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本編
手紙
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休日に家を出る習慣はなかったが、ここ数ヶ月は毎日玄関先を覗くようになっていた。
どうやらストーカーに休日という概念はないらしい。平日と変わらず、傘立てにはビニール袋が置かれていた。しかも休日は夕方ではなく決まって朝に袋が置かれる。ストーカーというのも大変だな。今日はグミとのど飴。休日になると栄養剤が入らなくなるのは健康に気をつかえというメッセージかもしれない。親にさえこんなに気は使わなかった。
いったいどんな人がビニール袋を置いていくんだろう。
「…聞いてみるか。」
そうと決まればメモ帳を一枚ちぎって文字を書き起こした。
「いつもお菓子と栄養剤をありがとうございます。失礼ですが私はアラサーサラリーマンです。どなたかとお間違えではないですか。」
これで返事がなかったりビニール袋が届かなくなったりしたら相手はストーカーの対象を間違えていたことになる。月曜日からはまたコンビニのお菓子コーナー通いになりそうだ。
手紙だけをビニール袋にいれたら風に飛ばされそうだしなんだか寂しい。休日には豪華にスムージーを作るのがルーティーンだったから、お菓子のお礼がてら、重しの役割として袋にいれた。
「おっ、無くなってる。」
日曜日の朝、傘立てには昨日の夜中に置いたビニール袋の代わりに違うビニール袋が置かれていた。中には返答の紙は入っていない。ストーカーは手紙は読んでないんだろうか。
今日のお菓子はグミとビスケット。最近グミをくれる頻度が高いので在庫を抱えている。
友人の一人や二人いれば譲れたものだが、残念ながら気軽に物をあげられるような親しい人は思い付かなかった。そもそも、人から貰ったものを許可なく人にあげるのはいけない行為なのかもしれない。
僕は中身のお菓子を取り出して、宅配用に用意しているボールペンとメモ用紙に文字を書く。
【スムージーどうでしたか。】
「そういえば、アレルギーとかあったら大変だな。どうか美味しく飲んでくれてますように。」
今度は重しもつけずに傘立てにおいた。
「…寝るか。」
休日はなにもしないに限る。
やっと職場という居場所を見つけたが、土日に僕の居場所は無いんだから。冷蔵庫で冷えているスムージーを一口飲み、シンクに置いたコップもそのままに寝室で布団にくるまった。
二日間の休日が終わるのは早い。
僕はスーツを着て玄関を出ていた。いつも通りに起きたはずだが、何故かいつも通りの電車に間に合うかギリギリの出発時間だ。とはいっても出社時間までは余裕があるので慌てることはないのだが、僕はいつも通りじゃないと落ち着かない性分だ。
鍵を閉めるのにもたついていると隣の部屋の扉が開き、僕の部屋よりも先にドアが閉まった。
「おはようございます。」
「おはようございます…。」
何度か挨拶を交わしたことのあるお隣さんは、僕と同じくスーツを着たサラリーマン。でも、僕と彼の決定的に違う点は、彼が高身長イケメンでスーツが似合う男であること。一方、僕は会社入社時と同じ、くたびれたスーツを着こなす冴えないサラリーマンである。
もしかしたらストーカーは彼をストーキングしているのかも。部屋は隣だし、可能性は十分ある。
「あの、部屋の前にビニール袋置かれていたりしませんか?」
「いえ、置かれていたことはありませんが…。」
そういって彼はふと僕の部屋の傘立てを見た。
「松野さんの傘立てにはよく置かれていますよね。」
部屋の位置的に、僕の部屋の方がエレベーターに近いから帰り道にでも見たんだろう。
「あのビニール袋、誰かからの贈り物なんですけど…もしかしたら僕ではなくてお隣さんへ渡したかったのかもしれません。気をつけてくださいね。」
「え?贈り物って…」
「実は…」
僕は自然とお隣さんと駅へ向かう。その道中でストーカーの話をしてみた。
「何かあってからでは遅いので、私でよければ頼ってください。」
そう言って渡された名刺には驚くことに同じビル内にある会社名と楠原稔という名前が印字されていた。会社へ向かう途中でコーヒーを買うというお隣さんと別れる。
頼ってくださいと言われたが、まだストーカー対象が僕だと決まった訳じゃない。それに、もし僕がストーキングされているとしても、自他共に認める内気な僕が人に頼れるとは思えなかった。
帰宅僕の目に真っ先に飛び込んできたのは白いビニール袋。なんでか駆け寄って玄関先で袋を開ける。いつものようにお菓子と栄養剤。それに見慣れない便箋が入っていた。
どうやら昨日は一度手紙の入ったビニール袋を持ち帰り、持ってきていたビニール袋と交換しただけのようだ。昨日は手紙の返事を書いていたんだろう。ストーカーはもしかしたらビニール袋をここへ置いたら追加で手紙を入れられないような少し遠くに住んでいるのかもしれない。
手紙は僕のような紙きれではなく、ちゃんとした便箋に入った立派な手紙だった。
「うわ…」
しかし、中を開けてみたら脅迫文のように新聞の文字が切り取られて文が作られている。僕が女の子なら悲鳴を上げそうだ。
とはいえ、マメなストーカーの文章は丁寧語だった。
【間違えていません。私は松野健さんが】
ここで文章は終わっている。何と続けようとしたのかは分からないが、少なくともストーカー対象は僕のようだ。
