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四章
33/新たなステージ
しおりを挟む(狐乃が手抜きだったので訂正しました。(汗))
なんだろう。
書類の端に一枚の木の葉が貼りついている。
留めてあるのは糊ではなくすり潰したご飯粒で、乾いて固くなっていた。
「これだけ他とは違うんですが……」
葉には泥の様な物がへばりついていて蓮美は書類を見えるよう掲げる。
「緊急かね」
猿真が書き物をしていた手を止め、職員の視線が注がれた。
「朝霧君、貸してくれ」
犬威が蓮美の所まで来て書類を手に取る。
張り付けてある木の葉を鼻先まで持っていき、臭いを嗅いだ。
「……どうかね犬威君」
悟狸が机から身を乗り出して尋ねた。
「……間違いない、血ですね」
ギョッとする。
黒くこびりついていたのが血とは思わずドキリとした。
「何て書いてあります?」
狐乃がパソコンを閉じて鋭い眼差しを向ける。
書類は文字らしき物は書いてあるが、人間の書く文体とは異なっていて内容まで理解できない。
恐らく彼ら共通の言語なのだろう。
犬威が文面を読み上げる。
『この度初の書簡を送らせて頂きます、私は飛騨の山奥に隠れ住んでいる狸の眷属で名を狸雲(りうん)と申します。人間の世界に荒ぶる神を鎮め申される御仁方がおられると聞き、降りかかった凶事をご相談したくこちらを差し上げました。現在我々の住む森では夜な夜なマガツカミが出現し、困り果てております。現れる場所はかつて人間が埋め立てた池だったのですが、元来その地は水の神の住処で祟りを買ってしまったのです。及ぼす怒りは七日七晩鎮まらず、人の住む集落でも山崩れが起こり被害は拡大していく有様。聞けば血判があればすぐに駆け付けて下さるとの事、どうか我らの森と仲間をなにとぞお救い下さい』
「以上だ」
犬威が締めくくり、書類を蓮美に返した。
「水だと犬威さんね」
和兎の言葉に犬威が頷く。
「いつ出発しますか?」
「三日後の早朝にしよう」
「では新幹線のチケットを手配しておきます」
命はパソコンのキーを素早く叩いた。
それだけ話すと皆が仕事に戻るので蓮美は拍子抜けする。
「今のはマガツカミ様の案件なんでしょうか……?」
「うん、蓮美君に我々が対処するマガツカミについては詳しく説明する機会がなかったねぇ、いやぁ、すまない」
悟狸は笑って謝るが蓮美は気が付いていた。
話すのを避けていたのだ。
狐乃は言っていた、マガツカミは生き物を食べ、正体は人間が捨てた神であったと。
人間である蓮美を思うからこそ悟狸は話さないでいてくれたのだ。
「いずれ話そうか」
「いずれ説明するね」
何度も誤魔化して。
その思いに応えるのなら、人である自分も気持ちと意思を表明するべきではないか。
狐達の店を訪れてから。
あれからずっと考えていた。
「お願いがあります。私をバグ以外の、皆さんのマガツカミ様の案件にも加えて欲しいんです」
「……なんだって?」
狐乃が血相を変え、他の職員も一斉に彼女を見た。
「蓮美ちゃん、俺達が相手をするマガツカミはバグと違ってシステムを支配するのとは違う。見境なしに襲ってくる生き物の様な存在なんだ、危険だからそんな事を言うのはやめてくれ」
「そうよ蓮美、できないわ」
和兎も同意した。
「見届けたいんです、私は人間ですが何があってそうなったのか。少しでもいいから知りたいんです」
「すまないね蓮美君、許可は出せない」
「人間にゃ危険だ、よしときな」
「……でも」
悟狸や猿真からも窘められ、ここに来て決意がぐらついてしまう。
「蓮美さんは戦えないザコキャラなのでベンチを温めていて下さい」
クッソ。
まさかの命に釘を刺されてかえって闘志に火が付いた。
「じゃ、じゃあ、お供物もう作りません……」
蓮美はしぶしぶ切り札を出す。
「なんだってっ!」
「なんですってっ!」
「待ってくれ蓮美君っ!」
「嬢ちゃん、そりゃご無体な……」
「ギニャーッ!」
狐乃、和兎、悟狸、猿真、命が慌てふためく。
出した切り札はレア級の最強カードらしかった。
