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六章
48/怪猫爆誕(かいびょうばくたん)
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職員の机に写真が配布されていく。
手に取ると被写体にはどれも捨てられた生活用品、不要となった品が写っていた。
写真を配ったのは蓮美である。
外勤で帰り間際にスマホで記録した、廃棄されていたゴミの山だ。
「こういう現場は今までにもあったんでしょうか?」
「あったが、なぜこれをわざわざ……?」
悟狸は怪訝そうに写真を眺めた。
「マガツカミ様を生み出す理由の一つが環境なら、関連先に働きかけて対処できないかと思ったんです。未然に被害を防ぐ事が人間でもできるんじゃないかって」
「あの時は池の跡地を撮るために……」
犬威が任務終了後の彼女の行動を思い出す。
「……難しいかな」
狐乃がポツリとこぼした。
「結局、こういうのって管理する側だけじゃなく干渉する方にも問題があるんだ。土地の開発や過疎化、他の要因が絡んでマガツカミが誕生したりもするし……」
「……原因が複雑だという事ですか」
改善を期待していたせいもあり、力になれずに肩を落とす。
「そうですか……」
「いやっ、ゴメン、傷つけるつもりは……」
「……大丈夫です」
一般人がどうにかできる程、簡単に解決できないと予想はしていたが。
にわか者の自分ではこの程度かと悔しくなる。
「あっ、でもっ、人間側と交渉に出てくれるのは助かるよ。俺らは……」
「まぁ~ぐろぉお~」
狐乃が話すタイミングで命が妙なあくびをした。
イスに座りながら大きな口を開けて、手を前に出し伸びをする。
猫みたいに。
「……」
蓮美は今日、大事な提案を持ち出していた。
所と関わりのある人間側と交渉役に申し出る案だ。
しかし向こうはマガツカミ案件での相談書類の受け入れ、その書類をこちらに回す手続き、都内に出没したバグの報告、スピーカーからかかる放送。
それ以外は受け持っていないと聞かされる。
又聞きだけだと人間側が接触を避けているようにも聞こえた。
中間役は命で、犬威からメールでやり取りしかしていないと知らされ、尚更買って出たいと考えていたのに。
「まぁ~ぐろぉお~」
また変なあくびをする。
文明の一端を担う以上、命にも避けられない議題である。
が、今は猫になりきっていた。
絶対にマグロと言っている気がするし、会議どころか変な空気になっている。
「命、正気に戻らないか」
「にゃう~ん」
犬威の心配をよそにペロペロと手の甲を舐めていた。
「マタタビって嗅いだだけでも酔うのかしら?」
「まさか、猫ならまだしも、こんな症状をここまで出す訳がない」
和兎の疑問に犬威がないないと弁明する。
買い物の途中で見つけた猫にこだわっていたと蓮美が話すと。
「暗示の一種じゃねえかい?」
猿真の発言で彼女はあっ、と声が出た。
「猫を見てから自分はかわいいかって何度も聞かれました」
「じゃあ、そうかもなぁ。命は子供みたいな所があるし、一時的な幼児帰りみたいなもんか」
「マタタビ嗅いで猫になる、ですか?」
狐乃がよくわかんねぇなとチベットスナギツネの眼差しになる。
「目が覚めるまで連れ出した方がいいでしょうか」
「そうだねぇ、お願いしてもいいかい?」
放っておくよりいいだろうねと悟狸も賛成した。
「すまない、俺がマタタビを持ち込んだから……」
「関係ないわ、命君が特異体質なだけよ」
涙目の犬威を和兎が励まし、会議の続きは後日となった。
「命君、散歩に行ってみる?」
「うなあぁ~ん」
「こいつ、本当は正気なんじゃないですか?」
狐乃は怪しんだが彼の場合はグレーな感じも確かにした。
「ついてきて」
「にゃあぁ~ん」
校庭から通りに出たが命は言われるまま大人しくしている。
逃げ出す様子もない。
「所の周りを散歩しよう」
「ぶにゃあ~ん」
やっぱりグレーな気がしつつも、スーパーとは逆の道を進む事にしてみた。
「こっちは知らないな……」
異世界周辺について知っているのはスーパーや駅前までだ。
所のある敷地は結界で部外者が入れないと学んだが、詳しい事は聞かされていない。