僕は何故かほっとして、手紙を読み返しながら家の中に入った。
どうやらストーカーに休日という概念はないらしい。平日と変わらず、傘立てにはビニール袋が置かれていた。しかも休日は夕方ではなく決まって朝に袋が置かれる。ストーカーというのも大変だな。今日はグミとのど飴。休日になると栄養剤が入らなくなるのは健康に気をつかえというメッセージかもしれない。親にさえこんなに気は使わなかった。
いったいどんな人がビニール袋を置いていくんだろう。
「…聞いてみるか。」
そうと決まればメモ帳を一枚ちぎって文字を書き起こした。
「いつもお菓子と栄養剤をありがとうございます。失礼ですが私はアラサーサラリーマンです。どなたかとお間違えではないですか。」
これで返事がなかったりビニール袋が届かなくなったりしたら相手はストーカーの対象を間違えていたことになる。月曜日からはまたコンビニのお菓子コーナー通いになりそうだ。
手紙だけをビニール袋にいれたら風に飛ばされそうだしなんだか寂しい。休日には豪華にスムージーを作るのがルーティーンだったから、お菓子のお礼がてら、重しの役割として袋にいれた。
「おっ、無くなってる。」
日曜日の朝、傘立てには昨日の夜中に置いたビニール袋の代わりに違うビニール袋が置かれていた。中には返答の紙は入っていない。ストーカーは手紙は読んでないんだろうか。
今日のお菓子はグミとビスケット。最近グミをくれる頻度が高いので在庫を抱えている。
友人の一人や二人いれば譲れたものだが、残念ながら気軽に物をあげられるような親しい人は思い付かなかった。そもそも、人から貰ったものを許可なく人にあげるのはいけない行為なのかもしれない。
僕は中身のお菓子を取り出して、宅配用に用意しているボールペンとメモ用紙に文字を書く。
【スムージーどうでしたか。】
「そういえば、アレルギーとかあったら大変だな。どうか美味しく飲んでくれてますように。」
今度は重しもつけずに傘立てにおいた。
「…寝るか。」
休日はなにもしないに限る。
やっと職場という居場所を見つけたが、土日に僕の居場所は無いんだから。冷蔵庫で冷えているスムージーを一口飲み、シンクに置いたコップもそのままに寝室で布団にくるまった。
二日間の休日が終わるのは早い。
僕はスーツを着て玄関を出ていた。いつも通りに起きたはずだが、何故かいつも通りの電車に間に合うかギリギリの出発時間だ。とはいっても出社時間までは余裕があるので慌てることはないのだが、僕はいつも通りじゃないと落ち着かない性分だ。
鍵を閉めるのにもたついていると隣の部屋の扉が開き、僕の部屋よりも先にドアが閉まった。
「おはようございます。」
「おはようございます…。」
何度か挨拶を交わしたことのあるお隣さんは、僕と同じくスーツを着たサラリーマン。でも、僕と彼の決定的に違う点は、彼が高身長イケメンでスーツが似合う男であること。一方、僕は会社入社時と同じ、くたびれたスーツを着こなす冴えないサラリーマンである。
もしかしたらストーカーは彼をストーキングしているのかも。部屋は隣だし、可能性は十分ある。
「あの、部屋の前にビニール袋置かれていたりしませんか?」
「いえ、置かれていたことはありませんが…。」
そういって彼はふと僕の部屋の傘立てを見た。
「松野さんの傘立てにはよく置かれていますよね。」
部屋の位置的に、僕の部屋の方がエレベーターに近いから帰り道にでも見たんだろう。
「あのビニール袋、誰かからの贈り物なんですけど…もしかしたら僕ではなくてお隣さんへ渡したかったのかもしれません。気をつけてくださいね。」
「え?贈り物って…」
「実は…」
僕は自然とお隣さんと駅へ向かう。その道中でストーカーの話をしてみた。
「何かあってからでは遅いので、私でよければ頼ってください。」
そう言って渡された名刺には驚くことに同じビル内にある会社名と楠原稔という名前が印字されていた。会社へ向かう途中でコーヒーを買うというお隣さんと別れる。
頼ってくださいと言われたが、まだストーカー対象が僕だと決まった訳じゃない。それに、もし僕がストーキングされているとしても、自他共に認める内気な僕が人に頼れるとは思えなかった。
帰宅僕の目に真っ先に飛び込んできたのは白いビニール袋。なんでか駆け寄って玄関先で袋を開ける。いつものようにお菓子と栄養剤。それに見慣れない便箋が入っていた。
どうやら昨日は一度手紙の入ったビニール袋を持ち帰り、持ってきていたビニール袋と交換しただけのようだ。昨日は手紙の返事を書いていたんだろう。ストーカーはもしかしたらビニール袋をここへ置いたら追加で手紙を入れられないような少し遠くに住んでいるのかもしれない。
手紙は僕のような紙きれではなく、ちゃんとした便箋に入った立派な手紙だった。
「うわ…」
しかし、中を開けてみたら脅迫文のように新聞の文字が切り取られて文が作られている。僕が女の子なら悲鳴を上げそうだ。
とはいえ、マメなストーカーの文章は丁寧語だった。
【間違えていません。私は松野健さんが】
ここで文章は終わっている。何と続けようとしたのかは分からないが、少なくともストーカー対象は僕のようだ。
僕は何故かほっとして、手紙を読み返しながら家の中に入った。
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