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三章
27/変化の兆し
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昼。
この日のお供物はしいたけのお吸い物に菜の花のおひたし。
それと残った食材を生かして大量のちらし寿司を作った。
眷属の皆は生魚や生肉の直接接種はNGなので、野菜を多く使って色鮮やかに。
季節にもあいまって見た目もいい。
前回のセルフおにぎりが好評だったので、今回も大皿に盛ったちらし寿司をセルフ式にする。
具材で注目を浴びたのはサクラでんぶで、本物の桜を加工した物かと聞かれた。
桜ではないがそういう加工品で売っており、やや甘いので適度な量で散りばめておいたと話すと感心された。
ささいでもこちら側、人間の世界に興味を持ってもらえると嬉しく思える。
自分という存在と彼ら、互いの異文化を知り、理解を深め合うのはいい事ではないかと蓮美は考えているからだ。
踏み込みすぎずにお互いの世界を認め、良い点に目を向ける。
そんな風になれたらいいなと。
皆が取り皿に寿司をよそうと、ごっそり初回からなくなりかける。
それを一人の神が泣きながら見ていた。
「ふおぉおおおんっ!」
命だ。
変な泣き声だなと思った、彼女はブス呼ばわりされて怒っている。
涙と鼻水でグシャグシャな彼の顔の方がよっぽどブスだと思った。
泣いている彼を構わず無視する。
「命……」
犬威が憐れんで自分の皿を持って行こうとしたが和兎に止められた。
「ざまぁ」
狐乃が聞こえよがしに呟くと、命の泣き声が一際大きくなった。
「はずみざぁあああん、もうブスって言いまぜぇんがらぁあああ、僕にもちらし寿司食べざぜて下ざぁあああい、あざぎりざぁあああん、ねえぇ……」
「俺、お代わりしようかな」
狐乃がすました顔で言った。
「ゔおぉおおおんっ!」
変な泣き声だな。
蓮美はまた思った。
「華やかだし気にいったわ、また機会があれば作ってほしいな」
「本当だねぇ。色んな野菜が味わえるし、これ好きだなぁ」
「うまいねぇ」
和兎、悟狸、猿真から好評を得て蓮美はお気に入りメニューに加える事にした。
「はずみざぁあああん……」
命は机にへばりついて泣いている。
ちらし寿司はあと一人分しか残ってはいない、少しだけ可哀そうに思えてきた。
今夜バグが現れてお腹がすいて力が出ないのも考え物だ。
「命君、もう悪口言ったりしない?」
「言いまぜぇえええん……」
しょうがないなあと蓮美は言いながら、机の引き出しからこないだの国語ドリルを取り出した。
すんなり食べさせると泣き落としで上手くいくと勘違いしかねない。
こういうお勉強も大事だろう。
ドリルの問題を解いたら食べてもいいと許可をだした。
「やりますっ!」
奪うようにドリルを掴むとシャープペンを取り出してサラサラと書き出す。
「できましたっ!」
「じゃあいいよ」
「やった!」
命は残ったちらし寿司を大皿ごと持って机に戻った。
「信じらんねぇ、皿ごと独り占めしやがった」
狐乃が呆れる。
ちらし寿司を食べる命を見届け、蓮美は彼が取り掛かったドリルのページを開く。
始めの問題はこうあった。
今日は社会の中にあるいろいろな物に目をむけてかんがえてみよう。
わからなければせんせいやおともだちにきいてみてもいいよ。
さっそく解いてみよう。
しつもん 1
スーパーで買いものをするとおかねをはらって、もらえる袋があるよ。エコロジーといって、かんきょうを良くするための社会のとりくみなんだ。このおかねをはらってもらう袋はなんと言うかな?
優しい謎々のような問題だ。
簡単だろう。
蓮美は赤ペンを用意する。
見ると命の解答はこうだった。
「キャンタマ袋」
ああ。
うん。
違うね。
正解はレジ袋だよ。
イラッとしたが蓮美は赤ペンでレ点のチェックマークをつけた。
しつもん 2
おめでたい事があるとヒモをひっぱってお祝いする玉があるよ。けっこんしきやパーティなんかでも使われたりするんだ。これをなんの玉というかきみは知っているかな?
