やおよろず生活安全所

森夜 渉

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六章

49/(=^・・^=)

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「どうかしたのか?」
蓮美と命が外出の間、狐乃は渡された写真を食い入るように見つめていた。
「あ、いや……」
彼が考え込むのは珍しいので犬威の目に留まる。
「犬威さん、今度のマガツカミはどんな姿をしていました?」
「……城に似ていた、水車を合わせた城のような」
「水車で城ですか……」
狐乃は再び視線を写真に戻した。
「マガツカミってそもそもそんな姿でしたっけ?」
「……昔はもっと水や炎、原始に近い姿が多かった」
「意思の疎通が図れたりしましたよね?」
「稀だが対話ができたりもしたな、次元の高い存在ほど……」
「現代に合わせて変わったんじゃないかしら?」
「僕らは化けたりできるけど、古き神々も時代に合わせたりするのかねぇ?」
和兎と悟狸も加わり、どうだったかと意見しあう。
猿真も狐乃の態度が気になるのか、読んでいた伝票から顔を上げた。
「なんぞ気になる事でもあるのかい?」
「……なんていうんですかね、現代のマガツカミは」
言いかけて、命の襟を掴んだ蓮美が部屋に飛び込んでくる。
「散歩が終わりました」
「うにゃあぁあああ~っ!」
猫じゃらしの原っぱがあり、飛び込んで捕まえるのに苦労したと報告した。
「命君は猫のままです……」
話しが中断したので狐乃は言葉をつぐんだ。
気にしすぎだろうか。
確かに、時と共に変わってしまっただけかもしれない。
外勤後は湿っぽくなるばかりだったが、蓮美のおかげで所内の雰囲気も明るく変わった。
確証もないまま余計な詮索をして不安を煽りたくはない。
「……」
浮かんだ想像を口にはせず、写真を机の引き出しにしまった。
「にゃあぁあ~」
遊び足りないと命は床を転がるが、蓮美はそれどころではない。
「そろそろお供物を作らないといけないんですが」
「しょうがないわね、命君は私の傍にいなさい」
「……」
和兎の捕獲をすり抜け、自分の机のイスをガタガタどかして潜り込む。
「なによその態度は……」
「あおぉ~ん」
イヤだと反論しているらしい。
「じゃあ命君をお願いしま」
「にゃあぁあーんっ!」
職員室を出ようとすると机の下からガバッと飛び出してきた。
「じっとしてないか、命っ!」
「しゃあっ!」
止めにかかった犬威の顔面に肉球拳をぎゅっと押し当てる。
「いたたたた、痛いっ!」
「やめなよ命君っ!」
「にゃあ~ん」
蓮美が止めるとすんなり肉球をひっこめた。
「こいつ絶対わかっててやってますよ」
「ふーっ!」
狐乃にだけは唸るので、疑われても無理もない。
「作ってる間は大人しくできる?」
「にゃあ」
答えはするが口元はすっかりωになっている。
暴れても困るのでやむなく家庭科室へと連れていった。
「隅っこにいてね、危ないから」
「にゃうっ」
注意したハナからノスノス後からついてくる。
「隅にいないとダメだよ」
「にゃっ」
「じっとしてて」
「にゃあ~ん」
そわそわ動き回るので危なっかしい。
冷蔵庫で野菜を取り出しザルで洗っていると。
「なぁ~ん」
「じっとしててってば」
洗っている横から、丸めた手でシャッ、シャッ、と水を跳ね散らかす。
「やめてよ、ちょっと」
ピシャピシャかかるので嫌がると、嬉しそうにしぶきを飛ばしてきた。
猿真が幼児帰りと例えたが本当に幼児みたいだ。
「ダメだってば!」
「うにゃっ?」
本気で怒った事がない彼女だが、本物の猫や子供を叱る訳ではない。
大声で叱ると彼はビクンと固まった。
「……にゃうん」
「え?」
「……にゃうにゃうん」
「ええ?」
「……にゃうにゃうにゃうん」
「言葉がわからないし、準備で忙しいから」
「ぬぁん……」
猫語で抗議をするだけして家庭科室を出ていく。
「言いすぎたかな?」
だとしても構っていては調理が進まない。
作業は一人でこなしていき、ご飯も炊けて準備はできた。
「……?」
ワゴンを引いて職員室に入ると命が席に座り、机に通販の箱が乗っている。
家庭科室を出ていったのは荷物をコンビニに取りに行っていただけなのか。
猫になっても行動が全く読めない。
「元に戻ったんですか?」
「戻っていない、落ち着きはしたが……」
犬威が耳を垂らして涙目になる。
「すまない、俺のせいだ……」
「大丈夫よ、気長に待ってあげましょう」
和兎が大丈夫大丈夫と二人を励ます。
蓮美はお供物を椀に装い、命にも用意してやった。
「いっただきまーすっ!」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「いただくニャン」
和兎、狐乃、悟狸、猿真、犬威、蓮美、最後に命がいただきますをしたが、視線が命に集まる。
「命君、正気に戻ったのかい?」
「なにがですかニャン?」
悟狸の質問に答えたが言葉が危い。
特に語尾。
「まともなのか聞いてんだろコラ」
「僕はいつでもまともですニャン」
「語尾がキメェよ、とぼけんな」
「とぼけてないニャン。お腹がすいたニャン、いただくニャン」
狐乃のオラつきにも動じない、猫になりきっても元は変わらないようだ。
「半分は正気みたいだね、とにかく僕らもいただこう」
「もう半分は狂気を感じますがね……」
周りを気にもせず、命一人がムシャムシャ食べだしていた。
職員は蓮美の留守中に狐乃と命が買ってきたコンビニの品を食べていたと話す。
食べたのはおにぎりや惣菜、ああいう物なら食べられると。
「でも、やっぱり蓮美の作る物が一番おいしいわ」
和兎が二杯目を完食すると、皆も続いておかわりをした。
褒められくすぐったい気持ちになっていると彼女の机を命が漁っていたと狐乃が心配した。
「大した物は入っていないんですけど……」
引き出しを開けるとしまっておいた国語ドリルの位置が違っている。
律儀にも不在の中でやっていたのだ。
ページを開くと高学年向けのお題が記入されている。
自主的に取り組んだ意思をくみ取り目を通す事にした。
問題はこうある。

