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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
015 勅令書強奪事件1
しおりを挟むエステルが正門の方向に目線を送ると、フィリップも気付かれない程度に目線を送る。
「あいつね……」
そこには、多少汚れているものの、白地に青と緑のストライプで装飾された立派な服を着た男が、馬に乗ったまま大通りを進んでいた。
「んで、これから宿屋で汚れを落としてから、領主の館に行くんだよね?」
「ええ。皇帝の使いが汚れたままでは、威厳が損なわれますからね」
「わかった。お姉ちゃんは奥で待ってて。話は通してあるから」
「わかりましたわ」
2人は立ち上がると別々の方向に歩き出す。フィリップは馬に乗った伝令騎士を追い、エステルは体調の悪い振りをして大衆食堂の中に。これはエステルの安全のために前もっておばちゃんにお願いしていたから、2階の部屋を借りられるのだ。
それから小1時間ほど経つと、フィリップがエステルを迎えに来た。
「思ったより早かったですわね。首尾はどうなりましたの?」
「バッチリ! 今日はもう宿に戻ろう」
詳しい話はあとから。大衆食堂のおばちゃんには長い間世話になったことと、兄が見付からないから他の町に行くと嘘を言って別れを告げる。
そうして宿屋に戻るとエステルからの催促が来たので、フィリップはショルダーバッグから大きな革製のカバンを取り出して開ける。
「どう考えても質量が違うのですけど……」
「そんなのあとあと。辺境伯宛の手紙は……あったあった」
エステルが質問しているのにフィリップはカバンの中に入っていた服やら食料を掻き分け、数通の手紙の宛名を確認して、ダンマーク辺境伯宛の手紙の封蝋をちぎり取った。
「ウソでしょ……」
そして手紙を読みながら顔を青くする。
「わたくしにも読ませてくださいませ!」
手紙を読み終えたフィリップが差し出すと、エステルは奪い取って読み出した。
「な、なんてことですの……」
その内容は、エステルも到底耐えられる内容ではなかった。
農奴、借金奴隷、性奴隷は、この手紙が届いた5日以内に全て解放すること。
守られない場合は領地と爵位を没収すること。
命令に背く場合も領地と爵位を没収すること。
なお、各地に審査官を送るから、隠し通せないこと。
何かの間違いではないかとエステルが何度も読み返していると、フィリップが口を開く。
「予想より酷い内容だったね……」
「はい……この目で見たのに信じられませんわ……それに奴隷の事後処理がまったく書かれていませんわよ! たった5日しかないのでは、誰もどうするか決められませんわ!!」
「シッ! 声が大きい。抑えて」
「……申し訳ありません」
エステルが興奮を抑えて俯くと、フィリップは静かに語る。
「あいつら、どうして奴隷になっているかわかってないんじゃない?」
「ええ。借金奴隷と性奴隷は、借金が返せないから働き口を斡旋してますのに……」
「まさかそこまで手を付けるとは……普通、一生抜け出せない農奴だけだと思うよね?」
「はい……陛下もルイーゼもアホですの? あの聡明な陛下はどこに行ったのですの? ルイーゼのアホがうつったのではなくて??」
「プッ……アレだけ兄貴に固執していたのに、アホアホ言いすぎ。アハハハ」
「笑いごとじゃなくてよ!!」
フィリップが笑うとエステルの声が大きくなったので、宥めてから話し合う。
「まぁうちはもう少し準備期間があるから、なんとかするしかないよ」
「はい。エリクから聞いていなかったらと思いますと、ゾッとしますわ」
「そういえば、みんな僕のこと疑っていたよね? 謝罪も感謝の言葉も聞いてないんだけど~?」
「申し訳ありません。感謝しますわ。これでよろしくて?」
「もっと心を込めてよ~」
「精一杯込めましたわ」
エステルは奴隷解放のことで頭がいっぱいなので、何度も謝罪と感謝の言葉を言わせても、全て棒読みにしか聞こえないフィリップであった。
そんなことをしていたら外が騒がしくなったので、フィリップは出した物を全てショルダーバックに片付けて窓を開けた。
「お祭り騒ぎだね~。アハハハ」
「勅令書を奪われたのですからね。取り返そうと必死になるのはわかりますわ。エリクがのん気な理由はわかりませんが」
外は騎士や兵士、馬がひっきりなしに走り回る事態。人々は持ち物検査や身体検査を無理矢理やらされているから迷惑そうにしているが、騎士たちが剣を抜いているので強くは言えない。
当然、家捜しをする者もいるので、宿屋や他領の者は格好の的。フィリップたちもしつこく検査をされて、部屋が荒らされていた。
「あ~あ。ベッドまで切りやがって……どこで寝ろっていうんだよ」
暴れる兵士が出て行くと、フィリップは切り裂かれたベッドの端に腰掛けた。
「それより……あの大きなカバンをどこに隠したのですの?」
しかし、エステルとしてはそれよりも気になることがある。勅令書と共に奪って来たカバンはフィリップの小さなショルダーバッグに入ったように見えたので、そのショルダーバッグを兵士に奪われた時には気が気でなかったのだ。
「ちゃんとここに入っているよ。ほら?」
「そんな穴だらけで見付からないわけなくてよ!!」
切り裂かれたショルダーバッグから大きなカバンが出て来ても、到底納得のいかないエステルであったとさ。
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