406 / 522
十七章 大事件が起きても夜遊び
406 皇太子の決断
しおりを挟む痛み止め薬を購入したフィリップは城の中を急ぎ足で歩き、頭を下げる遠方から登城した貴族を無視して皇帝の私室にやって来た。
カイサとオーセはドアの前に待機させてフィリップは中に入ると、皇帝の看病をしていたアガータに声を掛ける。
「お疲れ様。父上、目を覚ました?」
「いえ。お昼から病状に変わりはありません。時々苦しそうにしておりました」
「そっか。ちょ~っとお婆ちゃんに頼みがあるんだけど……体で痛いところとかある?」
「もう歳なので、節々痛みます。それと頼み事はどう関係しているのですか?」
「んっとね。僕、さっきまで……」
フィリップが説明すると、アガータは快く無理な頼みを引き受けてくれるのであった。
フィリップが私室に戻ると、皇帝を看病する人員はアガータが手配してくれていたので、やんわりと戦力外通告されていたけど居座る。
お腹が空くと皇族食堂で食べ、カイサたちと一緒に皇族専用風呂に入ったら、2人は口をあんぐり。豪華絢爛で広々したお風呂だから、天国と勘違いしたらしい。
綺麗サッパリになったフィリップは私室に戻ると、カイサたちの仕事はここまで。明日の朝に顔を見せるように言って根城に帰した。
ここでしばらくアガータと一緒に看病していたら、今日の仕事を終えたフレドリクがやって来た。
「フィリップ。父上はどのような状態だ?」
「変わらず。ずっと寝てたよ」
「そうか……」
フレドリクが暗い顔をするなか、フィリップはお願いをしてみる。
「お昼間に薬屋に行って来たんだけど、父上に痛み止めの薬を使っていい?」
「薬屋だと? フィリップにそんなツテがあったのか?」
「ないから、僕の従者に紹介してもらって、そっから聞き込みして腕利きを探したの」
「その薬屋は信頼できるのか? もしも体調が悪化したとなると、裁かなくてはならないんだぞ??」
「それは許してやってよ~。てか、すでにお婆ちゃんに使ってもらって検証済みだよ」
「なんだと!?」
フィリップがアガータにしたお願いとはモルモット。そんな危険なことをさせていたので、フレドリクも驚愕の表情でアガータを見た。
しかしアガータは表情を一切変えずに淡々と報告する。どうやらこの痛み止めはなかなか有効で、節々の痛みがケロリと消えたらしい。
「本当に大丈夫なのか? 何か体に違和感はないか?」
「特にはございません。しいて上げるなら、薬を飲んでから眠気がある程度でしょうか」
「その程度ならば……」
アガータならば信頼できるから、フレドリクも薬の服用を許可してもいいかと考える。
「お婆ちゃんに飲んでもらったのは、効果が弱いヤツなんだよね~。薬屋の人が言うには、強い物ほど体に影響があるみたい。なんだったかな……そうそう。眠気や吐き気、特に依存性が高いらしいの。原料は麻薬ってなってるな」
フィリップが薬屋に書かせたメモを読むと、フレドリクは今度は唸り出した。
「それでね。すっごく言い辛いんだけど、薬屋は父上と同じ症状の人を何人も看ていたの」
「言い辛いというと、そういうことか?」
「うん……痛みを和らげるか、痛みから解放してあげるしか方法がないって……」
「そ、そんな……」
フレドリクも覚悟はしていたが、フィリップの口から救いようがないと聞かされて後退り、ソファーに足が当たったと同時に腰を落とした。
「僕は父上に、その時が来るまで安らかに過ごして欲しいけど、薬を使うには皇太子殿下の許可がないとできない。どうか、この薬を使わせてください。お願いします」
「私からもお願い致しします」
そこにフィリップは涙目で頭を下げると、アガータも味方に付いて頭を下げた。だが、フレドリクの返事はなかなか来ない。父親の死は受け入れ難いのだろう。
しかし、フィリップが皇太子と口にしたのだから、徐々に次期皇帝の顔に変わって行った。
「わかった……これは皇太子である私の決断だ。どのような結果になろうとも、私の責任とする。フィリップ……薬の使用を許可する」
「はっ!」
さすがは誰もが認める次期皇帝。その決断の仕方にフィリップでさえ惚れ惚れして、大きな声で返事をするのであった。
それからフィリップの指示で経口薬を粉々に砕いて水に溶かした物を、皆で協力して皇帝にゆっくりと飲ませる。
しばらく待つと、心なしか皇帝の顔が安らいで見えたので、フィリップたちは抱き合って喜んでいた。
その結果のせいで、薬の手配はフィリップの仕事に。フィリップも薬屋のことは自分しか知らないから、快く了承していた。
そのついでに、フィリップはお願い。もっと効き目のある薬を探すと言って、平民街の有力者を全て紹介してもらった。
名簿の中にはキャロリーナの名前があったので、フレドリクが出て行ったらニヤリ。どうやら有力者を紹介してもらったのは、キャロリーナと会ったことのアリバイ作りらしい。
いつ会ったかなんて、些末な問題。これで堂々とキャロリーナの名前を出せるから、薬屋のことも説明できるとほくそ笑んでいる。
ちなみにフィリップが新しい薬屋を探すかは気分次第。キャロリーナに絶大な信頼をしているから、いまよりいい薬屋がいるとは思ってないのだ。ていうか、面倒なんだろうね。
今日のフィリップも昨日と同じく夜通し看病。限界が来たらソファーで眠り、何かあったらメイドに引っぱたいてでも起こせと命令していた。
そんなことを言われたメイドはドキドキ。皇帝が急変しませんようにと祈りながら朝を待つ。第二皇子なんか叩けないもん。
その祈りが通じたのか無事朝になり、人の入れ換えで病室が少し賑やかになった頃に、フィリップはその声で目覚めた。
「ふぁ~……お婆ちゃん、おはよ~」
「おはようございます。いまはまた薬を飲ませている最中です。殿下のお食事も御用意しておりますよ」
「うん。ありがとう」
フィリップはムシャムシャとサンドウィッチを食べながら、皇帝の様子を見守る。食事を終えた頃にフレドリクがやって来たから「変化なし」と報告し、軽く話す。
フレドリクが仕事に向かい、お昼も近付くとフィリップに眠気が来たのでもうひと眠りしようかと考えていたら皇帝から声が漏れた。
「父上! 父上僕だよ! 聞こえる!? フィリップだよ!!」
覚醒の兆しだと感じたフィリップは皇帝の手を取って何度も大声で声を掛ける。すると数十秒後に、皇帝の目がモソモソと動いて、完全に開いた。
「フィ、フィリップ……」
「父上! 起きた! やった~~~!!」
皇帝が名前を呼んでくれたので、フィリップは飛び跳ねて喜ぶ。そんな2人を見た私室にいる者は、歓喜の声をあげるのであった……
12
あなたにおすすめの小説
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる