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六章
46/戦いを終えて
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「マガツカミが人間の姿をしていたと……」
「止めようとして、声を掛けたら姿が変わって」
追いかけっこを終わらせ、職員室では初外勤による蓮美の聞き取りをしていた。
「犬威さんから色々な姿で現れると教えられてはいたんですが……」
悟狸と蓮美が話す中、命がポリポリと栃の実せんべいをかじっている。
「あんなのは初めてだ、人に化けて現れるとは考えもしなかった。おびき寄せる囮(おとり)のつもりだったのかわからんが」
犬威も交えて感想を述べた。
「マガツカミは過去を忘れられずにいる事があるからね、何かの執着か想いが形となったのか……」
蓮美がマガツカミの記憶で見たのは古い時代の人々だ。
現れたのはつなぎ姿の男性、現代を生きている人の姿だった。
恐らくだがあれは池を埋め立てたという業者の人間、もしくは狸雲が話した土地調査に来た人間を模した者ではないか。
理由はわからないが何かを訴えたい気持ちでもあったのかもしれない。
「あと、見た事のない物が沢山ありました……」
幽界(かくりょ)での珍しい体験や狸雲の手料理についても話す。
聞けば眷属は身の周りを人の手で管理される事が最も良いらしい。
以前に和兎から説明を受けたが、彼らは祀られる立場なので自ら行えば霊格というものが穢れてしまうのだと。
霊格が下がると力も弱まる。
ただし狸雲のように眷属を名乗っても、強さを放棄したのなら炊事や掃除をしても問題はない。
引き換えに戦える程の霊威は失う。
職員のようにマガツカミと戦う力は失うのだと。
「僕らには霊格を示す一位、二位、三位という位があってね、狸雲君だと四位か五位になるんだろう、でも本来は彼みたいに自然の霊性でいる事が普通なんだよ。僕らが特殊なだけだね」
悟狸がこの下りを紙に書いて蓮美に渡した。
一位は猿真。
二位は悟狸、犬威。
三位は狐乃と和兎。
位は人でいう肩書きなのだが、立場や権威を現わす意味ではないそうだ。
年を増せば霊威は増すだけで、月日を経た樹木を想像してほしいと言われた。
「狸雲さんもですが、皆さんは動物の名前が付くんですね」
「うん、化ける動物一族と僕ら眷属との違いをつける証だね」
「証ですか?」
「我々は唯の動物として始めは生まれてくるんだ、やがて他の仲間と違う事に気が付いて意識や認識が芽生えだす」
「小難しくてごめんなさいね」
和兎が謝るので理解できていると伝える。
「例えば人は生まれ、知識をつけて人間であると自覚するよね。僕らも動物として生活している内に知識が宿るんだ。動物だと認識し、仲間と何かが違うのだと理解しだす。そこから変化を遂げ、肉や魚を食す変化の動物と本能を捨てた眷属の道に分かれるんだ。ただ、最近は眷属の道に進む動物も減っているからねぇ」
「どうしてですか?」
「神々が減少している問題と霊性に目覚めない動物が今は多い事かな?」
「大体は環境の影響ですよね」
「まあ、そうとも言えるねぇ……」
狐乃が言い切ると悟狸は話しを続けようとはしなかった。
ここで命がバリバリとせんべいを嚙み砕く。
悟狸は人間である蓮美に気を使い、マガツカミの所以(ゆえん)を濁し、同行する許可を下さなかった。
それでも彼女は成長している。
話しにくくあるなら、話してもらえるように信頼を深めていきたいと願っていた。
「修行して一人前になったら獣の族名を入れて名乗るんだ」
狐乃が解説するとまた命がバリバリ音をたてる。
「名前ならわかりやすいですね」
彼の経営するホストクラブに連れていかれた時を思い出した。
