やおよろず生活安全所

森夜 渉

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一章

9/昼食

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「おーっ!」
並べられたご飯、味噌汁、きんぴら、酢の物を見て狐乃、悟狸、猿真、和兎が声を上げた。
「あったかい供物だ」
「お供物だね」
「供物じゃな」
「お供物ね」
狐乃、悟狸、猿真、和兎が食事、ではなく供物を前にして手を合わせる。
「いただきます」
居酒屋のまかない経験がこんな形で役立つなんて、と、蓮美も感慨深い。
今日来ていた児童教室の子供達にも先に振る舞っておいたが、とても喜んでくれていた。
「お味噌汁が熱いので皆さん、気を付け……」
言いかけたが各自食べだしている。
皆から遅れ、犬威がをいただきますを言って手を伸ばした。
自分は弁当持参だったので味噌汁だけを飲む。
「おいしいよ朝霧君。出汁もちゃんと取れていて味付けもいい、君は料理が上手いんだな」
味は口にあったらしい、感想を聞けたので安心する。
ただ、気になるのは命だけだった。
供物には手を付けず、ぼんやりと眺めている。
「どうしたんだ命、頂きなさい」
気づいた犬威がすすめた。
「いりません……」
「何を言っているんだ、食べなさい」
彼は怒っていた。
静かな物言いだが感情を抑えている、それぐらいは読み取れた。
蓮美は箸を止めて俯く。
自分が悪いのだ。
彼に怒鳴ったから。
きっと怒っているのだろう、だから食べたくないのだ。
「な、なら僕が食べちゃおうかなぁ」
悟狸がおどけた口調で並べた料理に目を向ける。
「いえ、私が」
「いや、俺が」
「食わんのなら貰おうかね」
悟狸の言葉は命の気を引く為の冗談と伝わっていたのだが、和兎、狐乃、猿真が残った食事を平らげていく。
「……」
彼は食べられる様を黙って見ていたが、机からボトルのドリンクを取りだし、一気に飲み干した。
犬威はため息をつき、悟狸は空になった自分の皿を寂しそうに眺めている。
初日のお供物の時間はこうしてあっけなく終わった。
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