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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
016 勅令書強奪事件2
しおりを挟む宿屋の一室にて、切り裂かれたショルダーバッグから大きなカバンが出て来たらエステルが怒鳴るので、フィリップは宥めてから小声で説明する。
「あんまり言いたくないけど、協力関係にあるから教えてあげる。辺境伯にも言わないって約束できるならね」
「お父様にもですの……」
「じゃあ、この話はなしね」
「もう! わかりましたわ!!」
「だから大声出すなって~」
エステルが何度も怒鳴るものだから、フィリップは一度入口から顔を出して、廊下に誰もいないのを確認してから戻って来た。
「左手の人差し指につけてる指輪を見ててね?」
「それがなんですの……え??」
フィリップが立てた人差し指の前の空間が歪んだかと思ったら、そこからリンゴが出て来たのでエステルも驚きが隠せない。
そのリンゴはフィリップが空中でキャッチ。軽く拭いて、シャリシャリと食べ出した。
「どういうことですの??」
「聖女ちゃんの杖って覚えてる?」
「あの神話の遺物ですか……」
「そのお仲間だよ。帝都学院にあるダンジョンで僕が発見したの。これだけは先に確保しておきたかったから、子供の時にね。アイテムボックスって言って、大きな物でも何個も入るし、腐る心配もないんだよね~」
「陛下の剣とルイーゼの杖以外にも、アーティファクトがあったなんて……」
「大発見でしょ? でも目立ちたくないから、カバンとかで偽装しているってわけだ」
「どうりであの日、手ぶらで現れたわけですわね……」
エステルはフィリップが訪ねて来た日や、持っているはずもない物を取り出す行為を思い出してブツブツ言っている。
フィリップはエステルが怒っているように見えるので、さっきかじったリンゴを丸々食べていた。
そうしてエステルがなんとかアイテムボックスの存在を飲み込んだら、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえば、どうやって勅令書を奪って来たか聞いてませんでしたわね」
「忘れてくれていていいのに……」
「騎士たちの動きが早いところを見ると、無理矢理奪って来たとはわかりますわよ」
「ブブー。無理矢理じゃありませ~ん」
「じゃあどうやりましたの?」
「まずは、僕はコッソリとつけて……」
フィリップ、盛大な嘘を語る。
コッソリとつけていたのは本当なのだが、伝令騎士が富裕層の区画に入ってしまったので慌てて近くの木を登り、壁を越えて屋根を飛び交いつけていたので、そこは端折ったからエステルには嘘っぽく聞こえている。
宿屋に入る姿を確認すると素早くバルコニーから中を覗き、伝令騎士をなんとか見付けたら、コッソリと中に侵入。お風呂らしき部屋に入る姿を確認して、ドアの隙間から覗いたのだが「どうして男の裸を覗いているんだ」と後悔したらしい。
悔やみながら伝令騎士の行動を見ていたら、体に何か巻き付けたままお風呂に入ろうとしたので、慌てて押し入りチョップで気絶させたとのこと。エステルには1回で気絶させたと言ったけど、本当はなかなか気絶しなかったから5回だ。
そこで巻き付けた物を見たら手紙だったので、着ていた服以外の全てを伝令騎士のカバンに押し込み、屋根を飛び交い逃げて来たらしい。
「思ったより覚醒が早かったみたいだけど、姿は見られてなかったからセーフってことで」
「無理矢理で間違いなくてよ?」
しかし、内容はエステルの言う通りだったので論破されていた。
この日は、宿屋の主人に無事な部屋はないかとお金を多く払って案内させ、早くに就寝する2人であった。
アルマル領でのやることが終わったら、さっさとおさらば。フィリップとエステルは暗いうちに起きて、正門に向かった。
「ふぁ~あ。まだ開いてないね~」
「まだ暗いですからね。今日、出発できるかどうか……」
正門は物々しい雰囲気。大勢の騎士や兵士の姿があり、その近くには数組の行商人が正門が開くのを待っている。
フィリップたちは並ぶのが目に見えていたから早くに来たみたいだけど、皆も同じことを考えていたからさすがに1番手にはなれなかったようだ。
その行商人の後ろにつけたフィリップたちが聞き耳を立てていると、持ち物検査や身体検査を受ければ外に出してくれるらしいので、静かに順番を待つ。
定時となり、正門が開くと先に検査を受けていた者は外へと出て行き、フィリップたちの検査の番となったが問題が発生。
「ゲヘヘ……」
「お姉ちゃんに汚い手で触らないでよ」
兵士の1人が気持ち悪い笑みを浮かべてエステルの体をまさぐろうとするので、フィリップが揉め出したのだ。
「なんだこのガキ。俺様は正当な理由で体に触れることが許されてるんだよ」
「だったら女の兵士に変われよ。そのために配置されているんでしょ?」
「いいや。ただの応援だ」
スケベ兵士はどうしてもエステルの巨乳を触りたいのか引くことをしらないので、フィリップは銀貨を3枚取り出して握らせた。
「ああん? なんだこの金は??」
「足りないの!? じゃあ、もう2枚足すよ!!」
「だから……」
「ありがとう! 女性のみなさ~ん! 銀貨5枚で女性の兵士に変えてもらえるから準備しておいたほうがいいよ~!!」
「おまっ……大声でなんてこと言うんだ!?」
要求もしていないワイロを大声で宣伝するものだから、スケベ兵士の元へ非難轟々。女性からは軽蔑の眼差しを受けて、スケベ兵士は涙目になっていた。
その騒ぎを聞き付けた上官がやって来たら、スケベ兵士は荷物係に変更。スケベ兵士の話を信じたいようだったが、民衆を押さえるためにはこうでもしないと収拾がつかないのだろう。
ワイロは取らない、女性には女性の兵士が検査すると約束して、民衆は落ち着きを取り戻すのであった。
「民衆を引き入れるなんて、悪知恵も働くのですわね」
「僕のカリスマで民衆が力を貸してくれたと言ってくんない??」
わりとあっさり町の外へ出ることのできた2人は、意見が平行線のまま辺境伯領に向かうのであった。
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