【R18】異世界で傭兵仲間に調教された件

がくん

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命がけの行進1(非エロ)

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草影に隠れた小さな鈴虫が鳴いている。
そこに夜フクロウの鳴き声が時折と重なって辺りに響き、音が彼らだけの時間となるとそれは誰もが寝静まった夜更け。

ケントたちがいる天幕のランプは消えており、ケントたちはそれぞれの寝袋の上で眠っている。
1日にいろいろな事があったのか、夜の運動に疲れたのか、ケントもハーヴェイもいつもよりも深く眠っているようだ。
そんな彼らが寝る天幕に、わずかな土を踏む音とともに近寄る人影があった。
黒いローブを身にまとったその人影は気配でも消しているかのように、静かに天幕の入り口で垂れた布をその手でゆっくりと持ち上げた。
かろうじて見える暗い視界の中、2人が眠っているのを慎重に確認しているようだ。

しばらく待っていてもケントもハーヴェイも起きるそぶりもなかったからか、流れるようにその人影は天幕の中に忍び込み、ケントの顔元に近づいた。
人影は手に持っていた折りたたまれた布を、ケントの口と鼻を覆うようにあてると、そのまま静止した。


──ケントに何も変化がないようにみえるが、10秒ほどたつとその布をケントの顔から話した。
そうして今度は振り返り、その人影は気持ちよさそうに寝ているハーヴェイへと近づいていった。

黒いローブの人間が、ハーヴェイの顔元に布をあてがってる最中、気配を隠す素振りなどみじんも感じないほどの土を踏む音を鳴らしながら、別の足音が天幕へと近づいていく。
その人影が天幕の布を上げると、ハーヴェイの顔元にいる黒いローブの人間に話しかけた。

「おいおい、ビビりなのは変わってねぇなァ──ヨフティ」

「シー!勘弁してくてくださいよ……マラークさん」

「慌てなくても誰も来ねぇよ」

マラークが天幕の中に入ると、深く眠っているケントの前でしゃがみ込み──マラークは親指で自身の人差し指を引っ張り、軽くケントの額を弾いた。

「へッ。しっかり落ちてんなァ」

「眠らせたって言ってくださいよ……ええ、よほどの事でもない限り数刻は起きないはずです──にしても本当に行くんですかい?」

「ハッ今更なんだその確認。黙ってとっとと動かねぇと過去の悪事ごと憲兵に突き出して──」

「あーあーわかりましたよわかりました」

ヨフティと呼ばれた男は、顔を隠したローブの中に手を入れると、肩にかかった長い髪を押しのけて首元をこすった後、寝ているハーヴェイの腕を引っ張って背中に背負った。

「まったく……潤滑油の件といい、今回の件といい……俺は今はただの薬師なのに……」

ヨフティは小さくブツブツと小声で愚痴をこぼしながらハーヴェイを天幕の外に運んでいった。
そしてマラークもまた、どこか小さく笑みをこぼしながらつぶやいた。

「さぁて、たのしくピクニックといこうや──なぁ相棒」




──それから日も昇り、さらにそこから数刻ほどたった頃、民家の前で見習い傭兵のルッツが手ぶりを含めてレックスに話していた。

「なに?ケントたちがいない?」

このセリフは何度目だろうか?
自身でもそう心の中で思えるほど、ルッツの報告にレックスは大して驚かなかった。

「はい。天幕の中にもいないんです」

「はぁー……」

手で頭をポリポリとかきながらも大きくため息をはくレックス。
2日前のマラークがいないという報告から始まった団長の帰還。
そして一連の流れをふと思い返し、どうせマラークがまた何かをしたのだとレックスは考えていた。

「ルッツ。オルバーの所にいって昨夜にマラークを見たか聞いてくれ。見ていないのならマラークが原因だ」

「は?」

レックスの言葉が理解できないのか、ルッツは疑問を顔に浮かべた。
あの3人の関係を知らないゆえに当然ともいえる反応だった。

(まったく……なにを考えとるんだアイツは)

レックスがサラサラの銀髪を風になびかせながら空を見上げた。






──同時刻。レックスが見上げた同じ空の下で平原を、土煙を上げながらラプトルが走り抜ける。

サンダーライトが滞在している村を南下し、森を抜けた先にある──フォーリッヒ平原北部。
フォーリッヒ平原は広大で、その中心部を横に一刀両断したかのように交易ルートが存在しているが、そこから外れた北部は地図上では道の記入すらされていない危険な地帯。
そんなフォーリッヒ北部を、1台の荷竜車が走っていた。