せっかくなので散歩がてら散策してみようと思った。
「行きたい方へ行っていいけど、走りだしたりしないでね」
「うなあぁ~ん」
東京といえば都会的なイメージをしがちだが、郊外には野山も広がっている。
都心から離れれば自然があり野生の動物もいたりするのだ。
やおよろず生活安全所は東京でも外れで、時代から取り残されている箇所もある。
「……誰も住んでない」
古びた家屋に壊れたおもちゃが捨てられていた。
ノスタルジックというのか、風景にどこか懐かしさを覚える。
「どうしたの?」
舗装されていない砂利道に進み、角まで行くと命が鼻をスンスンさせた。
「にゃあ~ん」
立ち止まって動かず、覗き込んだ草むらに大きな物体が。
「なんだっけ。これってお地蔵さんじゃなくてどうそじん、だっけ……?」
道祖神とは旅の安全や疫病封じなどを祈願した、神を模した石である。
自然石に姿を彫るなど由来も形も様々だが、そこにあったのは風化していて原型が最早わからない。
凹凸からして通りを向いているのだけはわかった。
「もしかしたら……」
そこが結界の入り口なのではないだろうか。
道祖神の先には住宅もまばらに見えている。
「にゃあ……」
命が別方向へと歩き出した。
導かれる様について行くと隠れて道祖神が。
また道を進む。
また道祖神。
グルッと歩くといつもの道に出たが、普段は通り過ぎる林が気になり。
「ここにも……」
気がつかなかったが計四つ、東西南北の四方、所を囲むようにそれぞれ置かれていた。
「置く場所に意味があるのかな」
道祖神が部外者を立ち入れない仕組みで、侵入者を判別する装置のような物ではないだろうか。
「これを教える為に案内してくれたの?」
「まぁ~ぐろぉお~」
わかっているのか、わかっていないのか。
彼はテクノロジーに及ばず、秘めたる力がまだまだあるのかもしれない。
「命君の神様ぽい所、始めて見たよ」
「うなあぁ~ん」
「うーん?」
猫語で返されても困ってしまう。
「命君が早く元に戻りますように……」
祈りがあっているのかどうかはわからないが。
困ったときの神頼み。
道祖神に手を合わせ、蓮美はお願いをしてみた。
手に取ると被写体にはどれも捨てられた生活用品、不要となった品が写っていた。
写真を配ったのは蓮美である。
外勤で帰り間際にスマホで記録した、廃棄されていたゴミの山だ。
「こういう現場は今までにもあったんでしょうか?」
「あったが、なぜこれをわざわざ……?」
悟狸は怪訝そうに写真を眺めた。
「マガツカミ様を生み出す理由の一つが環境なら、関連先に働きかけて対処できないかと思ったんです。未然に被害を防ぐ事が人間でもできるんじゃないかって」
「あの時は池の跡地を撮るために……」
犬威が任務終了後の彼女の行動を思い出す。
「……難しいかな」
狐乃がポツリとこぼした。
「結局、こういうのって管理する側だけじゃなく干渉する方にも問題があるんだ。土地の開発や過疎化、他の要因が絡んでマガツカミが誕生したりもするし……」
「……原因が複雑だという事ですか」
改善を期待していたせいもあり、力になれずに肩を落とす。
「そうですか……」
「いやっ、ゴメン、傷つけるつもりは……」
「……大丈夫です」
一般人がどうにかできる程、簡単に解決できないと予想はしていたが。
にわか者の自分ではこの程度かと悔しくなる。
「あっ、でもっ、人間側と交渉に出てくれるのは助かるよ。俺らは……」
「まぁ~ぐろぉお~」
狐乃が話すタイミングで命が妙なあくびをした。
イスに座りながら大きな口を開けて、手を前に出し伸びをする。
猫みたいに。
「……」
蓮美は今日、大事な提案を持ち出していた。
所と関わりのある人間側と交渉役に申し出る案だ。
しかし向こうはマガツカミ案件での相談書類の受け入れ、その書類をこちらに回す手続き、都内に出没したバグの報告、スピーカーからかかる放送。
それ以外は受け持っていないと聞かされる。
又聞きだけだと人間側が接触を避けているようにも聞こえた。
中間役は命で、犬威からメールでやり取りしかしていないと知らされ、尚更買って出たいと考えていたのに。
「まぁ~ぐろぉお~」