命の解答はこうだ。
「キャン玉」
違うねぇ。
君の玉にはヒモがついているのかな。
下ネタから離れようね。
正解はくす玉だよ。
蓮美は赤ペンで大きめのチェックマークをつける。
しつもん 3
二月十四日に女の子がすきな男の子に渡す、甘いおかしがあるね。男の子はみんなたのしみにしているよ。きみはもらったことがあるかな?
ヒントは〇〇コだよ。
命の解答。
「ティンコ」
その隣には殴り書きで、もらった事ねえから知らねぇ、と書いてあった。
アウトだね。
ふざけてるよね。
答える気ないよね、嘘を答えるにしても色々最低すぎるわ。
レジ袋とくす玉とチョコに謝れ。
蓮美はからかわれた事が頭にきて一際大きめのチェックマークをつけた。
ドリルを閉じて命を睨むと、ちらし寿司をうまそうに食べながら彼女を見ていた。
眺めていたのだ。
解答を見た、蓮美の反応を眺めていたのだ。
自分だけ飯抜きにしようとした相手へのささやかな復讐を終えて。
彼女の表情を確認して復讐に満足したらしい。
「ちらし寿司うめぇ」
ニチャアと笑う顔を見て蓮美は理解した。
どうやら、先日のアップグレードというのはシステムだけではなく、彼の内面、次の成長期も同時にもたらしたらしかった。
廚二病炸裂。
こじらせまくっているようだ。
今の彼は初対面から過ごしたかつての彼ではなく、成長期を迎えた黒歴史まっしぐらな中学生そのものだ。
そうか。
そういう事か。
今後は関わり方が少し違ってくるかもしれない。
覚悟せねばと心を引き締める。
ドリルは保管しておいていつか成長した彼に見せよう。
今よりも物事の分別がついた大人になった時に。
それがいつかはわからないけど、どんな顔をするのかな。
楽しみだよ命君。
ドリルをしまい、フフフと彼女は小さく笑った。
この日のお供物はしいたけのお吸い物に菜の花のおひたし。
それと残った食材を生かして大量のちらし寿司を作った。
眷属の皆は生魚や生肉の直接接種はNGなので、野菜を多く使って色鮮やかに。
季節にもあいまって見た目もいい。
前回のセルフおにぎりが好評だったので、今回も大皿に盛ったちらし寿司をセルフ式にする。
具材で注目を浴びたのはサクラでんぶで、本物の桜を加工した物かと聞かれた。
桜ではないがそういう加工品で売っており、やや甘いので適度な量で散りばめておいたと話すと感心された。
ささいでもこちら側、人間の世界に興味を持ってもらえると嬉しく思える。
自分という存在と彼ら、互いの異文化を知り、理解を深め合うのはいい事ではないかと蓮美は考えているからだ。
踏み込みすぎずにお互いの世界を認め、良い点に目を向ける。
そんな風になれたらいいなと。
皆が取り皿に寿司をよそうと、ごっそり初回からなくなりかける。
それを一人の神が泣きながら見ていた。
「ふおぉおおおんっ!」
命だ。
変な泣き声だなと思った、彼女はブス呼ばわりされて怒っている。
涙と鼻水でグシャグシャな彼の顔の方がよっぽどブスだと思った。
泣いている彼を構わず無視する。
「命……」
犬威が憐れんで自分の皿を持って行こうとしたが和兎に止められた。
「ざまぁ」
狐乃が聞こえよがしに呟くと、命の泣き声が一際大きくなった。
「はずみざぁあああん、もうブスって言いまぜぇんがらぁあああ、僕にもちらし寿司食べざぜて下ざぁあああい、あざぎりざぁあああん、ねえぇ……」
「俺、お代わりしようかな」
狐乃がすました顔で言った。
「ゔおぉおおおんっ!」
変な泣き声だな。
蓮美はまた思った。
「華やかだし気にいったわ、また機会があれば作ってほしいな」
「本当だねぇ。色んな野菜が味わえるし、これ好きだなぁ」
「うまいねぇ」
和兎、悟狸、猿真から好評を得て蓮美はお気に入りメニューに加える事にした。
「はずみざぁあああん……」
