悪役令嬢扱いされて婚約破棄&国外追放された私ですが、最強種に見初められたので世界を統べる覇王を目指します

倉橋 玲

文字の大きさ
59 / 59

令嬢と攻略作戦 7

しおりを挟む
 一方のアルマニアとノイゼは、明らかに様子がおかしいアトルッセを不思議に思いはしたようだったが、彼に話す意思がないことを悟ると、特に追及したりはせずに、分断後のそれぞれの行動や、襲撃を受けて動き出す可能性が高い魔法師団を首都で抑え込むレジスタンスたちの指揮についての話などを詰め始めた。
 アトルッセやヴィレクセストも交え、互いに意見をぶつけ合いながら進められた作戦会議は、かなりの時間が過ぎたところでようやく一区切りを見せた。
「取り敢えず、現状で私たちにできる策は概ねこんなところかしら。あとは、今後の状況や本番次第で臨機応変に、といったところね。……まあ、それが一番難しいのでしょうけれど」
「困難ではありますが、やるしかないでしょう。そもそも、この人数で賢人と渡り合えるところまで来たこと自体が、奇跡のようなものなのです。あと少しを埋めるための努力くらいならば、いくらでもしますよ」
 そう言って笑ったノイゼに、アルマニアも少しだけ微笑みを返す。それから彼女はそっと目を伏せたあとで、改めてノイゼとアトルッセを正面から見た。
「ひとつ、言っておきたいことがあるの。戦いの最中で、もしも相手が降伏の意思を見せ、それを貴方たちが嘘偽りのない真実だと確信したなら、それ以上相手を痛めつけるようなことはせずに捕虜として連れ帰って。そうでない場合でも、殺さずに済むなら殺して欲しくない。最終的に償いのために命を奪うことになるとしても、それを決めるのは国民全員であるべきだわ。できることなら、戦場で殺してしまうなんて事態は避けたいの。勿論、手心を加える余裕がなければ忘れてくれて結構よ。何よりも避けるべきは敗北だもの。勝つために必要なら、容赦のない殺害も視野に入れてちょうだい」
 そこで一度言葉を切ったアルマニアが、その上で、と言う。
「もしも賢人たちや魔法師団の面々を生かして捕らえることができ、国民たちが彼らを許すことがあって、彼らもまた己の罪を理解し心を入れ替えるのであれば、……そのときは、私たちの傘下に加えても良いのではないかしら」
 静かに言われたそれに、ノイゼが目を開く。それを見たアルマニアは、彼が何かを言う前にさっと言葉を付け加えた。
「と言いはしたけれど、これは飽くまでも私の個人的な意見よ。だから、貴方たちが反対なのであれば、聞く必要はないわ」
 そんなアルマニアの言葉に、僅かな沈黙ののちにノイゼが口を開いた。
「…………賢人や魔法師団は国を脅かす敵とみなす。改心の余地があるかもしれないなどという希望は捨て、力ずくで排除しなさい。と、貴方はそう仰ったのに?」
 本当に良いのか、と確認するような彼の言葉に、アルマニアは、あら、と言って小さく笑った。
「勿論彼らは国家の敵よ。甘い期待や希望を捨てるのも、力ずくで排除するのも、当然成すべきことだわ。けれど、罪を認めて心を入れ替えた者に過剰な罰を与えるのもおかしな話だわ。それ以前に、民が許すと言うのであれば、私たちが許さない筈がないじゃない」
 柔らかな音で紡がれた言葉たちに、ノイゼが彼女を見てくしゃりと笑った。
「人心を掌握する趣味でもおありなのですか?」
「あら、ただ私が王の器なだけよ」
 ふふふ、と笑んだ彼女に、おおよその流れを把握したアトルッセが嫌そうな顔で呟く。
「性悪なだけだろう」
「……知っていたけれど、貴方、本っ当に腹立たしい男ね」
 思わずアトルッセを睨んだアルマニアに、ヴィレクセストがまあまあと声を掛ける。
「怒ってる姿も可憐なんだが、そういうのは俺の前でだけにしようぜ」
「貴方は貴方で相変わらず意味が判らないわ」
「物凄く判りやすくて単純な愛情表現なんだけどな……」
 そうぼやいたヴィレクセストは、いやまあ良いや、と言ってから、ノイゼに視線を投げた。
「本当は言うつもりじゃなかったんだが、ま、公爵令嬢がああ言ったことだしな。それじゃあ、特別に俺からひとつ、幻夢の兄さんにアドバイスだ」
 そう言ったヴィレクセストが、ノイゼに向けている目をすっと細めた。
「現見の賢人に気をつけろ。あれは、あんたらが思ってるような引きこもりじゃねぇぞ」
 その言葉に、ノイゼが眉根を寄せる。
「……どういう意味でしょうか」