古池や かわず飛び込む 水の音 
ふるいけや かわずとびこむ みずのおと

かわずとはカエルのことだよ。
池にカエルがとびこむのをあらわしているんだね。
これは、まつおばしょうという人が作った有名な俳句(はいく)なんだ。
五、七、五の文字からできているよ。
きみも五、七、五でかんたんな言葉を作ってみよう、とある。

命の解答はこうだった。

「情弱の 相手が前だと 僕無双」

じょうじゃくの あいてがまえだと ぼくむそう。
「……じょう」
以前のバグの会議でついていけなかった事をネタにしているらしい。
バカにされているのは伝わったがこの語に趣も何もない。
例としては、秋がきて ススキがゆれる あかね空など。
五、七、五なら自由に書いていいよとあるが、彼の解答はいくらなんでも自由すぎる。
自由とは何だろう。
自由とは何か。
ドリルを掴む手に力がこもった。

次の問題

「さむい冬の空の下でほんのりと桃色にそまるぼくの……」
そうぞうをふくらませて、後に続く言葉をかんがえてみよう。
「……」
嫌な予感がした。
嫌な予感しかしないが。

解答。

「ティクビ」

おおーい。
他にもあるだろう。
染まるもんあるだろう。
頬とか。
掌とか。
寒空の下でわざわざ確認したのかよ。
己のティクビ。

例としては頬、鼻の頭など。

からかっているのか本気で答えているのかがわからない。
気が付くと命が彼女を見てうまそうにお供物を頬張っていた。
「お供物うにゃあい」
くそう。
元々は彼の語彙力上達の為なのに、自分の忍耐力が試されている気がする。
だが、進めておいて引き下がるのも何だか悔しい。
デリカシーのない下ネタに免疫もついてきたし、この勝負は受けてたとうとは思う。
決意を固め、蓮美はドリルを机奥深くにしまった。








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