヴァロ先生も驚いたみたいだけど、表情を崩さない、さすがは大人。
「私は当初の行程どおり、王都に向かう。転移魔法の使えるルートヴィヒと先生達は、転移して王都で待っていて欲しい」
まぁ、それは確かに無理の無い安全策だけど......。
「殿下の道中の護衛は、私の部下がします。心配はいりません」
サマリアさんが言った。
そしてアントーレが俺とマグリットを見た。
「ラフィとマグリットは、......逃げろ」
「えっ?」
俺は思わずスプーンを取り落としそうになった。
「命じたのが兄上だとは限らない。もしかしたら、ラフィも狙われている可能性もある」
でも......。俺はエメルさんを見た。
「敵の正体が知れないかぎり、危険は少ないほうがいい。マグリット、君ならラフィアンを守りきれるだろう?」
「命にかけても......」
マグリットが深く頷いた。
アントーレが俺に微笑みかける。
「ラフィ、私は君を愛してる。だからこそ危険な目に合わせるわけにはいかない」
そんな哀しい目で笑うなよ、ポンコツ。格好つけても、お前には似合わないよ。俺は決意した。
「イヤだ」
「えっ?」
アントーレがマグリットが、みんなが目を見張った。でも俺は向き合わなきゃいけないことから逃げるのは嫌いだ。
「ウィスタリア殿下の命令じゃなくても、ウチの兄上や他の誰かが絡んでいるのは確かだ。それを確かめないうちに逃げ出すことはできない」
俺は言葉を切って、みんなを見つめた。
「アントーレが狙われているのを知っていて僕だけ逃げるなんて卑怯なことはできない」
俺はまっすぐアントーレを見た。
「僕だって男だ」
するとリヴァロ先生がおもむろに口を開いた。
「それなら私達もお供します。防御魔法もできますし、解毒ポーションだって必要になるかもしれない」
レイトン先生が大きく頷いた。
「僕だってマグとラフィを置いて逃げるなんてできない」
ルートヴィヒが椅子から立ち上がって、叫んだ。
「ルー......」
「僕達、親友だろ?!」
俺は涙が出そうになった。
内気で引っ込み思案なルートヴィヒが、俺のために......。
だけど、危険だ。危険すぎる。
沈黙がみんなを覆った。
やがて、ひと通りみんなを見回して、エメルさんが口を開いた。
「みんなで、ウチに来るか?」
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