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二十章 最後まで夜遊び!!
505 フィリップが飛んで行く人
しおりを挟むフィリップの誕生日パーティーが終わって数日後、エイラとダグマーも領地に向けて出発した。この頃には帝国中から集まっていた貴族もほとんどいなくなったので、帝都もようやく通常運転に戻っていた。
「そっちの情報も問題ナシってところね」
「はっ」
今日はまた薬屋の隠し部屋を使って、ステファンと帝国の内情を話し合う密会だ。
「他国も手を引いたみたいだし、このまま数年、何事もないといいね~」
「ですね。でも、殿下はどこから他国の情報を手に入れたのですか?」
「あ、言ってなかったっけ? 国境線に左遷された元騎士団長からだよ。いま、僕の犬になってもらってるの」
「元騎士団長も手駒にしていたのですか!? 殿下の手の内には元宰相閣下もいますから、ますます私の出番はなくなりますね」
元でも帝国トップクラスが揃っているのだから、ステファンも自信なさげに頭を掻いた。
「なに言ってんの。お前が表に立ってくれているから僕たちが動きやすいんだよ。これからも頼りにしてるよ」
「で、殿下……このステファン、殿下の期待に応えられるように粉骨砕身いたします!!」
でも、フィリップが褒めると元気復活だ。
「おお~。その意気その意気。もしも捕まっても、僕たちのことは絶対喋らないでね~?」
「はっ! ……え? た、助けてくれないのですか??」
「お前はそのための駒だも~ん」
「そんな~~~」
でもでも、捨て駒にされる運命だと聞かされて、ステファンは情けない声でフィリップに泣き付くのであったとさ。
ステファンがかわいそうにまったく思えないフィリップであったが、ちょっとだけ慰める。元々フィリップたちがやっていることは、情報収集と皇帝に絶対服従しろとの啓発活動だけなので捕まるワケがない。
どちらかというと褒められることをしているから、バレたとしてもちょっと動きにくくなるだけだ。それもそうだなと気付いたステファンは「自分は誰の味方をしてるのだ?」と首を傾げて帰って行った。
それからもフィリップは夜遊びをメインに情報収集したりマッサージしたり、「引きこもり皇子」と揶揄されても気にせずいたら、2月の半ばに嫌な情報が入った。
「お婆ちゃん……」
アガータが体調を崩したのだ。フィリップはカイサたちから聞いたら、夜型なのにアガータの私室に飛んで行ったのだ。
「坊ちゃま。そんな顔しないでください。ただ、私の順番が来ただけですよ」
フィリップが両親にしか見せたことがない悲しい顔をするので、ベッドから動けなくなってしまったアガータのほうが励ました。
「若くしてお亡くなりになられた皇太后陛下、太上皇陛下には、いつも悪く思っていたぐらいです。私が代わってあげられたらと」
「そんなこと言わないで。もっと悲しくなっちゃう。お婆ちゃんの代わりは誰にもなれないよ。長年皇家に仕えてくれて、本当にお疲れ様。僕はお婆ちゃんのこと、ずっと本当の祖母だと思っていたよ。今までありがとう」
「坊ちゃま……泣かせないでください」
アガータも同じ気持ちだったのか、自然と涙がツーッと垂れる。フィリップはハンカチを手渡して黙って見ていたら、涙を拭ったアガータは真面目な目で見て来た。
「坊ちゃまにひとつお願いがあります」
「うん。なんでも言って……全員、外に出て」
フィリップはアガータの願いは難しそうだと思ったが、茶化すことはしないで真面目に返した。そして看病する者やカイサたちも部屋から追い出し、ドアが閉まるのを確認してからアガータに続きを喋らせる。
「フレドリク坊ちゃま……皇帝陛下のことです。正直、陛下は皇后様と結婚してから変わりました。このままでは帝国はバラバラになってしまうのではないかと心配で……もしもの時は、坊ちゃまがなんとかしてくださいませ。お願いします」
「プッ……アハハハ」
真剣なお願いだったのに、フィリップは吹き出して笑ってしまった。
「笑い事では御座いません。いまの帝国の状況、わかっておられないのですか?」
「アハハ。ゴメンゴメン。父上にも同じこと言われたから、我慢できなくて」
「太上皇陛下に??」
「うん。2人とも、最後まで国の心配をするなんて、この国を愛してるんだね」
フィリップは笑みを浮かべたまま、太上皇からの願いを伝えた。
「太上皇陛下が、坊ちゃまに、皇帝陛下を殺せと……」
「そそ。だから僕は殺さずにお兄様を皇帝から引きずり下ろすと答えたよ」
「お優しい坊ちゃまらしい答えです。しかし、それができるかどうかは別で御座いますね」
「ノンノンノン。チョロイチョロイ」
「できる自信があると……」
フィリップが茶化してるので、アガータに睨まれちゃった。
「僕、実力隠してるもん。それを見せたから父上もできると確信して、もしもの時はお兄様を殺せと言ったんだ」
「太上皇陛下が認めているなんて……」
「疑ってるね~。ほら、これは序の口ね~?」
「ゆ、雪??」
フィリップが自分の頭上から雪を降らすと、アガータは目を丸くする。そして太上皇に話したフィリップの実力を掻い摘まんで教えてあげると、アガータはゆっくり目を閉じてから再び開いた。
「はぁ~……坊ちゃまは何かを隠しているとは思っていましたが、そこまでとんでもないことだったとは……」
「そそ。誰にも言えないの~。そうだ! 父上、僕の秘密を全部、順を追って語ってあげたら寿命延びたんだ。これを聞いたらお婆ちゃんも、驚き過ぎてなかなか死ねないよ~?」
「フフフ。それは楽しみですね」
これよりフィリップは毎日アガータの私室に通い、氷魔法の秘密から語っていたが、アガータは1週間後、私室に入り切らない数多くの教え子に見守られて旅立って行ったのであった……
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