「当代の現見は部屋に籠って魔法で情報集めばっかしてる、ってのが賢人を含む国民全体の共通認識だろ? その認識は改めた方が良いって話さ。あんたも腕には自信があるんだろうが、今のなまった状態じゃあちょっとな。ま、レジスタンスの鍛錬がてら、一から鍛え直しとくんだな」
 そう言ったヴィレクセストは、それから、と言ってノイゼに向かって人差し指をついっと差し向けた。
 その瞬間、ノイゼがびくりと大きく目を開いたあとで、小さく呻いて頭を抑えた。
「ノイゼ!」
 思わず叫んだアトルッセに、ノイゼがゆるりと首を振ってから大丈夫だと告げる。それから彼は、困惑の表情を浮かべたままヴィレクセストを見た。
「……ヴィ殿、今の映像は?」
「いざというときのお守りだ。……他の連中はまあどうでも良いんだが、現見はギフトみてぇだからな。ギフトの初期配置がそこなのかよとは思うが、そもそもギフトなしの可能性もあったと思えば、遥かにマシだ。ってな訳で、できれば奴だけはこっち側に引き入れたい。だから、どうしても困ったらそれを使え。それでも無理だったら、まあ諦めだな」
 全く理解できない話を展開したヴィレクセストに、ノイゼがアルマニアに向かって困惑の目を向ける。それを受けた彼女は、小さく息を吐いて首を横に振った。
「ヴィレクセストがこういう言い方をするときは、基本的に何を尋ねたところで無駄よ。現見はできれば仲間に引き入れたい対象で、そのための手段として貴方に何かを見せた、という点だけ理解していれば良いということでしょう。……意味ありげな他の言葉たちは、私が常に頭の片隅に置いて答えを模索しておくわ。これまでもずっとそうしてきたし、そうして欲しいからこそわざわざ口に出したのでしょうし」
「さすがは公爵令嬢、俺のことよく判ってるな」
「別に判りたくて判った訳ではないわ。判らないと貴方とはやっていけないだけよ」
 少しだけ嫌そうに言ったアルマニアに、しかしヴィレクセストは一切気にしない様子で彼女に笑いかけてから、さてとと言ってアトルッセを見た。
「それじゃあ、俺らは鍛錬を始めようか、団長殿。できるだけ時間には余裕を持つつもりでいるが、最悪作戦決行の直前まで戻れない可能性もあるから、あとのことは頼むな。ああ、一応公爵令嬢の守護には然るべき措置を取っておくから、その辺は安心してくれ」
 そう言ったヴィレクセストは、名残惜しそうな表情でアルマニアの頬にキスをしようと顔を寄せたが、間髪入れずに突き出された彼女の手に顎を思いっきり跳ねのけられて、ぐえっと蛙が潰れたような声を洩らした。
 そんなヴィレクセストを無視して、アルマニアがアトルッセを見る。
「こんなのだからお馬鹿に見えるかもしれないけれど、ヴィレクセストはとても優秀よ、オートヴェント。そして同時に容赦もないの。……だから、振り落とされないように頑張って」
「……ふん、言われるまでもない」

 賢人襲撃の日まで、あと二十三日。決戦の場に向けて、それぞれの仕込みが始まったのだった。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.28 倉橋 玲

スパークノークス様

ありがとうございます!
今後も是非お付き合いください。

解除
2021.08.18 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.08.19 倉橋 玲

黒輝やまと様

ありがとうございます!
今後も読んでいただけると嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

悪役令嬢を断罪したくせに、今さら溺愛とか都合が良すぎますわ!

nacat
恋愛
侯爵令嬢リディアは、無実の罪で婚約者の王太子に断罪された。 冷笑を浮かべ、すべてを捨てて国外へ去った彼女が、数年後、驚くべき姿で帰ってくる。 誰もが羨む天才魔導師として──。 今さら後悔する王太子、ざまぁを噛みしめる貴族令嬢たち。 そして、リディアをひそかに守ってきた公爵の青年が、ようやく想いを告げる時が来た。 これは、不当な断罪を受けた少女が、自分の誇りと愛を取り戻す溺愛系ロマンス。 すべての「裏切られた少女」たちに捧ぐ、痛快で甘く切ない逆転劇。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。