また変なあくびをする。
文明の一端を担う以上、命にも避けられない議題である。
が、今は猫になりきっていた。
絶対にマグロと言っている気がするし、会議どころか変な空気になっている。
「命、正気に戻らないか」
「にゃう~ん」
犬威の心配をよそにペロペロと手の甲を舐めていた。
「マタタビって嗅いだだけでも酔うのかしら?」
「まさか、猫ならまだしも、こんな症状をここまで出す訳がない」
和兎の疑問に犬威がないないと弁明する。
買い物の途中で見つけた猫にこだわっていたと蓮美が話すと。
「暗示の一種じゃねえかい?」
猿真の発言で彼女はあっ、と声が出た。
「猫を見てから自分はかわいいかって何度も聞かれました」
「じゃあ、そうかもなぁ。命は子供みたいな所があるし、一時的な幼児帰りみたいなもんか」
「マタタビ嗅いで猫になる、ですか?」
狐乃がよくわかんねぇなとチベットスナギツネの眼差しになる。
「目が覚めるまで連れ出した方がいいでしょうか」
「そうだねぇ、お願いしてもいいかい?」
放っておくよりいいだろうねと悟狸も賛成した。
「すまない、俺がマタタビを持ち込んだから……」
「関係ないわ、命君が特異体質なだけよ」
涙目の犬威を和兎が励まし、会議の続きは後日となった。
「命君、散歩に行ってみる?」
「うなあぁ~ん」
「こいつ、本当は正気なんじゃないですか?」
狐乃は怪しんだが彼の場合はグレーな感じも確かにした。
「ついてきて」
「にゃあぁ~ん」
校庭から通りに出たが命は言われるまま大人しくしている。
逃げ出す様子もない。
「所の周りを散歩しよう」
「ぶにゃあ~ん」
やっぱりグレーな気がしつつも、スーパーとは逆の道を進む事にしてみた。
「こっちは知らないな……」
異世界周辺について知っているのはスーパーや駅前までだ。
所のある敷地は結界で部外者が入れないと学んだが、詳しい事は聞かされていない。
せっかくなので散歩がてら散策してみようと思った。
「行きたい方へ行っていいけど、走りだしたりしないでね」
「うなあぁ~ん」
東京といえば都会的なイメージをしがちだが、郊外には野山も広がっている。
都心から離れれば自然があり野生の動物もいたりするのだ。
やおよろず生活安全所は東京でも外れで、時代から取り残されている箇所もある。
「……誰も住んでない」
古びた家屋に壊れたおもちゃが捨てられていた。
ノスタルジックというのか、風景にどこか懐かしさを覚える。
「どうしたの?」
舗装されていない砂利道に進み、角まで行くと命が鼻をスンスンさせた。
「にゃあ~ん」
立ち止まって動かず、覗き込んだ草むらに大きな物体が。
「なんだっけ。これってお地蔵さんじゃなくてどうそじん、だっけ……?」
道祖神とは旅の安全や疫病封じなどを祈願した、神を模した石である。
自然石に姿を彫るなど由来も形も様々だが、そこにあったのは風化していて原型が最早わからない。
凹凸からして通りを向いているのだけはわかった。
「もしかしたら……」
そこが結界の入り口なのではないだろうか。
道祖神の先には住宅もまばらに見えている。
「にゃあ……」
命が別方向へと歩き出した。
導かれる様について行くと隠れて道祖神が。
また道を進む。
また道祖神。
グルッと歩くといつもの道に出たが、普段は通り過ぎる林が気になり。
「ここにも……」
気がつかなかったが計四つ、東西南北の四方、所を囲むようにそれぞれ置かれていた。
「置く場所に意味があるのかな」
道祖神が部外者を立ち入れない仕組みで、侵入者を判別する装置のような物ではないだろうか。
「これを教える為に案内してくれたの?」
「まぁ~ぐろぉお~」
わかっているのか、わかっていないのか。
彼はテクノロジーに及ばず、秘めたる力がまだまだあるのかもしれない。
「命君の神様ぽい所、始めて見たよ」
「うなあぁ~ん」
「うーん?」
猫語で返されても困ってしまう。
「命君が早く元に戻りますように……」
祈りがあっているのかどうかはわからないが。
困ったときの神頼み。
道祖神に手を合わせ、蓮美はお願いをしてみた。
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