『りきゅう様からお電話だそうです、京都から起こしでお会いしたいと……』
彼のマネージャー、洲汪が囁いた名前を。
きゅう、という名が彼らで狐を指すなら、りきゅうという人物も眷属なのだろうか。
だが、狐乃はあの時怒りの表情を浮かべていた。
眷属だとしたら身内で不仲の関係があるのかもしれない。
「他にも知りたければ個人レッスンでおs」
バリッ、バリッ、ボリッ。
「うるせぇよっ!」
命がせんべいを口いっぱいに頬張る。
狐乃がしゃべる度にせんべいをバリボリ言わせた。
邪魔するように、というより邪魔している。
「名前で思い出したけれど、命君の名前で奥さんの葵さんと揉めた事があったって話してたわね、犬威さん。夫婦ゲンカに発展したとか」
和兎が玉露をすすりながら命を見つめた。
「そんな事もあったな。朝霧君、命は訳あって幼少時は俺が育てていてな。最初に付けようとした名を葵に反対されて命と決まったんだ」
命の生い立ちについては知っている。
プライバシーもあるので触れずに頷いた。
「ふさわしいと思った名なのに、あいつときたら古臭いと言い出してな」
温厚な彼が夫婦げんかとは珍しい。
「どんな名前だったんですか?」
「文字郎(もんじろう)だ」
「っ!」
蓮美は口元を抑えた。
いけない。
吹きそうだ。
肩を震わせてプルプルした。
「命は文字の覚えが良かったからふさわしいと思ったんだ」
犬威は不服そうに眉間にシワを寄せる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「文字郎(もんじろう)、ね……」
誰もコメントしないので和兎がズズッと茶をすする。
「日向文字郎(ひむかいもんじろう)……」
「っ!」
蓮美をチラッと見て命がその名を口にした。
イスから立ち上がると、彼女の所まで来て顔をズイッと近づける。
「ぼぉお~く、もんじろ~ぉお」
「んぶfっ!」
吹いてしまった。
我慢できなかった。
どうやっても。
どうこらえても。
こればかりは我慢する事ができなかった。
「止めようとして、声を掛けたら姿が変わって」
追いかけっこを終わらせ、職員室では初外勤による蓮美の聞き取りをしていた。
「犬威さんから色々な姿で現れると教えられてはいたんですが……」
悟狸と蓮美が話す中、命がポリポリと栃の実せんべいをかじっている。
「あんなのは初めてだ、人に化けて現れるとは考えもしなかった。おびき寄せる囮(おとり)のつもりだったのかわからんが」
犬威も交えて感想を述べた。
「マガツカミは過去を忘れられずにいる事があるからね、何かの執着か想いが形となったのか……」
蓮美がマガツカミの記憶で見たのは古い時代の人々だ。
現れたのはつなぎ姿の男性、現代を生きている人の姿だった。
恐らくだがあれは池を埋め立てたという業者の人間、もしくは狸雲が話した土地調査に来た人間を模した者ではないか。
理由はわからないが何かを訴えたい気持ちでもあったのかもしれない。
「あと、見た事のない物が沢山ありました……」
幽界(かくりょ)での珍しい体験や狸雲の手料理についても話す。
聞けば眷属は身の周りを人の手で管理される事が最も良いらしい。
以前に和兎から説明を受けたが、彼らは祀られる立場なので自ら行えば霊格というものが穢れてしまうのだと。
霊格が下がると力も弱まる。
ただし狸雲のように眷属を名乗っても、強さを放棄したのなら炊事や掃除をしても問題はない。
引き換えに戦える程の霊威は失う。
職員のようにマガツカミと戦う力は失うのだと。
「僕らには霊格を示す一位、二位、三位という位があってね、狸雲君だと四位か五位になるんだろう、でも本来は彼みたいに自然の霊性でいる事が普通なんだよ。僕らが特殊なだけだね」
悟狸がこの下りを紙に書いて蓮美に渡した。
一位は猿真。
二位は悟狸、犬威。
三位は狐乃と和兎。
