泣き虫と暴れ馬の婚約

瑪瑙

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伯爵家のウィーネ

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心地よい春の日差しが屋敷にさしてきたころ、屋敷の所有者である伯爵様は娘の行動に頭を抱えていた。

「お嬢様!」

とメイドが慌てて娘を追いかけていく。いや、正式には男装をした娘なのであるが。

「いやよ。私は強くなって今度生まれてくる弟を守らなければいけないんですもの。」

そういって腰に木刀を下げて、娘であるウィーネは伯爵家を守っている護衛のいる門まで走り抜けた。
メイドのことなどさらりとかわして、窓から飛び降りていく娘の姿に伯爵は大きなため息をついた。
通常ならば、貴族の娘は母親が淑女教育を施すのだが、その母は今体を休める為に自然が豊かな別邸にいる。一人で伯爵家を回していく事で手いっぱいで、娘の事を後回しにしてしまっていたことを伯爵は今この時、とても後悔した。

「…そろそろ、婚約者でもあてがうか…」

ウィーネも今年で6歳になる。貴族の婚約としては少々早いが、無い事もない。
婚約者が出来たところで、彼女の目に余るような行動がすぐに改善されるとは思わないが、少しは穏やかになる事を祈って伯爵は出来るだけ破天荒な行動を好まなさそうな子を選び、婚約の旨を送るよう手配した。

***

そしてやってきた顔合わせの日。貴族なので、家のバランスや派閥、お金の問題などもろもろ合わせて、ヴィネストロ子爵家に婚約の手配をした。通常、男の方が格式が高くないといけないのだが、何せ娘をそんなところに送り出せない伯爵は子爵に相談を持ち掛け、晴れて二人の子供の顔合わせのお茶会が成立したのだった。

「お嬢様…今日は逃げ出さないんですね。」

いつもなら、表情に出さないメイドも朝ウィーネの姿を部屋の中で確認できた際には大きく目を見開いていた。

「失礼ね、私だって貴族の端くれです。婚約がどうやって成立し、結ばれるのか。貴族の女の使命とは何なのかを理解しているつもりです。」

ウィーネがそういうと、メイドは目を伏せながら、ウィーネの朝の支度を手伝った。

「そうですか。では、毎朝部屋から脱走し、木刀を振り回し、屋敷内を駆け回るのもきっと貴族の女の使命なのでしょうね。」

そういわれるとぐうの音も出ない。

話を変えようとウィーネはメイドに今日来る婚約者の事について聞いてみることにした。

「ねぇ、ハンナ。私の夫になる人はどのような方なのかしら。」

そう聞くと、ハンナは珍しく、気まずそうに眼を泳がせてから黙ってしまった。
そして、迷って末にこう答えた。

「とても心優しい事で有名な方ですよ。」


心優しいならきっと素敵な夫婦になれる!と目を輝かせているウィーネに、ハンナは少し罪悪感を覚えた。
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