命は机にへばりついて泣いている。
ちらし寿司はあと一人分しか残ってはいない、少しだけ可哀そうに思えてきた。
今夜バグが現れてお腹がすいて力が出ないのも考え物だ。
「命君、もう悪口言ったりしない?」
「言いまぜぇえええん……」
しょうがないなあと蓮美は言いながら、机の引き出しからこないだの国語ドリルを取り出した。
すんなり食べさせると泣き落としで上手くいくと勘違いしかねない。
こういうお勉強も大事だろう。
ドリルの問題を解いたら食べてもいいと許可をだした。
「やりますっ!」
奪うようにドリルを掴むとシャープペンを取り出してサラサラと書き出す。
「できましたっ!」
「じゃあいいよ」
「やった!」
命は残ったちらし寿司を大皿ごと持って机に戻った。
「信じらんねぇ、皿ごと独り占めしやがった」
狐乃が呆れる。
ちらし寿司を食べる命を見届け、蓮美は彼が取り掛かったドリルのページを開く。
始めの問題はこうあった。
今日は社会の中にあるいろいろな物に目をむけてかんがえてみよう。
わからなければせんせいやおともだちにきいてみてもいいよ。
さっそく解いてみよう。
しつもん 1
スーパーで買いものをするとおかねをはらって、もらえる袋があるよ。エコロジーといって、かんきょうを良くするための社会のとりくみなんだ。このおかねをはらってもらう袋はなんと言うかな?
優しい謎々のような問題だ。
簡単だろう。
蓮美は赤ペンを用意する。
見ると命の解答はこうだった。
「キャンタマ袋」
ああ。
うん。
違うね。
正解はレジ袋だよ。
イラッとしたが蓮美は赤ペンでレ点のチェックマークをつけた。
しつもん 2
おめでたい事があるとヒモをひっぱってお祝いする玉があるよ。けっこんしきやパーティなんかでも使われたりするんだ。これをなんの玉というかきみは知っているかな?
命の解答はこうだ。
「キャン玉」
違うねぇ。
君の玉にはヒモがついているのかな。
下ネタから離れようね。
正解はくす玉だよ。
蓮美は赤ペンで大きめのチェックマークをつける。
しつもん 3
二月十四日に女の子がすきな男の子に渡す、甘いおかしがあるね。男の子はみんなたのしみにしているよ。きみはもらったことがあるかな?
ヒントは〇〇コだよ。
命の解答。
「ティンコ」
その隣には殴り書きで、もらった事ねえから知らねぇ、と書いてあった。
アウトだね。
ふざけてるよね。
答える気ないよね、嘘を答えるにしても色々最低すぎるわ。
レジ袋とくす玉とチョコに謝れ。
蓮美はからかわれた事が頭にきて一際大きめのチェックマークをつけた。
ドリルを閉じて命を睨むと、ちらし寿司をうまそうに食べながら彼女を見ていた。
眺めていたのだ。
解答を見た、蓮美の反応を眺めていたのだ。
自分だけ飯抜きにしようとした相手へのささやかな復讐を終えて。
彼女の表情を確認して復讐に満足したらしい。
「ちらし寿司うめぇ」
ニチャアと笑う顔を見て蓮美は理解した。
どうやら、先日のアップグレードというのはシステムだけではなく、彼の内面、次の成長期も同時にもたらしたらしかった。
廚二病炸裂。
こじらせまくっているようだ。
今の彼は初対面から過ごしたかつての彼ではなく、成長期を迎えた黒歴史まっしぐらな中学生そのものだ。
そうか。
そういう事か。
今後は関わり方が少し違ってくるかもしれない。
覚悟せねばと心を引き締める。
ドリルは保管しておいていつか成長した彼に見せよう。
今よりも物事の分別がついた大人になった時に。
それがいつかはわからないけど、どんな顔をするのかな。
楽しみだよ命君。
ドリルをしまい、フフフと彼女は小さく笑った。
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