位は人でいう肩書きなのだが、立場や権威を現わす意味ではないそうだ。
年を増せば霊威は増すだけで、月日を経た樹木を想像してほしいと言われた。
「狸雲さんもですが、皆さんは動物の名前が付くんですね」
「うん、化ける動物一族と僕ら眷属との違いをつける証だね」
「証ですか?」
「我々は唯の動物として始めは生まれてくるんだ、やがて他の仲間と違う事に気が付いて意識や認識が芽生えだす」
「小難しくてごめんなさいね」
和兎が謝るので理解できていると伝える。
「例えば人は生まれ、知識をつけて人間であると自覚するよね。僕らも動物として生活している内に知識が宿るんだ。動物だと認識し、仲間と何かが違うのだと理解しだす。そこから変化を遂げ、肉や魚を食す変化の動物と本能を捨てた眷属の道に分かれるんだ。ただ、最近は眷属の道に進む動物も減っているからねぇ」
「どうしてですか?」
「神々が減少している問題と霊性に目覚めない動物が今は多い事かな?」
「大体は環境の影響ですよね」
「まあ、そうとも言えるねぇ……」
狐乃が言い切ると悟狸は話しを続けようとはしなかった。
ここで命がバリバリとせんべいを嚙み砕く。
悟狸は人間である蓮美に気を使い、マガツカミの所以(ゆえん)を濁し、同行する許可を下さなかった。
それでも彼女は成長している。
話しにくくあるなら、話してもらえるように信頼を深めていきたいと願っていた。
「修行して一人前になったら獣の族名を入れて名乗るんだ」
狐乃が解説するとまた命がバリバリ音をたてる。
「名前ならわかりやすいですね」
彼の経営するホストクラブに連れていかれた時を思い出した。
『りきゅう様からお電話だそうです、京都から起こしでお会いしたいと……』
彼のマネージャー、洲汪が囁いた名前を。
きゅう、という名が彼らで狐を指すなら、りきゅうという人物も眷属なのだろうか。
だが、狐乃はあの時怒りの表情を浮かべていた。
眷属だとしたら身内で不仲の関係があるのかもしれない。
「他にも知りたければ個人レッスンでおs」
バリッ、バリッ、ボリッ。
「うるせぇよっ!」
命がせんべいを口いっぱいに頬張る。
狐乃がしゃべる度にせんべいをバリボリ言わせた。
邪魔するように、というより邪魔している。
「名前で思い出したけれど、命君の名前で奥さんの葵さんと揉めた事があったって話してたわね、犬威さん。夫婦ゲンカに発展したとか」
和兎が玉露をすすりながら命を見つめた。
「そんな事もあったな。朝霧君、命は訳あって幼少時は俺が育てていてな。最初に付けようとした名を葵に反対されて命と決まったんだ」
命の生い立ちについては知っている。
プライバシーもあるので触れずに頷いた。
「ふさわしいと思った名なのに、あいつときたら古臭いと言い出してな」
温厚な彼が夫婦げんかとは珍しい。
「どんな名前だったんですか?」
「文字郎(もんじろう)だ」
「っ!」
蓮美は口元を抑えた。
いけない。
吹きそうだ。
肩を震わせてプルプルした。
「命は文字の覚えが良かったからふさわしいと思ったんだ」
犬威は不服そうに眉間にシワを寄せる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「文字郎(もんじろう)、ね……」
誰もコメントしないので和兎がズズッと茶をすする。
「日向文字郎(ひむかいもんじろう)……」
「っ!」
蓮美をチラッと見て命がその名を口にした。
イスから立ち上がると、彼女の所まで来て顔をズイッと近づける。
「ぼぉお~く、もんじろ~ぉお」
「んぶfっ!」
吹いてしまった。
我慢できなかった。
どうやっても。
どうこらえても。
こればかりは我慢する事ができなかった。
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