貴方に相応しいのはこのわたくし

双葉愛

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その王子、裏がある

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わたくしは窓から差し込む光に目を細めながら、アフタヌーンティーのフルーツがふんだんに盛りつけられたタルトにフォークを通した。口に運べば流石王城のケーキ、思わず舌鼓を打って頬を緩める。



「ご満足頂けましたか?」



そう掛けられた声に視線を向ければ、その声の主は穏やかに微笑んだ。



「えぇとっても」



こちらもどうぞ、とテーブル一杯に並べられたケーキを差し出したのは……この国の騎士団長様だ。


屈強な体に頬に傷跡さえ残している見た目も怖い男は、まさに武力においてはこの国の頂点に君臨している。それなのにケーキを持つその姿はアンバランスそのものだった。


そしてわたくしは何故こんな正直目に毒な光景を見る羽目になったかと言うと……やはり駄目駄目駄目駄目な婚約者のせいであった。



『……シェリシア嬢、こちらに』


『……あの、団長様?……一体これは』


『賄賂です』


『……賄賂?』



どうやらあの男、剣の稽古をここ一ヶ月間逃げ切っているらしい。呆れて団長に返す言葉が見つけられなかった。



つまり不真面目な王子をなんとかしたいが、何とも出来ないためわたくしに団長自ら王子に剣を握らせろと頼まれているのである。本当にあの男は団長様にどこまでさせるのだろうか。



王子が不甲斐なくて仕方ない。その気持ちを発散させるようにケーキに手を付ければ、いつの間にか4つ目のケーキに手を伸ばしてしまっていた。……あらいやね、つい。



「……それでは本件の方、必ずや本人にお伝えしますわ」


フォークを置いてそう言えば、心底安心したように団長様は顔を緩めた。団長様のお気遣いが胸にしみる。……もうどこまであの男は駄目になれば気が済むのか。


心優しい団長様で、決して王子と言う見捨てられない立場で、よかったわねと心の中で男に遠い目を向けた。


これは一刻も早く男の元へ向かわなければ。そう意気込んで、立ち上がって部屋を出ようとした時……。




「団長、失礼………って、あれ?」



メイドが立っている横の扉が勢い良く開いた。その音に視線を向けると、どうやら男が部屋に入ってきたようで、その男と目があった。



「……ご令嬢?」



男は大きな目でパチリと瞬きして、わたくしの顔と団長様の顔とテーブルを埋めているケーキを二度ほど視線で往復した。どうやら情況を把握しかねているようだ。



そしてもう一度わたくしの顔を見て……



「し、失礼致しました!」



と勢い良く扉の外へ出て行った。


わたくしが何か反応する暇もなく去っていった男に、団長様か「あちゃー」と小さく零すのを聞いてしまった。


何となく微妙な空気が漂ってしまったので、わたくしは笑みを浮べて礼を取り、さっさと退出して王子の元へ行った。



* * *




「シェリー、突然どうした?」



王子の自室へと入ると完全に暇そうにしている男がいらっしゃった。……こんな男のせいで団長様みたい苦労を被っている方がいるのだと思うと世の中の世知辛さを感じる。



「……わたくし、昨日騎士物語を読みましてね。是非アンリ様が剣を振るうお姿を目にしたいと思いまして」




本当は別の用事があったのだが、それを話すと話が脱線してしまうのでまた日を改めようと思った。もちろん騎士物語など読んではいないのだが、単純脳にはこれくらい分かりやすい理由が丁度いいだろう。



「……剣を?」



しかし男は不可解そうに眉を乗せ、ホイホイわたくしの誘いに乗ってくれるわけではなさそうだ。



「えぇ。もちろん出来ますでしょう?」


「……何を企んでいる?」



今日に限って鋭い。怪しげにわたくしを見る蒼い瞳に、さてどうしましょうかと思案した。


「別に何も。最近だらしない姿しか見ていない婚約者の、格好いい素敵な姿を見たいただの乙女心ですわ」


王子はその美しい顔を駆使して「まさか君が?」と不信感を顕にしていた。普段の抜けた王子は一体どこへ逃走したのかしら。今に限って戻ってきて欲しい。



「……はぁ。わかった、君の顔を立てよう。なら早く行くぞ」


よかった。


「ありがとうございます」



そう王子に向かって微笑めば、王子は肩を竦めてわたくしを見た。その時ふいに王子の手がこちらへ伸びたかと思えば……肩に手を回され、軽く引き寄せられる。



「……君は騎士のような男が好みか?」


突然のことに思わず王子の胸に手をついてしまい、ダイレクトに触ってしまった鍛えられた体に頬を熱くした。そんなわたくしの顔に掛かっていた髪を王子は丁寧に耳に掛け、「ふうん」と赤くなっているであろう顔に指で触れる。冷たい感触に王子の服を握り、王子の顔をゆっくりと見上げた。



「婚約者が王子で残念だな、姫」



そう言って王子はその美しい顔に艷やかな華を思わせる笑みを敷いた。わたくしの心臓はもう破裂寸前で、今咳をしたら血を吐いてしまうのではと心の隅で思うくらいだ。



「さて駄目な王子を選んだお姫様。こんな俺で良ければエスコートを致しましょう」



普段はわたくしに怒られる癖に、普段は無能そのものなくせに、たまに見せるこんな王子の一面にわたくしは翻弄されてばかり。冷静になんて無理よ。だってこの男顔はとてもいいのだから。声だっていったん耳を通ると脳で反芻されてしまうぐらいには心地よい声で……って落ち着きなさいわたくし。



跪くわけでもなく、高身長のせいでわたくしを見下した格好でそんなことを言った王子に、わたくしはただ差し出された手を掴むことしか出来なかった。クスクスとそんなわたくしを笑う声が頭上から聞こえても反応なんて出来る筈がない。



わたくしはそのまま王子に連れられ、真っ赤な顔で城を歩く羽目になってしまった。





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