手綱を使って荷竜車をけん引するラプトルを操っているのはローブの男、ヨフティ。
荷竜車の車輪が小石にぶつかったのか、荷竜車が大きく揺れた。


まぶた裏の暗い視界に光が差し込む。
ケントが目をゆっくりと開くと、荷竜車の中で座っているマラークが視界に入った。

「マラーク……?」

「よぉ」

ケントはゆっくりと体を起こした。
薬の強い影響からか、寝ざめのいいはずのケントの思考はすぐには正常にならなかった。

自身は天幕で寝ていたはず。
そんな記憶も床が揺れたことや、見慣れない景色などの情報整理をしてるうちに、異変を少しずつ理解していくケント。
帆のない光の差し込む方を見ると、いかにも怪しい黒いローブをまとった者の背がケントの視界に入った。

「──は?」

「目ぇ覚めたならとっととそのクソ犬も起こせ」

「え?」

ケントがあたりを見回すと、同じように荷台で寝そべっているハーヴェイの姿が目に入った。
ハーヴェイの体を揺らしてハーヴェイを叩き起こそうとするケントを、マラークは見るそぶりもなく静かに平原の景色を見ていた。

(──そういや、コイツと出会ったのもここだったな)

「ハーヴェイ。起きろ、ハーヴェイ……!」

「んー……なんすかケントさんまだほしいんスか……うーん……?え?──へ?ここどこッスか?えぇ!?どこ行くんスか!?」

寝起きから騒ぎ立てるハーヴェイたちを、マラークは視界はおろか気にも留めずに外に意識を向け続けている。
荷竜車の手綱を握るヨフティもまた、横目で急に騒がしくなった中を気にかけたが、ため息をはいた後に再びまっすぐ進路上の平原を見つめた。
荷竜車は平原を駆けていった──。





──さらに1刻ほどたった頃、道なき平原に荷竜車が止まっていた。
荷竜車から降りてその地に立つケントとハーヴェイ。
ケントは訓練の時に装備していた胸当てなどの防具や鉄の剣を腰にかけ、実戦用の一式を装着していた。
ハーヴェイもまた、手槍を片手に弓、矢筒を背中に抱えており、弓を扱う用の手袋を身につけている。
そんないかにも準備万端ともいえる装備をしている2人だったが、ケントたちの表情は不可解といわんばかりに、マラークを見ている。

「それとコイツだ」

マラークが帆竜車の中にあった硬い皮のバックパックをハーヴェイに向けて放り投げると、両腕で抱きしめるように受け取った。

(あぁ……もう中に治癒ポーションのビンとか入ってるのに……そんな雑に扱わなくても……!)

荷竜車の近くでヨフティが動揺しながらマラークを見ていた。
バックパックを受け取ったハーヴェイが、中を確認しようと開けていると、その傍らでケントは口を開いた。

「なぁマラーク。俺たちを拉致してまでここに連れてきた理由、そろそろ説明してくれよ」

「そうっすよ。訓練でもやるんすか?」

「ハッ訓練?違うな。今からテメェらがやるのは、命がけの行進だ」

「え?」

「今から俺はテメェらをここに置き去りにする。小隊戦までに歩いて村に戻ってこい──ただし西に迂回(うかい)するのはナシだ、そんなナメたマネは許さねぇ」

そう言い放つと背中を向けたマラークは飛び乗るように荷竜車に乗り込んだ。
何を言っているのかケントたちは理解できなかったが、妙な現実味を帯びたのか焦ったかのようにマラークに問いかける。

「はぁ?……ハーヴェイと歩いてって……そんなむちゃな!?」

「えっと……冗談っすよね?バックパックに退魔石も入ってないっすよ?しかもここってフォーリッヒ北部っすよね?」

「あぁそうだなァ。通称、獣の餌場。ま、なんとかなんだろ。気張ってみろや」

「いやいやいや死んだらどうするんすか!?ケントさんだって──」

「──死んだらそれで終わり。それだけの話だろうがよ」


これまでのすべてを突き放すような、そんな道理の見えない言葉に──2人とも言葉を返すことができなかった。
マラークがマラークたる価値観ともいえるその言葉から、なぜか異様なまでに重みをケントたちは感じ取ってしまったのだ。

ケントは吸い寄せられるように、その冷たい目の奥に真理のような本質を見るようなマラークの目を見ていた。
これまでにも何度か見た、その見透かすような目を。

「──出せ」


マラークは背を向けヨフティに命令を出した。
ヨフティの手綱が、波状にしなるとともにラプトルたちが歩き出した。
車輪の回転音とともにゆっくりと進んでいく荷竜車を、ただぼう然と見ているケントとハーヴェイ。
立ち尽くす2人を背に、荷竜車に乗ったまま振り返る事すらしないマラーク。


ほんのわずかに霧を帯びた空気と地平線の間に、荷竜車は消えていった。
たった2人の見習い傭兵をこの地に残して──


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