「お願いです、足手まといになるなら足手まといにならないよう努力します」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
皆が沈黙し、下を向く。
ただし一人を除いては。
「危険だぞ」
犬威だった。
「犬威さんっ!」
和兎が語気を荒げる。
「彼女は生身の人間よ、死ぬかもしれないのに安易な約束を交わすのはやめてっ!」
死。
死という発言が飛び出るとは思わなかった。
怖気づくが、それでも自分だけ部外者ではいたくない。
「朝霧君は俺達を本気で理解し、本物の仲間でいたいからこんな事を言い出してくれたんだ。そうだろう?」
「はい」
「だけど……」
和兎は悟狸を伺う。
「ううむ……」
悟狸は唸りながら考え込み、猿真は困ったように頭を掻く中。
「……見るだけなら」
命だけが口を開く。
「戦いに参加しなくてもマガツカミを目にするだけならいいんじゃないですか。蓮美さんは僕の戦いで度胸はついていると思いますし」
「バカかっ!」
狐乃が怒鳴って机を叩いた。
「お前はバグしか相手にしてねぇから知らないだけだ、マガツカミは生きてるもんなら何でも喰うんだ、人間もだっ!」
ゾワリと鳥肌がたつ。
人間を。
食べル。
「知っています」
命は淡々と答えた。
「知っています……」
繰り返し答えて。
俯いた。
「蓮美君」
悟狸が椅子から立ち上がり彼女をまっすぐに見つめる。
「狐乃君が少し触れたが彼らは生き物を捕食する、人間もだ」
「……はい」
「我々の件は人間の君に参加をさせる事はできない。無論、君の希望でもだ。危険が伴うからね、今日の所は持ち帰って冷静になってから考えなおしてほしい」
結局。
参加に関しては未定のままとなり。
煮え切らない気持ちで帰宅し、ベッドに入っても蓮美は眠る事ができなかった。
時計が深夜を回っても。
意志は固いつもりだった。
なのにマガツカミが人間すら食べると知って、非力な自分に出る幕などないのではと悩んでいる。
しかしそれでいいのか。
理由をつけて安穏と所に居続けられるのだろうか。
彼らをマガツカミと対峙させているのは人間、自分は他ならぬ人間だ。
「マガツカミとあなたをつなげて考えはしないで」
和兎はああ言ってくれたが、つなげて考えないのであればつなげて考えない答えに至ればいいだけなのだ。
恐れず向き合う事だ、自身の目で確かめる事しかない。
「神なら人間だけじゃなく、俺達命ある者すべてを救ってみせろよっ!」
ナオが放ったあの言葉。
命は何も悪くない、ネットワーク社会の神であっても命一人が彼らの罪を背負うのも背負わせるのも道理が違うと思う。
せめて。
「少しだけ……」
背負えれば。
背負ってみよう。
この世界に生きる存在の一部として。
マガツカミが命を欲するのなら同じではないか。
自らも食べるのだ。
牛。
豚。
鶏。
魚。
野菜だって植物であり、そうなのだ。
あらゆる命を。
数多の命を犠牲にして生命を繋いで生きているのだ。
ならばその罪を。
命を喰らう穢れを受け入れ、自分を赦し、皆と共に歩んで行こう。
蓮美は胸の上で両手をそっと組んだ。
祈るように。
「咲枝さん」
彼女は鏡台に立ててある叔母の写真に呼びかけた。
「私を守って」
さらにオマケのイラスト
※この話しについて前回も書かせて頂いたのですが、これは現在の状況を全く考慮せずに書いたパラレルワールドの様な世界を想像して書かせて頂いています。(元のアイデアは大分前だったか……)
もしこの物語を読んで不快に感じられる箇所などありましたらお詫びさせて頂きます。
あまり深い考えや背景は全く考えず、それぞれのキャラが持つ世界観を元に書いているので、どのキャラの主張がどうとかは何もありません。
様々なキャラが混在して色々なシーンを描ければと、それだけの気持ちで書かせて頂いています。
色々なお気持ちがあるかと思いますが、読んで下さる皆様に心から感謝を。
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