やおよろず生活安全所

森夜 渉

文字の大きさ
59 / 62
七章

54/変わりゆく日常

しおりを挟む


オマケのイラスト

校庭に軽トラが入ると職員が出迎えてくれた。
荷台を校庭側に向けて止め、荷物が運び出しやすくする。
「悟狸さん、トラックありがとうございました」
「ご苦労様。狐乃君、運転は大丈夫だったかい?」
「ええ、問題なく」
狐乃が鍵を悟狸に返しながら命を横目で見た。
命も彼を見つめ返す。
「車内でいかがわしい事をしてないでしょうね、狐乃君、」
和兎が腕を組んで仁王立ちをした。
「いくら俺でもしませんよ、勤務中ですし」
ブルーシートを外し、横にしておいた洗濯機から順に運び出していく。
蓮美は買い物を手伝ってもらった事は伏せておこうと思った。
理由は帰り道で狐乃にも伝えてあり、二人を呼び出したのは狐乃個人の判断で、説明がややこしくなりそうだからだ。
「食材以外はみんな命君の持ち物だよ」
「はい、えっと、どれから運べば……」
命は急に落ち着きがなくなる。
「命、洗濯機を運ぶからどこがいい?」
「あ、え、ええ」
犬威に聞かれてオロオロした。
物事を選ぶ事に慣れていないせいか、珍しく慌てている。
「水が必要だから校庭の洗い場の隅はどうかな?」
場所選びに困っていると、悟狸が助け舟を出した。
「はい……」
犬威と校庭の隅にある洗い場の裏、屋根もあるのでその下に運び込む。
横に購入した折り畳みの物干しスタンド、後で組み立てるのでこれも置いておいた。
蓮美は家庭科室でへ行き、食材を冷蔵庫に入れている間に皆が荷物を宿直室まで持ち込んでくれる。
「命君の部屋、今は宿直室だったんだねぇ。ここはマガツカミとの戦いで万が一にも負傷した時に使う、大事な部屋なんだけどなぁ……」
「そうなんです、私も最近知って。再三使わないでって言ったんですけど、それにしてもいつから住み着いてたのかしら。子供の頃は他の部屋を使ってたのに……」
悟狸のボヤキに和兎も同意する。
一方。
家庭科室では。
「命君、違うよ」
「はい?」
食材を冷蔵庫に入れる時、いつも命は冷蔵物、冷凍物など教えてもらうが厚揚げを冷凍庫に入れたり豆腐を野菜室に入れたりなど勝手な事をしている。
持ち帰った生活品に気を取られているのか、彼にしては珍しい様子だ。
電話の時はイラついていたようだが機嫌がなおったようで良かった。
「あれ?」
買ったと思っていた煮豆が見当たらない。
思い込みで買い忘れたのか。
明日の献立に使おうと思っていたのだが。
探し回っていると職員が運び出しが終わった事を告げに来てくれた。
「蓮美君、このままお供物の調理にかかってくれればいいよ。もう時間だものね」
悟狸が時計を指さすと調理時間をとっくに過ぎていた。
「そうします」
食材を入れ終えて鍋を火にかけていたら。
「今いいかな?」
廊下から呼びかけられ、扉を開けて狐乃が立っていた。
命も反応して彼を見る。
「玄関に落ちてたんだけど」
探していた煮豆だった。
荷物が多くて袋から落としていたらしい。
「探していたんです」
近寄って受け取ろうと手を伸ばす。
「邪魔が入ったけど楽しかったよ、雨の日にはまた行こう」
耳元で囁いて命を見た。
命も無言で狐乃を見返す。
狐乃が立ち去り、蓮美が冷蔵庫に煮豆をしまっていると。
「蓮美さん……」
「うん?」
背後から命が声をかけた。
「トラックを止めて狐乃さんと何をしていたんですか?」
「大した事じゃないよ、買う物の打ち合わせをしていただけだから……」
「わざわざトラックを止めてですか?」
棘のある言い方に聞こえた。
何を言いたいのかわからない、買い物を取られて拗ねているのだろうか。
「本当にそれだけだよ」
振り向きざまに言ったが、語気が荒くなる。
後ろ暗い事などないからだ。
「わかりました」
命はいつも通りに棚から食器を取りだす。
蓮美も支度に取り掛かった。
取り掛かりながら、同行してくれた霧人や琉星を思い出してしまう。
いつもの買い物とは違い、楽しかった気がした。
「行ってみようかな」
最近は職員以外に会話もせず所とアパートの往復しかしていない。
ポケットに手を当てると、琉星がくれた名刺が入っていた。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処理中です...