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六章
45/変わる心、変わらない心
しおりを挟む「はい、命君」
蓮美は高山で購入したお土産を一人一人に配っていく。
栃(とち)の実せんべい。
飛騨高山では銘菓らしく、個装なのでその菓子を選んだ。
和兎が玉露を用意してくれたのでお茶請けにもちょうどいい。
三時には柿の実の羊羹も振る舞うつもりだ。
職員の気持ちになってみれば、初任務は浮かれる事ではない。
それでも、明るい締めくくりにできればと土産を選んで購入してきた。
「外勤の後はしんみりする事が多かったからなぁ。やっぱり人間と僕らでは考え方や気持ちの持ち方が違うねぇ」
悟狸は袋を開けるとせんべいの匂いをスンスンと嗅ぐ。
せんべい以外にも和兎には稽古着、猿真には天羽々矢(あめのはばや)の礼があるので兎柄のハンカチとマスコットのキーホルダーをセットで渡した。
「まあ、かわいい」
「さるぼぼっていう飛騨の人形です、さるぼぼは猿の赤ちゃんを指すそうです」
「ほお、可愛いなぁ。ありがたく付けさせてもらおうかね」
猿真は車のキーを取り出すとさっそく取り付ける。
「嬉しい、ありがとう蓮美」
和兎もはしゃいでハンカチを広げてみせた。
「和兎さんの徹夜に比べれば大した事はないです」
「何かあったのかい?」
悟狸が尋ねたので犬威が稽古着を持ってきてくれたと話す。
「なら和兎君も十分健気だよ」
「いえいえ、大事な後輩の初陣(ういじん)ですから当然ですわ」
彼女の鼻の周りは地肌が見えて赤くなっていた。
織り込んでくれた毛とはそこらしいが、痛々しさもどこ吹く風。
負けん気強く、鼻をフンと鳴らす。
「いかん、報告しそびれていた。今回マガツカミを鎮めたのは俺じゃない、朝霧君なんだ」
「ええぇっ!」
「どういう事っ!」
犬威の発言に全員が食べていたせんべいの手を止めた。
マガツカミを弓で討ったいきさつを詳しく語ると職員は呆気にとられる。
「私は怖がりなんですけど、性格が変わったみたいでした」
「勇ましかったぞ」
「ええぇ……」
犬威に誉められ蓮美は顔を赤くした。
正直あの時の事はあまり覚えていない。
伊助を助けようとしたら体が動き、ああなっていた。
「すごいわっ、女武者みたいっ!」
「ええぇ……」
「馬よ、馬も用意しようかしらっ!」
「ええぇ……」
和兎が褒めちぎるので蓮美は茹でダコみたいになっていく。
「待ってください、何を関心してるんですか」
狐乃だけが和兎を慌てて制した。
「和兎さんは蓮美ちゃんが戦うのを反対してたじゃないですか、喜んでどうするんです」
彼女を危険な目に合わせたくないのが初めから彼の本音だ。
「確かにそうだが。犬威君、間違いないのかね?」
悟狸が興味深げに犬威に尋ねる。
「ええ、現に朝霧君には待機の指示を出していました。彼女自身の判断と行動です」
「はい、所で約束した通りです」
「となると、蓮美君を今後も戦力として同伴させるか悩むねぇ……」
「……」
悩む悟狸の傍ら、猿真だけが何も言わずに沈黙していた。
何事か腑に落ちない表情で。
「許可が下りれば構いません」
即答で答えると命だけはえっと小さくこぼした。
今回の同行は賛成したが彼女が職員と出かけるのは嫌だからだ。
不在もできればしてほしくない。
「いや、待ってよ蓮美ちゃんっ!」
狐乃が机から立ち上がり、待って待ってと話題を止める。
「危ないって、それより俺の店に同伴してよっ!」
「あ、大丈夫です」
「じゃあ外勤ならOKしてくれるの……」
「考えておきます」
「なんだか蓮美君が逞しくなったみたいだね」
「ハハハ」
「蓮美の方が狐乃君より強くなったかも?」
誘いをかわして笑い声が上がる。
でも。
命だけは笑わない。
口をへの字に曲げて黙り込んでいる。
そしてこう思う。
蓮美さんが狐乃さんと行くのだけは嫌だ。
みんなは笑うけど。
僕は面白くはない。
面白くなんかない。
「ふん、僕も闇属性の蓮美さんが見たかったなっ」
笑う皆の中、聞こえよがしに命はぼやく。
「命君は地方に行きたいって言ってたものね、同行できないからって拗ねてはダメよ」
「お前は都市から動けない、我慢するんだ」
和兎と犬威が子供相手のように諭すが。
「……わかっています」
僕はここから動けない。
社会のシステムを護っているから。
だけど。
できれば蓮美さんは。
僕だけの友達でいてほしい。
僕の知らないどこかへ行って。
知らない誰かと仲良くなってほしくない。
「闇属性って言い方はひどいな命君」
蓮美はやや怒った口調で言い返す。
「そんなに闇属性の私が見たいなら……」
席から立つと、棚にしまった天羽々矢(あめのはばや)をケースから取り出した。
「弓の力を見せてあげる、そこを動かないでね」
「冗談ですっ!」
命も立ち上がって壁側へとジリジリ逃げる。
「神様だとどんな力を発揮するのかな」
「冗談ですってば!」
廊下へ逃げたので蓮美も後を追いかけた。
「死亡フラグの伝言ありがとうっ、お返しに今日はお昼抜きだからっ!」
「嫌ですっ!」
二人はバタバタと廊下で追いかけっこをする。
無限の回廊をグルグルと。
「ふざけるにしてもいい時と悪い時があるよっ!」
追いかけながら蓮美は本気で怒っていた。
本当は。
行く事がとても怖かったから。
でも。
嬉しい。
嬉しい、という感情が。
命の心には沸き起こる。
「……ハハ」
彼女が無事だったから。
彼女が所に帰ってきてくれたから。
蓮美に追われながら。
誰にも見られないまま。
声に出しながら。
命は小さく笑っていた。
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